第69話


 同じ頃、ミズキたちは島へ行くために港に向かっていた。

 いまだ街は完全に活気を取り戻してはおらず、すれ違うのは数人ほどだった。


「なんだあれは?」

 海が一望できるところまで来たところで、ミズキはあることに気づく。

 こちらでも同様に黒い光の柱が見えていたのだ。


「なあ、あんたたちの中に、アレに見覚えがあるやつはいるか?」

 硬い表情のミズキの質問に、真剣な表情の部隊長二人が首を横に振る。


「部下の人たちはどうだ?」

 こちらも同様に首を横に振っている。


 つまり、誰も見たことのない特別な現象であるとミズキは判断した。


「と、なると急いで見に行ったほうがいいか。俺は先に行くが、お前たちも追いかけて来られるか?」

「も、もちろんです!」

「ただ、船を使うことになるので、さすがに遅れることになりますが」

 焦ったように頷いたアイアンの返事を、冷静に頷いたコバルトが補足をする。


「わかった。俺が先に行って様子を見てくる。俺の予想が正しければなにもないはずだが……」

 その視線は島ではなく、別の方向に向いている。彼はなにかがわかっているようだった。


「……なにかあるのですか?」

 アイアンがその表情になにかを感じ取って質問するが、ミズキはまだ推測に過ぎないそれを話すことはないと首を横に振る。


「それじゃ俺は先に行くから、できるだけ急いでくれ! アーク、行くぞ!」

「ピー!」

 ミズキとアークは空を飛び、島へと一直線で飛んでいく。


 空から見ているミズキの視界では、徐々に光の柱が島の中央から出ているのがわかる。


「つまりは、魔法陣のあったところから出ているのか……」

 魔法陣はエリザベートが破壊したはずであり、ミズキも水覚で確認したが確実に壊されていた。

 だが魔方陣があったところを突き抜けるように地面から力強く太い光の柱があった。


「ということは、俺が壊した洞窟も同じ状態なんだろうな。エリーが壊してくれた森のほうも」

 ミズキはユースティアたちのことを心配しつつ森のほうをちらりと見た。

 この予想は当たっており、エリザベートたちも今まさに森へと急いでいた。


「アーク、このまま真っすぐ行ってくれ。俺は先に探ってみる!」

「ピピー!」

 アークの背中でミズキは目を閉じると、水覚を真っすぐ島まで伸ばしていく。


 まだ島まで距離はあるが、海の水を利用することで素早く島を把握することができている。


「魔物はいない……光は魔法陣があった場所の――地下か!」

 ミズキは島の体表は全てチェックしていたが、地下にまでは目が向いていなかった。


 しかし、周囲に魔物の姿はないため、あの柱がなにかに影響を与えることはない。


「なら、なぜ今更あんな風に?」

 そこで、ミズキは考え込む。

 魔族たちがわざわざかかわった今回の問題。あっさりと逃げていった敵。立ち上る、黒い光の柱。


「なぜ、一か所ではなく三か所に……? まさか!?」

 この疑問が思い浮かんだところで、ミズキは目を開く。


「アーク、戻るぞ。もうあれをどうにかするのは難しい。次の問題に向けて動く!」

「ピー!」

 もちろんアークはそれに疑問を挟むことなく、素早く反転すると港へと戻って行く。


「三なのか、六なのか、はたまた違う数字なのか」

 なにかが見えているミズキの言葉。

 それがなにを意味するのか、アークには理解できないが、なにやらとんでもないことが起きようとしていることだけは感じ取っていた。




 港街に到着すると、騎士たちが船に乗り入ろうとしているところだった。


「おい、島は行かなくていい。あの光をなんとかすることに意味はない。結界が強固すぎてなにもできないからな……それよりもあっちに行くぞ!」

 ミズキが指さしたのは、島でも、森でも、洞窟でもない、別の場所。

 その三か所を頂点にした三角形の中心だった。


「俺たちも地上を行く。すぐに馬に乗ってくれ。道中で聞きたいことがある」

「わ、わかりました。みんな、聞こえたな? すぐに馬に乗っていくぞ!」

 こちらも部隊長のアイアンの指示に従って全員がすぐに準備を始めて行く。


「いいな、行くぞ!」

 時間が惜しいミズキは、部隊長二人は馬に乗ったのを確認すると、すぐに移動を始めて行く。


「そ、それで、聞きたいこととはなんでしょうか?」

 出発してすぐに緊張をにじませたアイアンがミズキに質問してくる。


「あぁ、このあたりで、どれだけ昔でもいいんだが強力な魔物が封印されたなんて話はあるか?」

「強力な魔物……私は知らないが、コバルトはどうだ?」

「いや、私も知らない」

 部隊長二人はミズキの質問の答えに心当たりがなく、首を傾げている。


「……あ、あの、僕、知っているかもしれません!」

 ミズキたちの会話が聞こえていたため、騎士の一人が会話に参加してくる。


「教えてくれ」

 立場など関係なく、とにかく情報が欲しいミズキは少し速度を落として彼の隣に移動する。


「あ、あの、おばあちゃんに小さい頃聞いたんですが、数百年も昔の話で、大地の神と呼ばれる魔物がこの地にはいたそうです。強力な力を持っていて、守り神のような存在だったのですが、闇の神に飲み込まれてこの地を滅ぼそうとする悪神になってしまったと……封印されていたかどうかはわかりませんが、その神は最後には大地に還ったと言われています」

 こうやって話をする機会があまりなかったためにどもりつつではあったが、騎士は祖母に聞いた話を語る。

 それを聞いてミズキは最初に感じていた悪い予感はこれだったのかと思いながら再び部隊の先頭へと駆け抜けていく。


「ま、まさか……」

「そんなことは……」

 この会話の流れ、ミズキの反応を考えると、今回その大地の神が蘇るかもしれないという結論に部隊長たちはいきつくが、それを認めたくはないという重いが顔に現れている。


「こいつは厳しいかもな……」

 水帝を目指すミズキ。

 その力は相当なものであり、これまでの戦いでも全力は出せていない。


 しかしながら、さすがに神とも呼ばれる魔物を相手にしたことはなく、どんな戦いが待ち受けるのか考えながらぐっと拳に力を込めてただ前を見る。


「そ、そんな……」

「くっ……」

 あれだけの力を持つミズキが厳しいと呼ぶ相手とこれから戦うと考えると、彼の後ろをついていく部隊長二人は絶望的な気持ちになっている。


 しかし、先頭をひた走るミズキの口元には笑みが浮かんでいる。

 先ほどの言葉とは裏腹に、これから繰り広げられるであろう戦いを楽しみにしていた。


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