第76話
「ミズキさん!」
これはエリザベートの声である。
うっかり魔族の話を漏らした彼のことを咎めるように横で突っついている。
魔族の話はかなり繊細な話であるため、話す相手は見極めようと実家では話し合っていた。
さすがにうかつすぎたと気づいたミズキは申し訳なさそうな顔をしていた。
「あー、まあ、あれだ。今話したことは忘れてくれ。じゃ、帰るわ!」
そう言って立ち上がるミズキとエリザベートだったが……。
「ダメダメダメー!」
ユースティアが逃がすまいと、二人にガッチリとしがみついてロックする。
「……はあ、仕方ないな。別に話すのは構わないんだが、あんまり広まって人々の不安を煽りたくないんだよ。しかも、深いところまで話せばきっとみんな面倒なことになるぞ。それでも聞くのか?」
自分のしでかしたことに頭が痛いと思っていたミズキの問いかけに、三人はゆっくりと頷く。
「わかった……だが、終わったあとで聞かなかったことにはできない。それから、誰かに話すこともやめておいた方がいい――いいな?」
ミズキが真剣な表情で、やや強く言うため、三人は一瞬のためらいを見せつつもやはり頷いた。
「とりあえず、順を追って話していくが、この街が抱えていた強力な魔物が現れるという問題は、洞窟と森と島の三か所で起こっていた。それぞれの場所は魔法陣があって、魔素の量もかなり濃くなっていた。これが強い魔物が出て来た理由だな」
ここまではいいか? とミズキが確認し、それに対して三人は頷く。
これらは既に聞いていた情報であり、ユースティアにいたってはミズキたちとともに現場に行っている。
「その魔法陣は俺たちが壊して、それで終わりだと思っていたんだが……その三か所はきっかけで、その三か所を繋いだ三角形の中心点に封印されていた魔物復活が目的だった。それが、今回俺たちが戦ったバジリスクだ」
シーリアのみ、バジリスクは初耳の情報であり、口元を押さえて驚愕の表情となる。
バジリスクという魔物はもちろん彼女も知っているが、それは伝説上の魔物で街一つを滅ぼすほどに強力な力を持っているといわれている。
「俺たちが到着した頃にはバジリスクの復活は果たされて、俺と騎士団のみんなは戦うことになったんだ。まあ、主に俺がだけどな」
あっさりといってのけるミズキに、シーリアはそれほどまでとは思っていなかったため、自分の浅はかさを痛感することとなった。
「バジリスクは話に聞いていたとおり、毒液を吐いて、石化にらみを使ってくる。確か、騎士の何人かが石化したはずだが……まあ、それはあとで確認するとして、とにかくかなり強い相手だったんだが、ここで面倒な相手がやってくる」
もちろんこれが魔族であることは全員が予想できている。
「そう、魔族だな。そいつと、バジリスクを同時に相手してなんとか倒したんだが、その魔族が魂を逃がそうとしたところを、エリーが雷魔法でバチバチっと倒してくれたんだ」
これにマクガイアとシーリアが感心していた。
「で、だ。その魔族なんだが、俺たちが魔族と戦うのは今回が初めてじゃない」
これにはエリザベートが頷く。
「さて、ここから先も聞くか? いよいよ、逃げられなくなるぞ? やめるならここだ」
ここまではこの街で起きていたことであるため、彼らにも知る権利はあったが、これ以上は問題が一応解決した今では関係がない。
だからこそあえてそんな確認をするが、もちろん三人とも好奇心を止めることができずに、頷いていた。
(好奇心は猫をも殺すってな……)
ミズキは彼らの反応に目を細めつつ、口を開いた。
「じゃあ、続けよう。俺たちが魔族と初めて戦ったのは、聖堂教会が関連している」
ここで嫌な予想をしたマクガイアとシーリアが立ち上がる。
「そ、その話は、さすがにやめておいた方がいいようだな」
「そ、そうですね」
聖堂教会はこの世界ではかなりの力を持っており、各国の王家にも多大な影響力を持っている。
であるがゆえに、一介の領主や一介のギルドマスターがどうこうできる範疇を越えていた。
さすがに聞くのは好奇心よりも危機感のほうが勝ったらしく、二人は揃って聞くのをやめた。
「だろうな。だから、やめるならここだってさっき言っただろ? 別にここで終わりにしてもいいけどな。とにかく今回のことはそういったい色々が絡んでいる大きな一件だと思ってくれ。俺やエリザベートや俺らの師匠なんかは、その問題を解決しないとと思って動いているんだよ」
生家を出たミズキはそもそも何のしがらみがない。
エリザベートはミズキに助けられて聖堂教会から抜けた。
グローリエルは元風帝であり、彼女も元々のしがらみから抜け出してあの森に住んでいる。
「まあ、そういうことだから、話はこのへんで切り上げるとしようか」
聞かせる必要のない話ならばこれ以上ここにいる理由もなく、ミズキは立ち上がり、エリザベートもそれに続く。
今度は彼らを止めるものはおらず、ミズキとエリザベートは部屋を出て、あてがわれた部屋へと戻って行った。
「さて、これからどうするか。とりあえず、魔族の何体かは倒せたし、やはり聖堂教会が大きく色々に関わっているらしいが……」
前回はたまたま巻き込まれた。今回は情報を手に入れたから、ここに来てみた。
しかし、散発的に潰しても根本の問題は解決することができない。
「これは、一度森に戻ってお師匠様と相談ですね。恐らく次は聖王都市に向かうことになると思いますが……」
エリザベートは少し苦い表情をしながらそう話す。
聖王都市――それは聖堂教会の大きな神殿を中心とした街であり、かなり大きな街である。
あの街であれば、中心に近づくことになり多大な情報が手に入る可能性がある。
しかし、中心に近いだけに危険と背中合わせである。
「グローに相談、そこから動きを決めるか……それから修業もしないとだな」
「ですね!」
二人は既に進む道をほとんど決めており、師匠であるグローリエルにその後押しをしてほしい状態だった。
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