第79話


「依頼も増えてきてるんだなあ」

「街の人たちこそ、ずっと問題を抱えていたのかもしれないですね。で、やっと冒険者の方たちが動き出したようなので依頼を出してみた、というような」

 冒険者が先に集まったのか、依頼が先に集まったのか、どちらが先なのかはわからないが、それだが連動して集まったものと思われる。


 ほぼ同時に集まって来ているのは、いい兆候だった。


「俺らが受けるとなると、どれがいいか……。さすがにいつまでもFランクというのもな」


 最初の街では依頼自体は達成したものの、聖堂教会と戦ったことがばれないようにすぐに旅立ったことでランクは代わらなかった。


 今回は、依頼を受けず独断と、領主との相談で動いたため、冒険者ギルトとしての評価はない。

 エリザベートが冒険者ギルドに登録したのをきっかけに、低ランクで色々言われるのも面倒だし、少し依頼を受けてみるのもいいかもしれないとミズキは考えていた。


「あっ、でもティアが来たらすぐに出発するんでしたっけ?」

 彼女は家の片づけをしており、それが終わったら出発する予定だった。


「あー、そうだったな。それじゃ、ランクアップはお預けということで……そろそろユースティアの家に行こう」

 ついついギルドに来ると、依頼を見てしまい、依頼を見るとどれを受けるか考えてしまうため、森に帰ることを失念していたことに気づいたミズキは渋い顔をする。


「じゃあな」

「はい、それではみなさん失礼しました。シーリアさん、登録ありがとうございました」

 ミズキとエリザベートはみんなに挨拶をすると、少し残念そうなシーリアに手を振ってギルドを後にした。





「そういえば、ティアのおうちがどこか知ってるんですか?」

 ギルドを出てから街を歩くミズキが迷いない歩みで進んでいくため、エリザベートが質問する。


「あぁ、一度な。あの時は俺がギルドでランク言ってシーリアにがっかりされて、外であいつに声をかけられたんだよ。で、少し詳しい話をしようってことであいつの家に行ったんだが……」

 話している途中だというのに、ミズキの言葉が止まる。


「なにかありましたか……?」

 不思議そうな表情でそう聞きながらもエリザベートはミズキの視線を追いかけて、同じように言葉が止まる。


「…………わかると思うが、あれがユースティアの家だ」

「は、はい、わかります……」

 その家の前には山のような荷物が置かれていた。


 家の大きさからして、荷物の方が多いのではないかと思うくらいには山積みになっている。


「あっ、ミズキ、エリー! 来てくれたんだね。今、ちょっと片付けてるところなんだけど、まだあるんだよね……よっと」

 一見するとか弱そうな少女のユースティアのどこにそんな力があるのかというほどに、次から次へと荷物を部屋から運び出している。


「まだあるのか……これは先に俺が同時に収納していったほうがよさそうだな」

 やれやれと肩をすくめたミズキは彼女の家に近づくと、一通り荷物を確認していく。


「ですね、でしたら私はちょっと飲み物なんかを買ってきますね」

 荷物運びはユースティアでなければわからず、収納はミズキしかできないため、彼女は買い出しを買って出てくれた。


「ユースティア、俺は荷物をしまっていくぞー!」

「わかったー!」

 元気な返事が聞こえてくるが、ミズキはここで大きな問題に気づいていた。


(これ、あっちの家に持っていったとしてしまう場所ないんじゃないのか?)

 エールテイル大森林のミズキたちの家は、そこまで大きいわけではなく、現在住んでいる人数も四人であり、一人増えるだけでそれだけスペースを圧迫してしまう。


 そこに、これだけの荷物がおくとなれば、完全に家からあふれてしまう。


「ユースティア! ダメだ、これだけの量は持っていけないぞ! いや、持っていけるんだが、置く場所がないぞ!」

 ミズキが中にいるユースティアに声をかけると、呆然とした彼女はドサリと荷物を床に落としていた。


 幸い割れ物は入っておらず、大きな音を出しただけとなるが、彼女の顔からさーっと血の気が失せていた。


「えっ? こ、こんなに用意したのに、処分しなきゃいけないの……?」

 ぽつりと悲しげに呟いたユースティアの声はまるで独り言のようだったが、それに対してミズキは家の中に入って頷きを見せる。


「ど、どうしよう。とりあえず全部詰め込んでみたんだけど……」

 家の中のものを片っ端からしまっていたようで、明らかに個人の分量をオーバーしていた。


「そこで、まずは必要なものをピックアップしてくれ。例えば食器なんかは向こうでも用意できる。でも、ユースティアがお気に入りのカップとかは持っていったほうがいい。このタンスなんかは必要ないだろうし、テーブルなんかも置いていこう」

 家ごとといっていいほどに、ありとあらゆる家具までも持っていこうとしているため、さすがにそれはいらないだろうとミズキは判断の手伝いをする。


「わ、わかった。ちょ、ちょっとまた時間かかっちゃうけどいいかな……?」

 自分なりに急いで荷物をまとめているうちにあれもこれも捨てられず、全部持っていけばいいやと思っていたユースティアはいるものといらないものを選別するとなると、かなりの時間を要してしまうため、しょんぼりと肩を落とし、申し訳なさそうな顔になっている。


「あー、気にしなくていいぞ。さすがに大変だろうから、三日見込んでおこう。その間に俺たちは依頼を受けてくるさ。ちょうどさっきギルドに言って受けようかってエリザベートと話してたところだったんだ。まあやるなら簡単なやつだけどな」

 これなら、別の用事をしていることになるため、ユースティアも気を遣わずにすむだろうというミズキの機転だった。


「うん! それならこっちに集中できるよ! ごめん、それからありがとう!」

 ミズキの気遣いをわかりつつも、荷物整理の時間が確保できたことに、笑顔のユースティアは安堵していた。


「さて、話がまとまったところで、一旦荷物はミズキさんに収納してもらって……ご飯にいきませんか? 漁師さんが漁に出られたそうで、美味しいお魚が食べられるかもしれないです!」

 エリザベートも、食事を楽しみにしていたため、ユースティアの休憩の意味も含めてそんな提案をする。


「わかった! いいお店しってるから案内するよ!」

「んじゃ、このままじゃ邪魔になるだろうから――俺は一旦外に出てる荷物を”収納”」

 ミズキの水魔法で外に大量に山積みになっていた荷物はあっという間に収納された。

 それから三人は昼食を食べるために、ユースティア行きつけのお店に向かうこととなった。


 

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