第83話
二つの依頼を終えた二人は、街を出発して森へと向かう。
森の魔法陣を破壊した際に、生息する魔物についてはエリザベートが確認していた。
そこにはボアやゴブリンなどがおり、ボア類の肉集めとゴブリン討伐、二つの依頼を同時にこなすことができる。
更には、薬草もチラホラ生えているのを見ていたので、どこかに群生地もあるかもしれないと考えていた。
ここで薬草の採集の依頼もこなそうとミズキは考えていた。
「おぉ、いるいる」
森に足を踏み入れる前にミズキは水覚で魔物たちの居場所を確認していた。
ある程度の森にいる魔物ならば、エールテイル大森林にいたときに覚えたミズキはゴブリンの気配をしっかりと感じ取った。
「ですね!」
エリザベートも独自の知覚魔法である、雷覚を使って魔物たちの居場所を確認している。
空気中に極微弱な電気を流すことで、それに触れたものの形を確認することができる。
ミズキのアドバイスで彼の得意とする水覚を真似たものだった。
問題点と言えば、水覚と違って、静電気などを発生させてしまうことで気づかれるリスクも高くなっている。
「どうする?」
下水ではミズキの独壇場。倉庫は二人での共同作業。
ボアとゴブリンと薬草をどう割り振っていくか、もしくは全て二人でやるか――エリザベートと一緒に依頼を受けたため、ミズキは確認する。
「そう、ですね……ゴブリンは私が倒します。雷を流して、討伐証明である右耳を切り取っていきます。ボアはミズキさんにお願いします」
雷の熱でボアの肉が変性してしまうのを避けたかったため、そうエリザベートは判断する。
「了解、それじゃ薬草のほうはあとで二人でやるか。それじゃ……行くぞ!」
「はい!」
そうして二人は別方向へと向かっていく。
すぐに魔法を練り上げたエリザベートはその間に十体のゴブリンを発見しており、小さくも強力な雷を流して動きを止めている。
「あとはとどめです! ”サンダーランス”」
彼女は右手に雷で作られた槍を生み出すと、次々にゴブリンの胸を貫いていく。
更にすれ違いざまにナイフで右耳を切り取って回収している。
「早いなあ……」
舞うように素早い動きでゴブリン討伐依頼をこなしていくエリザベートを横目に、ミズキはボア肉狙いでボアと対峙していた。
ミズキはあえて自らの魔力を抑えることで脅威に思わせずにいる。
鼻息荒くうなっているボアたちはそれを信じ込んで、ちょっかいを出してきたミズキを多数で取り囲んでいた。
「それじゃ……”雨矢”」
余裕な態度のまま、腕を上げたミズキは一本の水の矢を上空に放つ。
それを見たボアたちは、失敗したものだと判断してあざ笑っていた。
だが次の瞬間、名前のとおり、通り雨でも振ったのかといわんばかりの矢が降り注ぎ、ボアたちを倒していく。
一見すると無理やり数で押したように見えるが、威嚇も兼ねているその技では、肉の大部分を傷つけず、急所を一突きしていた。
この魔法は家から逃げ出した時に盗賊との戦闘で使った魔法と同名だが、アレンジを加えている。
最初は一本の矢で途中から増えたほうが、虚をつくことができるとの判断によるものだった。
「とりあえず、血抜きをしておかないとな……」
命を失った身体であれば、魔法で血を操作することができる。
ゴロゴロと転がっているボアの身体からあっという間に血抜きを完了する。
「ついでに、身体の中は水で冷やしておこう……」
熱を持たせると肉が傷みやすいという、おぼろげな知識から魔法でボアの身体を冷やしていく。
もちろん熱を奪う効果を狙ってのものであるため、水びたしにならないような調整を加えている。
「それじゃ、こいつらは収納しておくか。肉の切り分けはあとですればいいだろ」
森でも魔物の解体は行っていたが、依頼主が細かい部分を気にする人物であれば自分でカットしてもらったほうがいいと考える。
「あ、ミズキさん。こちらも終わったみたいですね。ゴブリンも完了です!」
ボアの処理を終えた時、ちょうどエリザベートがゴブリンの耳が入った袋を手に戻ってくる。
ボアの血抜きが綺麗にされたあとが見えたため、笑顔で合流した。
「あぁ、少し見させてもらったが、いい動きだったぞ」
「えぇっ!? み、見ていたんですか? は、恥ずかしいです……」
単純にミズキは褒めたつもりだったが、まさか見られているとは思っておらず、エリザベートは恥ずかしさから顔を真っ赤にして、ミズキの予想以上の反応を見せる。
「恥ずかしがることはないさ。ゴブリンといえど、相手になにもさせずに一瞬のうちに倒して、討伐部位を切り取る。あれは綺麗な動きだった」
流れるような動きは、まるで妖精のようでもあったとミズキは思い浮かべていた。
しかしながら、綺麗と言われたことに加えて相手がゴブリンだったということもあって、そんなすごいことをしたつもりはないエリザベートは更に顔を赤くしていた。
「まあ、これで四つの依頼が完了したわけだから、あとは薬草だな……それも探ってみるか。”水覚”」
ここまでで、確認できていない場所を確認するために、魔法でサーチしていく。
薬草の形はもちろん知っているため、同じ形のものが群生している場所はないかと確認していた。
「…………広いな」
この森は広大であり、すぐには見つからない。
しかし、それも時間の問題で、水覚の範囲を広げていくと、森の端にある小さな湖のほとりにあるのを見つけた。
「見つけた。少しわかりづらい場所だが、かなりの量があるみたいだぞ」
やっと見つけたそれは、かなりの量であるらしく、思わず笑顔をこぼすミズキの足取りは軽かった。
目的の場所にたどり着いたミズキとエリザベートは言葉を失う。
確かにそこには小さな湖があった。
そして、そのほとりには間違いなく薬草が群生している。
しかし、明らかに他の場所と空気が違った。
「こ、この魔力量はなんなんだ……?」
「は、初めて見ました……」
これまでに魔素の濃い場所には何度か行ったことのある二人だったが、それらとは異なる。
どちらも大気中の魔力量が多いのは変わりなかったが、こちらは神聖な魔力が充満しており、心地よささえ感じさせる。
悪意のある魔力ではないため、水覚のサーチ機能の邪魔にならなかったようだ。
とりあえず二人は薬草を集めながら周囲を探っていく。
周囲を一通り見てみたが、なんとなく誰かが、何かがいるわけではなさそうだった。
だがこの高密度の魔力空間にいるのは落ち着かず、まるで近くに誰かがいるような錯覚すら覚えていた。
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