第70話
ミズキたちが向かっているのは場所は、現在はなにもない平原で目立った特徴もなく、そこを訪れるものもいない。
「あれだな」
だからこそ、そんななにもない場所が赤黒い光を放っているのは目立っている。
「出てきたら俺が相手をする。あんたたちは近くに人が来ないようにするのと、一人二人くらいは相手を確認したら、その情報を領主のマクガイアに持っていってくれ」
街にいた段階ではなにかが起こるかもしれない、というだけだった。しかし、実際にソレを目の当たりにすることで正確な情報を伝えられることとなる。
その指示を受けた部隊長が部下に指示を出していく。
光は徐々に広がっていき、地面が大きく揺れる。
「わ、わあああああ、地面が揺れてるぞ!」
「ひいいいい!」
地震などというものをほとんど経験したことのない騎士たちは叫ぶ者、悲鳴をあげる者、しゃがみ込んでしまう者、逃げ惑う者など様々だった。
「さあ、そろそろお出ましだぞ」
その中にあって、ミズキはその揺れの原因であろう赤黒い地面を見て笑っている。
徐々に地面が割れていき、徐々にソレが姿を現していく。
「おぉ、こいつはすごいな……」
地面の中から姿を現したのは巨大な蛇だった。
「頭が鶏で、足も鶏のそれ、身体の途中から蛇で背中には竜の翼か……」
ミズキが特徴を列挙していくが、騎士たちの誰もがそんな化け物を見たことはなく、呆然としながらそれを見ている。
「にしても、これが俺の思っているやつならまずいな……みんな、あいつを見るな! そして絶対に近づくな! 見られたら終わりだと思え!」
この化け物の名前にミズキは心当たりがあった。
「バジリスク」
視線だけで死をもたらす、もしくは石化をもたらす。更には毒の息を吐く。
「確か直接攻撃もダメだったな」
剣で切ればその剣を、槍で突けばその槍が毒に侵されて、武器をつたって持ち主にまで毒を付与する。
今まで多くの魔物や魔族とも戦ってきたが、その中でも最強クラスの敵だった。
「さて、それじゃ俺は行ってくる!」
ミズキはアークに乗ったまま、空を駆けてバジリスクへと近づいていく。
「キシャアアアアアアアアアアア!」
それに気づいたバジリスクの鶏頭が蛇のような鳴き声をあげる。
「これはすごいな」
鳴き声とともに、毒液が周囲にまき散らされていき、落ちた場所から地面に穴が開いていく。
人に害をなす毒、というだけでなく酸性の毒液は触れた場所から溶かしていた。
その様子を騎士たちの何人かは足を止めて見ている。
「小手調べだ”水竜”」
ミズキが最も得意で、素早く発動することができる攻撃魔法を発動する。
水によって作られた竜は、これまで使ってきた中でも最も大きなサイズである。それでも全長十メートルを超えるバジリスクに比べるとやや小さく見えてしまう。
「行け!」
正面から向かっている水竜に対して、バジリスクは毒液を吐きつける。
触れた場所から毒が広がっていき、ついには水竜が毒一色に染まってしまった。
「それでも、いけるよな?」
魔法であるため意志はない。にもかかわらず、ミズキの言葉に応えるかのように、大きく口を開けて勢いを増して、そのままバジリスクに食らいついた。
「おぉ! すごい!!」
動きを止めている何人かの騎士たちは、ミズキの言葉を忘れて戦いに見入っていた。
「馬鹿、動きを止めるな! 逃げろ!」
ミズキの言葉を聞いた彼らは、優勢なのに何を焦っているのかと振り向いた。
「キシャアアアアアアアアアアアアア!」
次の瞬間、バジリスクが目から発した光が彼らに降り注ぐ。
「あ……」
それが最後の言葉だった。
「い、石になってる!」
離れた場所にいた誰かがそんな声をあげる。
「あいつの吐く毒は周囲を汚染するかのごとく広がる。武器で傷をつければ武器が毒に侵食される。目から放つ光は浴びたものを石化させる。わかったら、とっとと離れてろ!!」
戦闘に入るため細かい説明を省いたのが裏目となり、このような結果をもたらしてしまう。
「おい、アイアン、コバルト! 隙を見てあの石になったやつらを回収しておけ。どうなるかわからんが、まだ復活の可能性はあるはずだ……」
これに関しては確実な自信はなかったが、それでも自分ならできるかもしれないとも思っていた。
「わ、わかりました。行くぞ!」
「お、おう!」
騎士たちの中でも部隊長の二人は足も速く、観察力もある。落ち着いて、舐めずにいれば、バジリスクに対しての危険信号を察知することができるはずであり、ミズキはそれに期待している。
「”水竜””水弾””水竜””水弾””水壁”!」
お前の相手はこっちの俺だと言わんばかりに、ミズキは魔法を多用していく。
複数の水竜によって的を絞らせないようにして攻撃をする。
サイズの小さな水弾を含めることで、見えずらい攻撃を当てる。
更にはバジリスクが周囲を見ても影響が出ないように、水壁で視界を遮っていた。
「ふしゅるるるるる!」
最初の水竜で対処を学んだバジリスクは、毒でも石化でもこれは防げないと理解している。
だからこそ、高速回転で尻尾を魔法に当てることで弾き飛ばしていた。同様に水壁も吹き飛ばされている。
「頭いいなあ……だがな」
もちろんミズキの手はこれだけではない。防がれるかもしれないというのは可能性の一つとして考えていた。
「”大水竜”」
次の一手は弾き飛ばせないほど、大きな水竜を生み出すことだった。
大量の水が周囲にまき散らされたことで作り出された巨大な竜。それはバジリスクをも超えるサイズを誇っていた。
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