天使の肢体を無視したい~こうして私は現場に向かう~
天使と屋上ダイブをかました後、私は宵華と共に匿われることとなった。天使曰く、宵華とさえいれば絶対に私は無事ですむらしい。
代わりに天使は犯人を捕まえると言って、冠堂会のほとんどの会員を引き連れて外に出ていった。一体何をする気なのだろうか。
「役得じゃ」
「そうですね。皆さんが頑張っている間にこんなにカワイイ子とイチャつくことができるのですから」
「はわっ、水姫もそんな冗談言うんじゃな…」
かわいらしいと思っているのは本当だ。そのはにかんだ笑顔がこれまた庇護欲を掻き立てる。
「役得という割には暗い顔をしていますね。私じゃ不満でしょうか。恵果さんも付けますか?」
「いじわるじゃ。ハッピーセットじゃないのじゃぞ。それに妾、水姫とゆっくりおしゃべりできるのはかなり楽しい」
「では何故浮かない顔をしているのです?」
「……妾は、せっかく力があるのに、役に立つことができないのが歯がゆい」
そう言って、宵華は動かない脚を撫でた。
「貴女が人間でいたいのなら。人から貰った力で役に立とうだなんて考えるべきではありませんよ」
「水姫は妾が人間になれると思う?」
「思いますよ。天使よりもよっぽど人間らしくて好感が持てます」
宵華の浮かない顔が少しだけ晴れた。
「妾。実はあんま神様やりたくないのじゃ」
薄々冠堂会の連中が感じとっていたこの感情を、はっきりと言葉にしたのは初めてだったのだと思う。宵華の目にはほんのりと涙が浮かんでいた。
「いつか神様が迎えにきて、妾を開放してくれるのをずっと待ってた。いるのかもわからないのにね」
その言葉には、長年その"神様"が現れなかった諦めと絶望が詰まっていた。
「妾にとって、神様は白馬の王子様なのじゃ。いつかここから救ってくれるといういるかもわからない希望の存在。それがいるかもしれないだけでこの現状を絶望せずにいられるそんな、存在」
私は「そうですか…」と、恐らく返事としては、そっけない部類に入る返事を返してしまった。
宵華は私によっかかる。
「……水姫は神様いると思う?」
意外にもその問いに、私はしっかりと答えることできた。
「宵華。神様はいますよ」
どちらかというと現実主義である私がハッキリとそれを口にしたことに、私も宵華も驚いていた。
「あれだけ神様に愛されている女がいるんです。恋は諦めた方が良いとは思いますが、希望を持つべきです。」
私は気づいたら立ち上がっていた。
「水姫、どこ行くの?」
宵華は不安そうに尋ねる。
「思いついたことがあるのです。今から天使の元に行ってきます。」
「待って、妾、水姫に死んでほしくない…!」
宵華は咄嗟に手を伸ばす。一瞬体がかなしばりにあったように固くなった。神の力の1つだろう。私は深呼吸をしてゆっくり話した。
「宵華。私はあなたが思っている程良い人ではありません。むしろ貴女を絶望に堕とすような存在です。」
「水姫…?」
「それでも、少しはあなたの状況が好転するようにできます。」
私は宵華のかなしばりを振り切った
「私なら大丈夫ですよ。よかったら見守っててください。貴女にはそれができるでしょう?」
----------------------------------------------------------------------
「ねぇ~天使ちゃん。冠堂会から全員出して大丈夫なの?」
「そうですよ。宵華様が心配です。せめて私ぐらいは冠堂会に戻った方が……」
「いえ、いえ!大丈夫です。むしろあの場は最も安全な場所とも言えるでしょう。」
天使と浦子と恵果。見慣れたメンバーと行動を共にしていた。
「天使さん。貴女はもう犯人がわかっているのでしょう?何故追い詰めないのですか?」
恵果が責めるように天使に言った。
「恵果~だから今追い詰めてる最中なんじゃないの?」
浦子が恵果を窘めるが恵果は、不満そうに天使に詰め寄る。
「宵華様と水姫さんを2人きりにしたのは何か意図があってのことで?」
「だから、それは2人が犯人に狙われないようにってことでしょ。」
「じゃあ、何故誰一人神子を冠堂会に残さなかったのです?」
浦子は答えに詰まる。天使に助けを求めるように視線を向けた。
「多分、時を止める力だと思うんです」
ずっと微笑んで2人の会話を聴いているだけだった天使が突拍子もない事を口にした。
「それで、時が止まった世界で人に火をつけることで神子の力のように見せた」
「えっと…犯人の力のこと?確かにそれなら説明つくけど…そんな強い力をもった人をどうやって捕まえようとしてるの…?」
浦子の問いには答えず天使は続けた。
「例えば、坂の夜はきっと私を遠くにバラバラにして違う場所に持って行った。それでも私は生き返ってしまった。灰にしても、埋めても、私は生き返る。そして最後に、私が本当に神に愛されているから死なないという言葉から、神が嫌う自殺のように見せて殺してみたりしたのでしょう」
「いや、犯行の動機はわかったよ。犯人は誰…?この中に時を止められる力を持った人なんて…」
「例えば、今時を止めます。」
天使は浦子の言葉を遮ってニコリと笑った。
「それから数十歩歩いて時を動かす。そうすれば瞬間移動をしているように見えますね」
それは答えを言ったようなものだった。浦子の顔が青ざめる。
「ちょっと待ってよ天使ちゃんそれって…………っ」
そこまで言いかけた時、浦子は身体の全ての骨を抜き取られたように崩れ落ちた。
「……眠らせただけですよね?」
天使は言った。目の前の少女に。
浦子を倒した少女は答えを出し渋ってから無言でゆっくりと頷く。
「大親友には聴かせたくなかったのですね!よかったです仲良しのようで!」
少女はまだこの状況でもにこやかでいる天使に少々怯む。
「わからなかったのです。あの日何故浦子さんまで襲ったのかが。あんなに仲良しのようなのに」
「……浦子は計算外だった。貴女を殺して血を吸い取れさえできればよかった。炎の力をあの男のもののように見せるためにちょうどよかったのです」
犯人の少女は低い声で口を開いた。
「なぜそんなことを?宵華さんに力を集めるためでしょうか?」
「なんで、なんで貴女にそんなこと話さなくてはならないのですか」
少女がそう言うと、天使は槍のような先のとがった形状のものに貫かれていた。
天使は「カハッッ」と苦し気に血を吐き出す。
「なんとしてでもここで殺すので、動機の説明は不要です」
しかし、次の瞬間には槍は消え、天使は元通りに戻っていた。
「……やはり天使さん。貴女、異常ですね」
「神に愛されていますので!」
今度は大きく天使が燃え上がるが、すぐに天使は生き返る。
「死を無くす力なんて人間を根本から否定する力を神が人に与えるわけありません」
「はい。なので私は神の好意で生き返っています」
土に埋まっても、体がバラバラに切り刻まれても、天使は一歩一歩と生き返って少女に近づいてくる
「貴女の血をいくら呑んでも貴女からはその力が消えることは無かった」
「はい。繰り返しますが、これは私の力ではなく、これは私が神に愛されている証、唯一神と繋がれる愛の証なのですから!」
「話になりませんね。まだ気づかないのですか」
天使は首をかしげる。
「貴女でしょう。神は。」
少女は言った。
「貴女たちを、屋上から落とした時、あんな場所に人が2人落ちれる植木なんてありませんでした。男を捕まえる時、何もしていないのに男を転ばせていました。成人男性を組み敷ける女子高生がいるとも思えません。貴女、無自覚で使っているんですよ、力を、神の力を。そして宵華様以外に神の力を複数持つものなんてありえない。血を吸っても力を得られないのはそのせいだ!!」
「なるほど、それを見て貴女は私を神だと勘違いしてしまったのですね!!どれもこれも私が神に愛されている故、神様が手を貸してくれただけなのですから」
天使はやはり話にならなかった。本当に馬鹿だ。あまりの話の通じなさに犯人の少女は苛立ちのため息をついた。
「恵果さん。貴女こそ時を止める以外にも炎をだしたり、槍をだしたり素敵な力をお持ちのようですね!!宵華さんに預けないのですか?」
そしてトドメの言葉で、犯人の地雷は踏み抜かれたらしい。
「預けませんよ……そんなことしたら本物の神様が回収しにきてしまうかもしれないでしょう……いえ、貴方がその"神様"とやらなら心配はないのかもしれませんが」
そして犯人の少女、南雲恵果は言った。
「まぁ関係ないです。私が神になるから。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます