第87話
エールテイル大森林に到着したミズキたちに気づいたのか、グローリエルとララノアが家から出て迎えてくれた。
「みんな、おかえり――さて、今回もお土産つきかな?」
優しい笑みを浮かべたグローリエルはエリザベートの後ろにいるユースティアを見て、冗談めかしてこんな風に言う。
「あ、あの、えっと、その……」
ユースティアはゆっくりと先を歩いていたが、まさか出迎えがあるとは思わず、そこで足が止まり、その次の言葉が出ずにいた。
さすがに緊張しているらしく、しかもグローリエルには話が伝わっていない状況でなにを言えばいいのかわからず困惑しながら、後ろから追いついたミズキとエリザベートの顔を不安そうに見ている。
「あぁ、彼女はユースティア。あっちの街で世話になったんだ。問題を解決しようっていう気概のある冒険者が一人もいないなか、彼女だけが名乗りをあげてくれたんだ」
ユースティアの視線を受けて前を向いたミズキが紹介すると、ふっと柔らかく目を細めたグローリエルが彼女の前に立つ。
「そうか、ミズキが世話になったのなら私からも礼を言わないとだな。ユースティア、ありがとう」
「……えっ!? い、いえいえ、そんなこと! むしろ私のほうがミズキに世話になったというかなんというか……!!」
急に自分が持ち上げられたことで、慌てたようにミズキとグローリエルを交互に見ながら動揺している。
「ふふっ、わざとそうやって言葉足らずで説明するのはちょっといじわるですよ?」
そんなユースティアを安心させるようにそっと手を添えたエリザベートは苦笑しながら、ミズキを注意する。
「ははっ、やっぱりか。ユースティアは街を救いたくて、俺に協力してくれたんだよ。でもって、ここに来たのは、成長したいからの一言に尽きる」
意地悪をしていた自覚があったミズキはニヤリと笑ってそう言ってから、ユースティアはの肩にポンっと手を置いた。
「彼女は風属性。俺やエリーの戦いぶりを見て、自分も成長できるのかな? と悩んでいたようだった。でもって、彼女も天涯孤独で家族がいないっていうから連れて来たんだ」
もうユースティアのことを認めつつあるミズキは、先ほどの言葉に色々と説明を付け足していく。
「やはりそうか……それにしても風属性なのはいいな。うちは三人も弟子がいるにもかかわらず、水と雷と光ときたもんだ。風の使い手は大歓迎だよ!」
ミズキの言葉に何度も頷いたグローリエルは少しおどけた様子で、遠回しにユースティアのことを歓迎している気持ちを現わした。
「ユースティアさん、私の名前はララノアです。ミズキさんと、エリーさんの姉弟子にあたります。属性は光です。家族が増えるのはとっても嬉しいです、よろしくお願いしますね」
ふわりと笑ったララノアはユースティアの手をとって歓迎する気持ちを伝えている。
ミズキたちのように意地悪をすることはララノアの頭にはなく、ストレートに思いを伝えられるのは彼女の強みだった。
「と、まあこんな感じのメンバーで森に一緒に住んでいるんだけど……どうだ?」
改めてミズキはユースティアに感想を求める。
まだ、少ししか会話らしい会話をしてはいないが、それでもここで暮らしていくにあたって不安があれば言ってほしかった。
「……うん、なんだかミズキとエリーの家族なんだな! って思ったよ。すっごくいい感じ!」
短いやりとりの中で、ユースティアにこのメンバーの一員になれることを嬉しく思っていた。
さっきまでの不安げだった表情はもうなく、これからの生活に対する期待が誰から見ても分かった。
「私の名前はユースティア、ティアって呼んでね。親はもういなくて一人のところを、ミズキが誘ってくれたんだ。で、聞いてわかると思うけど、あんまりちゃんとした言葉遣いってできなくて……嫌だったら言ってほしいかな」
最初は元気だったユースティアは次第に少し自信がなさそうな雰囲気になっていき、最後は弱弱しい笑顔で挨拶を終えた。
「――あー、もう! すっごく可愛いじゃないですか! 我慢の限界です……!!」
可愛いものを見つけて嬉しそうに顔をとろけさせたララノアはユースティアの反応に身もだえしながら、彼女のことを抱きしめていた。
「うぷ……く、苦しい」
ユースティアはララノアの胸に埋もれてしまい、呼吸がしづらい状況になっていた。
ただ歓迎してくれている気持ちが伝わっていたので、もぞもぞともがく程度で逃げる様子はない。
「おい、ララノア。そのへんにしておけ、一番歓迎しているお前がティアの命を奪いそうになっているぞ」
「……えっ? はっ! ティ、ティアさん、ごめんなさい!」
じとりとしたまなざしでグローリエルに指摘されたララノアは、酸欠になっているユースティアに気づくと、驚いた様子で慌てて身体を離す。
「ふ、ふう、天国と地獄を同時に見た気分かも……」
ようやく呼吸ができるようになったユースティアは少しふらっとしながら柔らかさと圧迫感を思い出し、苦痛と快感を同時に感じたためか少しぼんやりとしていた。
「はあ、全くララノアはやりすぎなんだって。危うく一人の少女が天に召されるところだったぞ? そんなに気に入ってんのにこれで怖がられたら目もあてられないだろ?」
ため息交じりのミズキはそんなララノアを数歩後ろにひかせた。
「あ、あうう、ご、ごめんなさい……」
自分がやらかしたことに気づいた彼女は、シュンとして頭を下げている。
嫌われてしまったのではないかと不安そうだ。
「だ、大丈夫。あまりの破壊力に負けそうになったけど、ま、まだ将来に希望があるはずだから……」
このユースティアの言葉に、一同はキョトンとしてしまう。
ミズキたちは胸に圧迫されても大丈夫かどうかを心配していたが、ユースティアは自身とララノアの胸のサイズの違いについてショックを受けていたようだった。
「はははっ、これはなかなか面白い人材を連れ帰って来たもんだ」
それに一番最初に気づいたグローリエルは豪快に笑いながら、ユースティアの肩をポンポンと何度か叩く。
大したことを言ったつもりのないユースティアはきょとんとしたままグローリエルを見上げているが、すっかり彼女が家族の一員として受け入れられているのはみんなの共通見解だった。
「よし、それじゃあティアの歓迎会の準備をするぞ! ララノアは料理を、エリーとティアはなにがあったのかを話してくれ。でもって、ミズキは食材調達――以上、解散!」
ざっくりとした指示を出したグローリエルは、エリザベートとユースティアを両腕に抱えるようにして家の中に連れていってしまった。
「……相変わらず一方的な指示だな」
「ですね……でも、家族が増えるのは楽しいです! ――あ、そういえばいいわすれてましたね! ミズキさん、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
呆れたような顔をして肩をすくめるミズキに、ララノアは思い出したように振り返ると、笑顔でそう言った。
一瞬忘れていたミズキは、家族たちだけに見せる穏やかな表情で笑って応えた。
それからミズキはかなりの量の食材を集め、ララノアはそれをみんなが食べられないほどに調理していく。
一足先に家に入ったグローリエル、ユースティア、エリザベートは、歓迎会の準備の音にワクワクしながらおしゃべりに花を咲かせる。
ユースティアの歓迎会は夜遅くまで続いた……。
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