第81話


 食事を終えると、ユースティアは再度引っ越しの準備のため家に戻り、ミズキたちは再び冒険者ギルドへと向かっていく。


 先ほどよりもギルド内は空いており、二人はゆっくり依頼を見ることができる。


「どれがいいかな?」

「うーん……」

 ミズキはどれを受けてもいいと思っており、エリザベートは初依頼であるため一生懸命吟味している。


「まあ、といっても俺たちが受けられるのは一つ上のEランクまでだから種類は限られるんだけどな」

 その条件に当てはまる依頼は十を下回る。


 薬草の採集、倉庫の掃除、ボア類の肉集め、下水の掃除、ゴブリン討伐……などなど、基本的に冒険者始めたての冒険者が受けるようなものである。


「うーーーーーん……」

 エリザベートは更に深く悩んでいく。


「よし、だったら、いくつか受けてどんどんやろう!」

「えっ?」

 ミズキは、五つほど依頼の用紙を剥がすとエリザベートの手を引いて受付に向かう。


「えっ? ええええっ?」

 エリザベートはどれか一つを受けることで悩んでいたが、それを大きく覆すミズキの決断に驚きながらそのまま引っ張られていく。


「えっと、この依頼全部二人で受けたいんだけど」

 受付嬢はもちろんギルドマスターのシーリアである。


「はい……えっ? この依頼をお二人が受けるんですか?」

 内容からして簡単な依頼だったり、普通は受けたがらないような依頼だったりと、微妙なものを持ってきたため、シーリアは思わず確認してしまう。


「あぁ、まあこっちの掃除二つは俺が一人でやることになると思うがな」

 ミズキの水魔法を使えば、掃除は簡単に、短時間で行うことができる。


「一緒に行きますけど、恐らくそのほうが早いでしょうねえ……」

 エリザベートはミズキの水魔法の汎用性を知っており、彼ならば掃除は一瞬で終えるだろうなと考えている。


「わ、わかりました……力のあるお二人が、初心者向けの依頼を受けるのには違和感がありますが……」

 ぶつぶつ言いながらシーリアが処理をしていく。


「まあ、俺たちはFランクだからな……なんだったら、この全員がFランクから始めるシステムを改善してくれるとありがたい。たとえが、登録前に試験を受けて実力を見て初期ランクを認定するとかな」

 ミズキの提案にシーリアは口を開けて驚いている。


「そ、その手がありましたね。確かに、そうすれば実力に応じてランクが振り分けられます。もちろん、ランクが低い人も経験を積めばランクがあがって……いいですね!」

 今までの冒険者登録システムになんの疑問も持たずにいたシーリアだったが、今回のように実力のあるミズキやエリザベートのような者を低ランクから始めさせるのは宝の持ち腐れであると感じていた。


 しかし、ミズキの案であれば、実力を計って見合ったランクから始められる。


「それ、上に提案してもいいでしょうか?」

 発案者はミズキであるため、許可を得ようとシーリアが質問する。


「あぁ、もちろんだ。それで少しでも良くなるのが楽しみだな。ただ、それを実装した場合の問題としてはランクが低いやつが下にみられる可能性があるところだ」

 現段階の実力を計るもので、未来の可能性までは計れないものである。つまりそれは、未来に化ける可能性も十分に秘めていることであった。


「確かに……少し詰めてみます。メリットとデメリットの提示。実施可能かどうかなどなど、他のギルドマスターとも相談してみます」

 シーリアはミズキの言葉を全てメモしておき、そこから更に改案していこうとしている。


「ま、なんにせよ、今後の冒険者志望のやつらが可能性を感じてきてくれるといいな。じゃ、俺たちは依頼に出かけてくるよ」

「いってきます!」

 ミズキたちは未だ色々考えているシーリアに挨拶をして、外にでる。


「倉庫と下水の掃除は街の中の依頼だから、そっちからやるか」

「はい!」

 いよいよ初依頼に向かうとあって、エリザベートは元気よく返事をする。



 最初に向かったのは下水の掃除。これは掃除事務所があって、そこの担当が長らく怪我をしていて、しばらく掃除できなかったのを手伝ってほしいというものだった。


「それで、下水にはどこから行けばいいんですか?」

「あぁ、こっちだ」

 案内されたのは街の外れにある、下水へと続く扉である。


 担当職員はマスクをし、ミズキは自分とエリザベートの分の水マスクを作り出している。


「ううむ、こ、これはすごいな……」

 職員が唸るほどに、下水は汚れており、ここから色々な病気が出てきてもおかしくない。


「あれは……まずいな、職員さんとエリーは外に出ていてくれ。魔物もいる」

 汚れの中を動いているアメーバのような魔物の姿に気づいたミズキは、二人に外に出るよう指示を出す。


「さて、それじゃ少し本気でやるか」

 ミズキは汚れている床に手を当てる。ぐしゃっという音がするが、水魔法で身体を覆っているミズキに直接触れることはない。


「”洗浄””浄化”」

 汚れを魔法で洗い流していく。汚れがとれた場所から浄化していくことで、魔素の残滓などを全て綺麗にしていく。


 ミズキの魔法は、床も壁も水も全てを綺麗にしていき、あっという間に美しい水が流れる場所へと変化していく。


 ちなみに、魔物は戦うほどの力はなく、ミズキの浄化魔法によって一瞬で消え去っていた。下水路は地下に張り巡らされているため、全てを網羅するには少し時間がかかってしまうが、水が流れている場所であるためミズキは魔力消費を抑えて掃除を行えていた。


「あとは、一番奥の広場にデカイネズミがいるみたいだな……」

 ここでミズキは考える。今いる場所からその広場までかなり距離があるため、戻るのが遅くなってしまう。


 ならば、と遠距離での魔法攻撃を選択する。


 水覚で魔物の場所を詳細に把握、周囲の水を使って水の刃を生み出して、そのままネズミに放って完了。


「はあ……疲れた」

 言葉だけで言えば簡単だったが、詳細な魔法コントロールはかなりの疲労をもたらしていた。



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