”天使のしたいを無視したい”
母が、冠堂会の定義する”神様”に当てはまる人物であったのだ。
私が物心ついた時には呼吸器をつけ、植物人間状態であったが。
不死の力だけが残されて、それ意外の力は全て人間に与えてしまった。もう誰にどの力を渡したのかも判別できない程、昔からずっと。
平たく言うと、不死の力を得るために人間に食われる人魚のような、人間に力を与えるだけの機械のような、神とは到底言えない搾取されるだけの存在だった。
とはいえ、体の耐用年数に限界がきていることに、母を管理していた人間は気づいた。そうして生まれたのが私だ。
つまり、私は2代目の神なる機械になる予定だったのだ。
もちろんそんな拷問みたいな状況になるのは御免だ。
ある日私は脱走した。本当は全員殺してやりたかったがそんな力が無かったのだ。
逃げた先で、お金持ちで、賢くて、かわいらしくて、とにかく恵まれている、白い髪の天使みたいな少女に出会った。それが、天使富慈美だった。
天使は私を匿ってくれた。そんな夢物語みたいな話を信じて。
しかし、天使は、私にとって嫌いな人種だった。
自分より恵まれているから自分が惨めに思えたし。自分より良い子だから自分がまるで極悪人のように思えた。ひどい目に合わせて自分より惨めな状況にあってほしかった。だから、利用するだけ利用しようと思っていたのだ。
ある日、母を管理していた団体が私を捕えに来た。
私が利用するまでもなく、天使はあっさりと私を庇って死んだ。
幼いからだで、弱いくせに、なにもできないただの人間のくせに。
それではまるで私が悪いみたいではないか。
とにかくその行動がムカついた。自分が綺麗にみられることしか考えていない。残されたものの気持ちなんて考えもしない行動が。
私はその時、逃げようと思えば逃げれた。
しかし、それをせずあえて管理団体に戻った。
天使へのせめてへの意趣返しで行動を天使の行動を無駄にしてやろうと思ったのだ。そうなのだ。
そして、私は帰るなり、母の身体を食いちぎって、無理矢理神の座を手に入れた。
管理団体全員を振り切り、逃げ出した。
不死の力を失った母は恐らく、私のその行動によって死んだ。それだけが気がかりで、母と喋ったことすら無いのにちょっと泣いた。
この涙を優しく拭ってほしかった。タンポポみたいな笑顔に癒されたかった。綺麗な声で許してほしかった。震える手を握って欲しかった。
なにより、その美しい生き様をもっと見せてほしかった。
こうして私は天使を生き返らせたのだ。
しかし、運命が帳尻を合わせるように天使を殺す。
時には事故で、時には人災で、
そして、神である私が愛する人間を、神の候補である神子は無意識に敵意を向けてしまうらしい。
とにかく天使はよく死んだ。
そのたびに私は天使を手放したくなくて生き返していた。
そう。天使が死ぬたび生き返らせているのは、
この世界に天使を縛り付けていたのは、私だった。
神に愛された哀れな女。神を惑わせた罪深い女。
今度こそ、今度こそ殺さなくては、殺したい。殺したい。大嫌い。
愛しいから殺したい、憎いから殺したい。
解放したいから殺したい、解放されたいから殺したい。
私は、天使の死体に触れる。殺さなくては。
「……起きろ、何しているんだよ…」
できるわけがない。
私は、一度だって天使の姿態を、慕いを、"したい"を、死体を、無視できたことなど無いのだから。
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