噂される祟り⑨
祠の前にいる少年が不思議そうに見つめてくる。
「どうしてここが分かったの? 深い霧の中にあるから、普通は迷子になるはずなのに」
「心からここへ辿り着きたいと願っていたら、自然と道が開けるんじゃないか? 水都」
「・・・」
森の神というのは水都のことだった。 そしてあの言い伝えも水都によって作られたものだと思った。 そのことについて詳しく聞きたかったが、今はそれどころではなさそうだ。
「ねぇ、僕の有純ちゃんはどうしたの? 返してよ、今すぐに返してよ!」
「有純は人を呪ったりなんかしていない。 だからこの森から出しただけだ」
「僕の許可もなしに出したことが許せないんだよ!」
感情だけに任せる水都に友絆も負けてはいられない。
「水都こそ、どうしてこんなところにいるんだよ!」
「・・・いじめられて、辛かったからだよ。 それ以外に何か理由ある? 死のうと思ってここへ来たんだ」
今の彼の状況を見て友絆は言った。
「だけど、死ねなかったと?」
「・・・そう。 僕には死ぬ勇気なんてなくて。 僕をいじめた奴らにも復讐をしたかったけど、怖くてできなかった」
「だったら戻ってきたらいいじゃんか!」
その言葉に水都は首を横に振る。
「何の勇気も持てない僕は駄目な人間なんだ! 生きる資格なんてない。 だからここにいると決めた」
「・・・」
「友絆だって、僕を助けてくれなかったじゃん。 僕が好きな有純ちゃんだって奪ったじゃん!」
「だからそれは」
「別に友絆のせいでここへ来たわけではないよ。 だけど僕の味方をしてくれなくて、凄く悲しかった」
「・・・水都」
小さく名を呼ぶと急に水都は叫び出した。
「なのに、なのにどうして邪魔をするの!? どうして僕にまた嫌がらせをするの? 友絆は一体僕に何をしたいの!?」
「そんなことは一切していない、誤解だ! 水都を見捨ててなんかいないし、俺と有純は付き合ってもいない」
「でも有純ちゃんは友絆のこと好きなんだよね?」
「それは・・・」
先程本人から聞いた言葉に嘘をついて否定することはできなかった。 言葉に詰まってしまうと水都は溜め息をついてみせる。
「それに、みんなもみんなだよ。
ここへ来た悪口を言われた子は、自殺をするためにここへ来たんだろうけど『自分の悪口を言った子に復讐ができるよ』って伝えたら、本当にみんな復讐しに行っちゃうんだもん」
「この森から出たら姿が消えるんだろ? だったら復讐をしに行っても、怖いものなしじゃんか。 自分の姿は誰にも見られない。 何をしてもいいんだから」
そう言うと水都は驚いた顔をした。
「・・・え、それ友絆も信じたの?」
「え?」
まさかの返しに友絆も驚く。
「いや、本当に姿が消えるわけないじゃん。 まだ生きているんだし」
「あの話は嘘だったのか?」
「当たり前だよ。 有純ちゃんもすぐに信じたから驚いたけど」
「へぇ、言葉って凄いんだな。 本当に信じ込ませることができるんだ・・・」
あれ程疑っていた友絆だが、仲間に災いが起きているのを見ていつの間にか信じてしまっていたらしい。
「僕は悪口だけじゃない。 直接手を出されていじめられていたんだ。 だけど復讐はしなかった」
「・・・」
そこまで言うと水都は目に涙を浮かべる。
「それなのに、どうして!? どうして悪口を言われたごときで、人に災いを与えることができるの!? 呪うことができるの!?」
「水都・・・」
「復讐ができなかった僕がおかしいの!? はぁ、もうよく分かんないよ・・・」
そう言って静かに泣いていた。
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