天使の死体を無視した意

死んだ天使はピクリとも動かなかった。とうとう生き返らなかった。


「やった、やった、やはり自死には不死が適用されないのか・・・!!!」


恵果はテンションをみるみるとあげたと思いきや、私を見てスっと熱が引いた


「一言もやめろとは言いませんでしたね」


恵果は動かなくなった天使を冷ややかな目で見ながら私に言った。


「止めた方がよかったですか」

「いえ、ちょっと貴女に失望しました。天使さんとは仲良しなものかと思っていたので、いざって時は自分の命を優先するのだなと」


私は天使を殺したいと願う人間だ。そんなことするわけないだろう。

ある意味、これは私が天使を殺したと同義だ。

ついに、夢を叶えたと言ってもいい。喜ばしいことだ。


「まぁ、結局貴女も殺しますけどね。」

「罰が当たりますよ」

「はは、たった今、神は殺しましたよ。私が最も神子の力を多く持つ、なんでもできる神になったのですから。罰を当てられる存在なんていませんよ」


恵果は有頂天になっている様子だった。最強だと思っていた天使をようやく殺せたことで晴れ晴れとしているのだろうか。


「貴女の正直さに免じて遺言は聴いてあげましょう。貴女は宵華様のお気に入りですから」

「そんなに宵華の事が好きなのに、宵華の事を解放しようとは思わないのか。」


「は?」


高揚していたテンションが地面にぶつけられたかのように、恵果は声のトーンを一気に落とした。


「夏川さん、貴方は素の口調はそんなに悪いのですね」

「宵華と一緒だ。あの子は素の口調の方がかわいらしい。」

「そんなわけないでしょう!!!!!!!!」


これまでで一番大きな声だった。耳元で叫ばれたものだから耳がキーンと痛む。


「あの方は、あの方は神様でいてもらわないと困るんです。威厳をもって、神様をしていただかないと……浦子や貴方が宵華様を人間世界に引っ張り出そうとするたび、ハラハラハラハラして、ムカついて、怖くて……こっちがどんな気持ちだったかと」

「どうりで少女漫画を読ませないわけだ。普通の世界に憧れを持って神様を放棄したらお前にはたまったものではないからな。」

「……私は生まれてからずっと宵華様に仕えて生きてきた。私だけじゃない。お母さんもお父さんもおばあちゃんもみんなが冠堂坂家に尽くしてきた…いきなり神様があらわれてかっ攫われでもしたら、私達はどうなる?神でもない人間に仕えて一生を終えた私達はどうなるのですか?」

「仕事ってそういうものでしょう?神でもない人間に仕えてお金を稼いで、みんな人間はそうして生きてるじゃないか。」

「神様が現れた途端職を失うんですよ?死ぬまでこの不安を抱えながらいろと?」

「じゃあ、高校生のうちに、神様が現れてラッキーではないですか。結局貴女は変化を恐れて、何も考えず宵華に仕える日々を失いたくないだけの面倒くさがりなだけの女でしょう」


恵果は押し黙る。返す言葉が無いというわけではなさそうだ。怒りを収めるように深呼吸をする。


「状況わかってます?よく煽れますね」

「煽り?事実を述べただけだ」

「度胸だけはありますね。自暴自棄になってるんですか?」

「どうかな。でもお前に感謝はしているよ」

「は?」

「天使を殺してくれてありがとう。私は奴をずっと殺したかったんだ」


そして、私は、


「?!なんです今の」


そして、生えている木を急速に成長させ恵果を捕える。辺りから見えないように公園を結界で包み、念動力で眠っている浦子を安全な場所に移動させた。


「貴女も神子でしたか……」


恵果は天使にやったように土を盛り上げて私を包囲する。なので私は片手を振り下ろして元に戻した。


「なんですか」


今度は炎に焼き包まれる。私はそれも振り払った。


「なんなんですか」


恵果は尻もちをつきながら私から遠ざかろうとする。

近寄るなというように、今度は天から槍を落とした。しかし、私はそれも振り払う。


「力を無効化する能力とでも言うんですか?」


恵果は様々な攻撃を繰り出すが私には効かない。当たらない。


「でも残念でしたね。私は神なので」


恵果は冷や汗をかきつつも、指パッチンをした。


「こんなこともできるんです」


全ての動きが止まる。時が止まったのだとすぐにわかった。


「どんな強い神子の力を持っていても使う前に時を止めてしまえば……」


私はそれも振り払った。


「……この力すら無効化してしまうんですか」


私はゆっくりと恵果に近づく。


「無効化?知らない力だな」


私は今度は恵果を閉じ込めるように氷の檻を作り出す。

再び時を止めたようだが、それをも振り払った。


「なんですか、なんなんですか…!?」


「”それ”は私のものだ。返せ。」


恵果はとうとう、小動物のように青い顔で震えるだけとなった。


「もしかして…もしかして…」


私は恵果の服を透視し、隠しているナイフを全て念動力で捨てた。


「もしかしてあなたが…!!!?」


「あの日の恋バナの続きをしましょうか。恵果さん。」


私は恵果の顔を無理やり引き寄せ、囁いた。



恵果の全身の力が抜け、白目を剥いて地面に倒れた。


「恥ずかしいから天使にだけにはバラすなよ」

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