噂される祟り⑩




ただ友絆は、水都が言ったこと全てに賛同することはできなかった。 大きく首を振り、説得するように伝える。


「いや、そんなことはない。 有純がいるだろ。 水都と同じ考えの」

「そう、有純ちゃんがいる。 有純ちゃんも僕と同じで復讐の道を選ばなかった」


情緒が安定していないのか、今度は嬉しそうに笑い出す。


「それが凄く嬉しかったんだ。 だから僕はここで、有純ちゃんと二人で暮らしていこうと思った」

「やっぱり森の神、水都は、悪口を言われても復讐をせず、人も恨んでほしくなかった。 それが本当の望みだったんだな」


あの時に成り行きで言った言葉だったが、どうやら当たっていたようだ。


「・・・うん、そうだよ。 友絆と有純ちゃんが二人で話しているところ、傍で聞いてた。 よく分かったね友絆。 それに気付いてくれたのは、友絆が初めてだったよ」


それにも嬉しそうな顔をする水都にある提案を持ちかける。


「・・・なぁ、水都。 有純の代わりに俺がここに残ってもいいか?」

「友絆が? どうして? ・・・あ、もしかして償い?」


水都は思い出したようにそう言った。


「あぁ。 俺が水都を救ってやれなかったという理由もある」

「それはもういいのに。 本当に気付かなかったんでしょ?」

「水都がよくても俺がよくない。 だから今からでも水都のことを近くで守っていたいんだ」


意思が揺らがない友絆を見て恐る恐る尋ねてくる。


「・・・本当にいいの?」

「もちろん。 こんなところで一人でいるのは、流石に寂しいだろ」


水都はそれに苦笑する。


「有純ちゃんを帰す前提か。 ・・・でも、ありがとう。 もう僕は一人ぼっちじゃないんだね」

「あぁ。 俺はずっと水都の味方だ。 いや、最初から俺は水都の味方だった」

「うん。 あの時、友絆のことを素直に信じられなかった僕が憎い」

「じゃあ有純はこのまま帰してもらって・・・。 あ、そうだ!」

「何?」


有純のことを思い出していると他の仲間のことも思い出した。


「実は今、岩太たちもこの森にいるんだ!」

「有純ちゃんを捜しに?」

「有純と水都を捜しに」

「僕も入っているの・・・?」

「当たり前。 だけど岩太たちは災いに巻き込まれたのか、大変なことになっていてさ! どうにかならないか!?」

「災いって、例えばどんな?」

「雷が近くに落ちたり、ツルが足に絡まったり! 本当に自然現象みたいなものだ!」

「自然現象なら僕も分からないよ。 僕が仕掛けたわけではないんだし」

「え、水都がやったんじゃないのか?」

 

その言葉に水都は参ったように溜め息をついた。


「僕にどんな力があると思っているのさ・・・。 たまたま悪い出来事が重なっただけじゃない? すぐに助かるでしょ」


どうやら嘘はついていないようで、本当にただ偶然運悪く自然現象に襲われただけらしい。


「そうか・・・。 この森のせいではないなら大丈夫か」


本当に大丈夫なのかは分からないが、災いではないのならまだ安心だろう。 沈黙が訪れるといくつかの疑問が浮かんできた。


「なぁ、いくつか聞いてもいい?」

「何?」

「ここへ来たら、魂が吸い取られるって言うじゃん」

「いや、吸い取られないよ。 さっきも言ったけど、身体は消えないんだ。 だから吸い取られるわけがない」

「あ、そうか・・・。 じゃあ、ここへ来た人はみんな自殺するっていう話は?」

「それは本当だよ。 みんな人を呪いに行った後、スッキリした顔でここへ戻ってくるんだ。 そして『もうやり残したことはない』とか言って、自ら死んでいくんだよ」

「・・・」


まさかの答えに言葉を失った。 ただそれは一種の暗示みたいなものなのだろう。 恨みから簡単に人を貶めてしまうとは考えたくないが、最終的に自殺してしまうのは本当のようだ。


「人を簡単に呪ってしまうなんて、生きる価値がない。 そう思ったから僕は止めなかった。 人の死体を人の目につくところまで運ぶのは大変だったよ」

「そういうことだったのか・・・」


人の死体を運ぶだなんて、考えただけで身震いしてしまうくらいだ。 それを水都は一人でやっていた。 伊達に長い間この森で過ごしてきたわけではないが、それでも少しばかり驚きを隠し切れない。


「ッ!?」


話していると霧の奥から人の気配がした。


「しッ、静かに」



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