第100話


「一応言っておくけど、攻撃できなくてもいいから魔力は自分の周りに展開しといてほしい。ひとまず何があるかわからないし、俺が先に行くから二人はあとからついてくる形で行こう。それともう一つ――後ろにも気をつけろよ」

 少し進んだところで立ち止まって念を押すように真剣な表情で言うミズキに、二人も同様の表情で頷く。


 それからミズキを先頭に洞窟内へ進んでいく。

 白魔導石で作られた洞窟は外とは違い、魔力が抜けきっていないものが多いようだった。


「これは、なかなかすごいな……」

 洞窟の中は壁全体にある白魔導石が特殊な魔力を帯びており、外にいた時よりも強い力でミズキたちの魔力を乱していく。


 ミズキはそれでも影響なく、自らを覆う魔力を一定に保っている。


「こ、これは、なんで、すか……」

「うぅ、き、きつい……」

 しかし、エリザベートとユースティアは外でならば魔力の展開がうまくできるようになってきてはいたものの、洞窟の中では魔力が揺らいでほとんど保てずにいた。

 それに加えて影響が大きすぎてまるで身体が重たく感じられるほどだった。


「あー、だったらここでも手だけにしよう。右でも左でもいいから、魔力で覆ってそれをキープ。小さい範囲ならなんとかなるんじゃないか?」

 外の時と同じ手順でやるようにミズキは指示をする。

 ひとまず周囲を警戒しているが、特に魔物が飛び出してくるような気配もないため、彼女たちがうまく行動できないほうが問題だった。


「こ、これならなんとか……」

「う、うん」

 悔しそうではあるが、二人は仕方なくミズキのアドバイスのとおりにやっていくが、それでもかなり集中しないといけないほどの影響が感じられていた。


「二人はそっちに集中していてくれ。とりあえずは俺が全体的に警戒していくから」

 ミズキは水覚を強い力で展開していく。

 さすがに魔力の抜けきっていない白魔導石に囲まれている環境から受ける影響は大きいようで、ひとまず限定して三人を覆う程度の範囲をカバーしている。


「……にしても、だいぶ深いみたいだな」


 山に空いたほら穴というわけではなく、どこかに繋がっている長い長い洞窟のようである。

 奥に進めば進むほどに、魔力を阻害する力は強まっていく。


 その力を感じながらも、ミズキは変わらずに魔力を維持し続け、エリザベートとユースティアもなんとか両手を魔力で包み込む程度のことはキープできるようになっていた。


「さてさて、そろそろ一番奥に到着しそうだけど……魔物に遭遇しなかったな」

 そう言われて、魔力の維持に集中していたエリザベートとユースティアはハッとする。


「た、確かに一度も会いませんでしたね」

「な、なんでなんだろう?」

 コルドーから強力な魔物の存在を教えられていたが、二人とも完全に魔物の存在のことは頭から抜け落ちていた。


「――その理由は、ここにあるんだろうな」


 ここまで通路は一本道であり、そこを抜けた先にたどり着いたミズキたち一行。

 白魔導石でできた壁がぼんやりと光を放っていたため、灯りには困らなかった。


 しかし、それ以上にたどりついた場所は、壁全体が光を放っており、これまでにもまして光が強くなっていた。


「なんだか、すごい広い場所だね。洞窟の中だとは思えないよ」

 白魔導石が強く光を放っている様子に見入っているユースティアはくるくると回りながら、このエリアを見回していく。


 サッカーコートよりも広い面積でドーム状になっているその場所は、彼女の言葉のとおり洞窟だとは思えないほどに広大だった。


「でも、すごく綺麗ですね……」

 光を放っている壁は、キラキラと輝いており幻想的な光景を生み出していた。


「さて、それじゃあそろそろ……出て来いよ」

 ただ一人警戒した様子でにらみつけるミズキは低い声で、奥のほうに向かって声をかける。


「「!?」」

 なにかがいるとは全く思っていなかったため、エリザベートとユースティアは驚いて身構えながらミズキの視線を先を見る。


 しかし、そこには誰も――なにもいない。


「よく隠れたもんだな。でもまあ、魔力の阻害が強力な場所だったら、魔力を消せばいいっていうのは道理にかなっている」

 一見すると何もいないようにしか見えないその場所を睨みつけているミズキは視線を全く動かさず、そこになにかがいると確信している様子だった。


 すると、相手も観念したのか、ゆっくりと近づいて来るのが見えた。


「あれは……ゴーレム?」

 何もなかった場所から姿を見せたのはドスンドスンと大きな音をたてて歩いている、石で作られたゴーレムだった。


「ただの石じゃなくて、恐らくは魔導石を使って作られているな」

 赤い身体から、恐らくあのゴーレムは火の属性を持っているのだということがわかる。


「しかも、一体や二体じゃなさそうだ」

 最初の赤いゴーレムを皮切りに、次々にゴーレムが姿を現す。


「じゅ、十体はいるよ!」

 ユースティアは動揺しながら数を数えていた。


 今もエリザベートとユースティアは魔法をいつものように使えずにいる。

 それで、この数を相手にするとなるとかなり危険であることが容易に想像できる。


「あんなにいるなんて……」

 まずいと感じているエリザベートもさすがにあの数のゴーレムを今の状態で相手にするのは難しいと判断しており、一歩後ずさっている。


「数は確かにすごいんだが……それよりもなんでこんな場所に、あんなゴーレムが? ってところだよな。自然発生型のゴーレムもいるにはいるらしい、だけどあいつらはそれに該当しないはずだ」

 こんな状況でも冷静なミズキはこのゴーレムたちは、自然発生型ではないと踏んでいる。


「見てみろ、どのゴーレムにも胸のあたりに同じマークがある。あれは恐らく製作者が自分のものだという証を残しているんだ」

 ミズキの言葉に促されるように、二人はゴーレムの左胸のあたりを注視する。


「なんだろ、魚、みたいな?」

「いえ、あれはきっと猫だと思います!」

 ぱっと見で分からなかったようで、二人は汚れていてよく見えないながらも、目を凝らし、なにを模しているのかを口にしていく。


「――鳥だよばか!!」

 そこに、いらだった様子のツッコミの声が舞い降りてくる。


「おでましか……」

 ゴーレムが大きな音を立てながら現れている中、突然響いた声に驚く様子もなく、ミズキはその声の先を見る。

 誰かが潜んでいると踏んでいたため、この者の登場は予定どおりだった。

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