噂される祟り⑧




今度は岩太たち三人を探す友絆たちは、森の奥で耳を澄まし立ち止まっていた。


「・・・なぁ、今何か聞こえなかったか?」

「聞こえた! 助けを呼ぶ女の子の声・・・」

「細雪や姫依かもしれない。 行ってみよう!」


友絆と有純は声を頼りに森を歩き回った。 声には確かに近付いているのだが、段々と助けを呼ぶ声が小さくなっている。 距離が離れているのか、もう限界に近いのか、どちらにせよあまり時間はない。


「あぁ、よく聞こえない!」

「友絆くん! あっち!」


有純が指を差す方へ歩いていくと崖から落ちそうになっている姫依を発見した。


有純「姫依!?」

姫依「あ、有純・・・ッ! ごめん、ごめんなさい・・・! 全てはアタシが悪かったの。 でも死にたくない! お願い、助けてッ・・・」

「姫依を助けなきゃ!」


そう言って手を伸ばそうとする有純を友絆は止めた。 足場も悪いため女子二人で何とかできるとは思えない。


「有純、危険だ。 力がないと二人共落ちるぞ。 俺がやるから、念のためすぐにサポートできるようにだけしておいてくれ」


そうして友絆が姫依を引き上げた。 乱れた呼吸を整えると姫依はわんわんと泣いた。


「有純、本当にごめん! 有純は何も悪くない、アタシが勝手に一人で嫉妬していただけなの・・・!」

「・・・うん、分かってる。 私こそ、姫依が苦しんでいることに気付いてあげられなくてごめんね」

「有純・・・!」


二人が抱き合ったところを見るに、どうやら仲直りをしたらしい。 ただ感動の再会もいいが、岩太と細雪がここにいないことが気になった。 

雷もまだなり続いておりのんびりしてはいられないと考え、二人の間に割って入る。


「二人共、あまりのんびりはしていられない。 姫依、怪我はないか?」

「うん、大丈夫そう。 猪に遭遇して驚いちゃって!」

有純「猪? ここへ来るまでに会わなかったけど・・・。 もうどこかへ行ってしまったのかな?」

「そうかも。 友絆こそ、有純をどこで見つけたの?」

「え? あー、普通にいたよ、普通に」

「本当?」

「あぁ」


祠や森の神のことは言う必要はないと思って言わなかった。 有純も森を出れば幽霊になると言っていたが、今のところそんな様子はない。 姫依は自身が呪われているかもしれないと考えている。 

今悪戯に恐怖を煽ることはしたくなかった。


有純「それより、細雪ちゃんと岩太くんは?」

「そうだった! 二人共、大変なの! 岩太は足を木に下敷きにされていて、細雪は足に固くツルが絡まって」

「え・・・」

友絆「それは大変だ! 姫依、二人がいるところまで案内をしてくれ。 助けに行くぞ」

有純「・・・私のせいだ・・・」

「は?」

「私が森の神を一人にしたから! だから森の神は怒ったのよ!」

「何だよ。 神が怒って暴走したから、災いが起きているというのか?」

「分からないけど、この森なら可能性はある」

「そんな漫画のような出来事が本当に起こるわけ・・・」

「これ以上被害が出ないように、私戻らなきゃ」

「は!? おい待てよ!」

「お願い行かせて!」


行こうとする有純の腕を掴む。 姫依は状況が掴めず困惑していた。


―――有純から聞く限り、神には実体がある。

―――それに有純は神のことをこんなに心配している。

―――一体神って誰だ?

―――一人になると寂しがって、俺たちと歳は変わらないって・・・。


そこである一人の少年が友絆の頭には思い浮かんでいた。


―――ッ、まさか!?


「俺が代わりに行く」

「駄目よ、そんなの!」

「二人は岩太と細雪を助けにいけ! いいな!」


有純は泣き叫びながら止めてくるが、それでも構わずここを去った。 先程の深い霧の中まで戻ると、今度は大きな祠の前に一人の少年の影が見えてきた。 やはり自分の予感は正しかったのだと確信した。



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