噂される祟り⑪




「誰だろう? もしかして、悪口を言われた新しい子かな」


友絆からしてみれば水都の物言いは能天気過ぎると思えたが、そこには触れず注意深く気配の先を観察した。


「俺が見に行ってくる。 もしそうだったら、説得して帰ってもらうよ」


自殺しようとしているのか、復讐しようとしているのか。 それは分からないが、はぐれた三人でなければあまり出会いたくはなかった。 進める足に緊張感が重しとなる。 

そのような状態だったため水都に腕を掴まれ驚いてしまった。


「ッ!?」

「待って! 僕を一人にする気!?」

「大丈夫、すぐに戻るから。 水都を置いて帰るわけがないだろ」

「でも! ・・・分かった」


まだ不安気だが腕を放してくれた。 友絆は一人で霧を抜ける。 すると泣きながらあちこちを捜し回っている有純を発見した。


「友絆くん! 友絆くん! どこ!? いたら返事して!」


どうやら友絆を捜してくれていたらしい。


「有純」

「・・・! 友絆くん!」


名を呼ぶとそれに気付いた有純は近寄ってきた。


「どうしてこんなところにいるんだ? 他のみんなは?」

「無事に救出してみんな合流できた。 あとは友絆くんだけなの! 友絆くんだけが犠牲になっては駄目!」

「・・・」


―――そうか、有純はこの森の真実を何も知らないから・・・。

―――この森は何もなくて安全なんだよな。


彼女もこの森には祟りが関係してると思い込んでいる。 だがそれは水都の言葉で間違っていたと分かっていた。


「大丈夫だよ、有純。 ここにいて何も悪いことはない。 俺はこの結果でいいと思っているんだ」

「でも・・・」

「有純は、森の神が水都だって知っているんだろ?」


そう言うと有純は驚いた顔をしながら頷いた。


「友絆くん、水都くんに会ったんだ」

「あぁ。 水都を一人にはしたくない。 この気持ちは有純にもあったはずだ」

「そう、だけど・・・。 でもこれ以上、仲間を失いたくないの! だったらお願い、一緒に戻ってきて」


その言葉を聞いて今度は友絆が驚く。


「・・・その考えはなかったな。 有純は『一緒に出よう』って、水都に言わなかったのか?」

「何度も言ったよ! でも、断られるばかりだった。 私は二人を置いては帰れない」


そこまで言うのなら友絆の気持ちも固まった。


「・・・分かった。 水都に話してみるよ」

「本当?」

「あぁ。 でももう外は真っ暗だ。 みんなを連れて、先に森から出ていてくれ」

「・・・うん、信じて待っているからね。 二人は戻ってくるって」


それに頷くと友絆が先にこの場を離れた。 その背中が見えなくなるまで見送ると、有純は深い霧の中へと戻っていく。 友絆の姿を見て水都が駆け寄ってきた。


「友絆! 戻ってきてくれてよかった・・・」

「戻ってくるって言っただろ。 それより、霧の外にいたのは有純だった」

「え、有純ちゃん?」

「・・・俺たちに、戻ってきてほしいって。 なぁ、一緒に帰らないか?」


そう言うと水都は困った表情を見せる。


「確かに友絆がいてくれるなら、森の外は安全だと思う。 だけど、僕たちがここを離れるとどうなると思う?」

「またここへ悪口を言われた子が来続ける、って?」

「そう。 もう僕には友絆が付いているから、次自殺をしにここへ来た人には説得して帰ってもらおうと思っていたんだ」

「でも、それを止める人がいなくなると」


それに水都は頷く。


「呪いを促す僕がいなくなるから呪いはなくなるだろうけど、自殺する人はこれからも増え続けると思うよ」


不安そうな顔を覗かせる水都に自信あり気な笑みを見せた。 水都はずっと森にいたから街のことを何も知らないのだ。


「あれ、有純から聞いていないのか? 水都があの言い伝えを広めたことによって、この街では悪口を言う人や自殺をする人がかなり減ったんだ」

「・・・え、そうなの?」

「あぁ。 森の神である水都が普通の人間に戻った。 それを言わなければ、あの言い伝えはずっと信じられ広がるままだと思う」


噂の元である水都は複雑な顔をする。


「だからもう大丈夫だよ。 もし水都がまたいじめられそうになっても、今度は俺が守るから」


そう言って手を差し出した。 水都は躊躇いながらもその手を取り握り返してくれた。 有純を除く三人は水都の帰還に大層驚きを見せたが、順序を追って説明し納得してもらうことができた。 

だがもちろん、そうすんなり解決することはなく、水都の両親との激しいドラマがあったことは言うまでもないことだろう。



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