第73話
「まずは、こいつを封印しておくか。”水封牢”」
ミズキはアレアレアの遺体を水で包み込むと、そのまま魔法で封印する。
「んでもって、これは収納しておこう」
封印することで自由にサイズを調整できるようになり、ミズキの操作によって水封牢は掌サイズにまで小さくなり、これならば収納するにも抵抗なく行える。
その様子をエリザベートとユースティアは興味深そうに見ている。
「……ん? こんなの見てて面白いか?」
視線に気づいたミズキはきょとんとして二人を見た。
すると二人は食い入るようにして何度も頷いている。
「いつも収納は見ていましたが、今の封印は初めてです!」
「ミズキはすっごいね! あんなことまでできるなんて!」
キラキラと目を輝かせている二人は、これからミズキが何をするかをワクワクしながら見ている。
「ま、楽しそうでよかった。それじゃ、次はバジリスクの方だな。危険なのは眼と毒だから、まずは毒から……」
二人の反応に優しく笑ったミズキは気を取り直してバジリスクに手を当てると、身体にある毒を水魔法で集めていく。
今はバジリスクの体液の所有権がバジリスクからなくなったため、他人であるミズキが自在に操作できるようになっている。
「とりあえず、少し離れていてくれ。これは集中しないと……二人とも、みんなを一旦遠くにやってくれ」
身体にある毒を探り、それを一か所に集めて毒の水玉を作っていく。
周囲に散らばっている毒も集めているため、ミズキが魔力を流している範囲は周囲数キロに及んでいる。
それゆえに、毒が触れてしまう可能性を考えて、騎士たちを遠ざけなければならない。
エリザベートとはイコに乗って、ユースティアはアークに乗って騎士たちに離れているよう声をかけていく。
近づけばバジリスクの毒に侵されてしまうという忠告付きで。
先ほどの戦いを見ていた者たちは、アレがどれほど危険かわかっており、すぐに退避していった。
あとからやってくる騎士たちも近寄らないようにしようと、二人は離れた場所で待機している。
「助かるよ。さあ、土地にも影響を残さないようにしないと……」
目を閉じて魔力を集中させたミズキは念入りに魔法操作していく。
水覚を使って地面に染み込んでいる毒も全て毒玉に集めていく。
細かい部分まで丁寧に察知して集めていくため、時間がかかるが完全に大地が浄化されていくのがわかる。
「毒だけでなく、大地に染みついている魔力までもが綺麗になってます――すごい」
聖教騎士団に所属していたエリザベートはここまでの浄化をひとりでやりのけてしまうことに感動を覚えた。
ここにはバジリスクが封印されていた。
つまり、この土地には強固な封印魔法がかけられており、凶悪なバジリスクの魔力も同時に封印されていた。
封印が解除された際に、その魔力も周囲にまき散らされている。
特に地面にはその影響が色濃く残っている。
それらをもミズキはすいすいと集めていた。
そこまでの浄化は聖教騎士団といえど、聖女として活躍している者たちを集めて時間をかけないとできなかった。
「こんなものか。それじゃこいつを”水封牢”」
紫で、赤く、そして黒い水玉はミズキの魔法によってあっという間に封印されていく。
「完了っと」
こちらもアレアレアが封印されていた玉と同様に掌サイズに変化しており、それを収納していく。
「眼も取っておかないとだな」
バジリスクの石化能力を持つ眼。
こちらも毒と同じように封印して収納していく。
これで、この場所、およびバジリスク解体における危険性はなくなった。
「さて、俺の仕事は、これで、終わり、だ……」
そう言うと、魔力が尽きたミズキはふらりと身体をよろめかせながらその場に仰向けになって倒れた。
「ミズキさん!」
「ミズキ!!」
焦ったようなエリザベートとユースティアの声が遠くに聞こえるが、ミズキはそのまま意識を遠くにやってしまった。
「…………ん、寝てたか?」
目覚めたミズキは、ゆっくりと身体を起こして周囲を確認する。
どこか見覚えがある風景だが、あの島にいた後の記憶がないミズキはぼんやりとした頭をなんとか回転させて状況を探る。
すぐそばにあった窓から心地よい風が入ってくる。それと同時に、夕日の灯りも部屋に差し込んでいた。
「もう夕方か。さすがに少し魔力を使いすぎたかもしれないな」
戦闘でもかなり強力な魔法を使っており、更には戦闘後の超広範囲の、しかも緻密な魔法コントロールによる大地と空気とバジリスクの浄化作業はかなりの負担を強いていた。
それゆえに、全て完了したミズキは緊張の糸が切れて倒れてしまった。
やることをやり切ったうえで倒れたのは良かったが、それでも思っていたより魔力を酷使していたのだとミズキは改めて自覚していた。
「みんなは……いてくれたのか」
エリザベートやユースティア、アークにイコはどうしたのか確認しようとしたら、ベッドから少し離れたソファに寄り添うようにして全員もたれかかって眠っていた。
「心配かけちゃったよな……」
あれくらいなら一人でなんとかなると思っていたが、その目算は甘いものだった。
憎き父親と兄弟がいる家を飛び出してからも研鑽を積んでいたミズキだったが、それでもまだ足りなかったのだと思い知らされた。
(この先、もっと強い敵が出てくることを考えたら、俺自身の魔力強化も必要だな)
他から見れば、ミズキのレベルは既に、聖級、王級、帝級と比較しても遜色ないと思われる。
しかし、ミズキ自身はまだまだ自分の力に満足していなかった。
アレアレアやバジリスクは序の口に過ぎないとなんとなく感じていたからだ。
自分の手のひらを見つめながらそんなことを考えていると、ガチャリと扉が開く。
「あら、目覚められたのですね」
それは領主マクガイアの娘のレベッカだった。
ふわりとほほ笑んだ彼女は毛布を二枚ほど手にしていた。
「みなさん疲れて眠ってしまったので、こちらを持ってきたのですが……ミズキ様が起きたなら皆さんも起こしてあげたほうがよいですか?」
「あ、いや、疲れてるならもう少し休ませてやってくれ」
ふっと表情をやわらげたミズキが言うと、返事代わりに小さく笑顔で頷いたレベッカは寝ている二人に毛布をかけ、自身はベッド近くの椅子に腰かける。
「この度は、当領地のためにご尽力いただき、まことにありがとうございます。ここにいない父マクガイア、並びに領民に代わって礼を申し上げます」
最初に彼女と関わった時とは異なり、真剣な表情で姿勢を正し、ミズキを真っすぐ見て静かに頭を下げた。
今のレベッカはマクガイアの娘のレベッカではなく、領主の娘、領主の代行として言葉を発しているようだった。
「あぁ……いや、気にしなくていいとは言えないか。これだけのことを部外者の俺たちがやったんだ。色々と考えてくれ」
最初は一瞬呆気にとられたミズキだったが、すぐに首を小さく振ってあえて突き放すように言った。
これには、こんな状況になるまで強力な一手を打つことができなかった領主マクガイアに向けた言葉である。
「ふうっ……ミズキ様はなかなか鋭いお言葉を投げつけてきますね。でも、おっしゃるとおりです。何もできず、手をこまねいて街をこの状態に陥らせ、みなさんに頼るしかできなかった領主。あなたのお力を見抜くことができずに話を切り上げてしまったギルドマスター。実際に戦いになっても足手まといとなった領主お抱えの騎士たち。どれをとっても非常に不甲斐なく思います」
すっと冷たい表情で一息吐いたレベッカは淡々と言い放った。
予想以上の冷たい言葉に、思わずミズキは肩を竦める。
「そういうそっちこそ、鋭い言葉を全方位に投げつけるじゃないか。聞いていないからいいものの、いたらみんな震え上がるところだぞ」
「ふふっ、そうですね」
少しからかいの雰囲気がにじむミズキのツッコミに、口元に手を当てたレベッカは思わず笑ってしまった。
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