第89話
翌朝
「――で、どこに行けばいいと思う?」
エリザベートとユースティアが作った朝食を食べながら、ミズキがみんなに質問する。
「……えっ?」
「んんっ!?」
「ええっ!?」
「き、決めていないのか?」
驚いた顔でミズキを見るエリザベート、パンを頬張りながらきょとんとしたユースティア、アークたちの食事を用意しながら固まったララノア、ティーカップ片手に信じられないものを見るような顔をしたグローリエルが順番に反応を見せる。
「あぁ、聖王都市に行かないということしか決めてない。この間の街で聖堂教会のやつに会ったから、避けておこうと思って――でもって、そろそろ本腰いれて冒険者として活動しようとも思っている」
そんな彼女たちの視線を受けつつも、あっけらかんとしたミズキはそう続ける。
これはミズキの決意の表れだった。
この世界で帝位を目指すには、なんらかの分野において実績を残すことが重要となる。
だが、聖堂教会やどこかの騎士団や魔術協会などで名を残すには、この面々は問題がある。
ミズキは元貴族だが、家を飛び出してきた。
エリザベートは聖堂教会を飛び出してきた。
そして、この二人は聖堂教会にいた魔族であるセグレスを倒した。
更に現在の雷帝であるダークにも顔を見られている。
ユースティアなら、そういった場所でも結果は出せるかもしれないが、彼女はミズキとエリザベートと一緒にいると決めていた。
「ふーむ……。だったら私が昔に行ったことがある場所なんだが、水の王国と呼ばれる場所はどうだ?」
少し考えたグローリエルは、自らが風帝だったころに行ったことのある国を提示する。
ミズキが水属性であるので、その力を最大限に活かせる場所に行くのがいいという判断だった。
「水の王国か……前回が海辺の街で、今回も水関連」
あまりいい反応をミズキは見せない。
自分にばかり有利な場所に行ってもいいものかと、悩んでいる風だった。
「私はいいと思います」
しかし、グローリエルの紹介にエリザベートは笑顔で賛成する。
「うん、そこでいいんじゃないかな!」
にぱっと笑ったユースティアも同様だった。
ミズキが悩んでいることなど彼女たちは全く気にしていないのが伝わってきた。
「うーん、本当にいいのか? なんだか、俺ばかり得意な場所に行く感じだけど……」
それでもミズキはまだ納得しておらず、素直には頷けずにいる。
「この中で実力が突出しているのはミズキだ。そのミズキが得意な環境なら、何かあっても二人を守ってやれるだろう? それに海辺の街とはまた違った雰囲気があの国にはあるからな、面白い経験を積めるかもしれないぞ?」
「……わかった。それじゃ、水の王国とやらに行くとしよう」
グローリエルの言葉、そしてエリザベートとユースティアの視線に負けて、ミズキは納得することにする。
しかし、行くと決めると内心で興味が強くなっていく。
「一体どんな場所で、それはどこにあるんだ?」
ミズキが沸き起こる好奇心そのままに質問すると、グローリエルは幾分か古い地図をテーブルの上に広げる。
水の王国の話が出てきたあたりで、食器は全員が連携して、一斉に片付けられていた。
「我々がいるのは、この中央大陸だ。エリザベートと会った街も、ユースティアが住んでいた街も同じ中央大陸に存在する」
グローリエルの細い指は、エールテイル大森林から始めて、次の街、次の街と地図の上をなぞるようにさしていく。
エリザベートとユースティアは、それぞれの位置関係を見て、頷いている。
「そして、水の王国があるのはここ――中央大陸を東に向かった場所にあるこの島だ」
グローリエルが指し示したのは中央大陸に比べるとやや小ぶりの島で、島の中央に街のマークが描かれていた。
「私が以前に立ち寄った時は、息をのむほどに美しい街だった。緻密で美しい街並みはあちこちに水路が整備されていてな、そこを船で移動するんだ。周囲に海はないんだが、島の中央で水をたたえた、この世のものとは思えない幻想的な光景がみられるはずだぞ。国民性なのか、祭りが好きで月に一度は大きな祭りをしているんだ」
よほど気に入った場所だったのか、思い出を振り返りながらグローリエルが饒舌になっていく。
「なるほどな、グローがそこまで言うのならいい街なんだな……なんだか楽しみになってきた」
地球でいうベネチアのような街なのだろうとイメージしてみるが、そもそも海外旅行経験がないミズキは具体的には思い浮かばず、ざっくりとしたものになっている。
「よし、それなら俺たちの次の目的地は水の王国だ!」
「ちなみに、水の王国プレアディスな」
期待に胸を膨らませながらミズキが宣言すると、ぱちんとウインクをしたグローリエルが正式名称を教えてくれる。
「というわけで俺たちの次の目的地は水の王国プレアディスだ!」
「はいっ!」
「おーっ!」
ミズキの宣言に、にっこりと笑ったエリザベートと手を突き上げたユースティアが呼応する。
いよいよ向かう場所が決まったとあって、二人ともワクワクしていた。
ユースティアに至っては、故郷以外の街に向かうのは初めてであるため、一層興奮しているようだった。
「うーむ、二人が寂しがらないのが少し残念だが……」
「ですねえ」
グローリエルとララノアは、残される側の二人であるため、困ったような笑みを浮かべながら今も寂しさを募らせている。
「まあ、そのうち戻ってくるさ。なんといっても、ここは俺たち三人の実家だからな」
昨日散々ミズキに愚痴をこぼしていた二人を呆れたような目で見ながら、ふっとミズキは笑う。
三人とも帰る家を持っておらず、なによりここの面々を家族だと思っているため、こんな言葉が自然と出てくる。
「そう、だな。困ったことや知りたいことがあればまたいつでも相談に戻ってくるといい。そうでなくても、なんとなくここに帰ってきてもいいんだ」
「疲れたなあと思ったらすぐに! すぐに帰ってきていいんですからね!」
やけに帰ることを強調する二人だったが、ミズキたちはこの反応をもちろん予想しており、苦笑しながら出発の準備を整え始めていた……。
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