第67話
朝食も良い食材を使っており、控えめなボリュームながらミズキたちの舌を満足させるのに十分なものが提供されていた。
「ふう、腹いっぱいだ。それじゃ、すぐに出発でいいのか?」
心地よく満たされたお腹に満足そうにしているミズキが質問すると、マクガイアが執事に声をかけ、部隊長たちに確認するよう指示を出す。
「少し待ってくれ。確認に向かわせたから、もうしばらくしたら……」
といったそばから足早に執事が部屋に戻ってくる。
「みなさん出発準備は完了しているとのことです。部屋の外で部隊長が待機しておりました」
「なるほど……じゃあ、いくぞ」
ミズキも準備を既に終えており、すぐに出られるため立ち上がる。
「はい、いきましょう」
「うん! もう、ちゃんと起きたよ!」
エリザベートは静かに、ユースティアは少し元気に返事をする。
「うむ、みんな、頼んだぞ」
このマクガイアの言葉が、なにかあったときはミズキたちが頼りだという意味を込めている。
自分の部下のことを信頼していないわけではなかったが、ミズキの圧倒的なまでの魔法を見せられた今となっては、自然とこんな言葉が出てきた。
「みなさんお気をつけて」
ふわりとほほ笑んだレベッカもミズキたちに声をかける。
「まあ、もう大きなことは起きないと思うが……」
そう口にしたミズキは、それでもどことなくなにかを見落としているような感覚を薄っすら持っている。
「大丈夫だって! あいつらみんなミズキがぶっ飛ばしたんだから、戻ってはこないでしょ」
ユースティアが楽観的なことを口にする。
あいつらとは、結局取り逃がすこととなったやつらのことだったが、ミズキの不安は別の場所にあった。
「あいつらは大丈夫だろうが……なんであんなにあっさりと帰ったんだ? 普通に考えたらおかしいだろ。三つの場所を拠点にするかのごとく、魔素で環境を変えていた。しかも、かなりの時間と手間をかけてな」
そう言われると、エリザベートもユースティアも、あのまま終わるとは思えないなと考え始めていた。
「――ま、行ってみての判断にはなるが、油断せずに行くぞ」
「はい!」
「うん!」
今度は返事をした二人ともが緊張感を持っていた。
マクガイアたちに見送られてミズキたちは部屋を後にする。
「おぉ、これはミズキ殿、エリザベート殿、ユースティア殿。昨日は我々が未熟であるがゆえに、とんだ手間をとらせました。部下にもしっかりと話をしておいたので、今日は大丈夫です!」
部屋を出たミズキたちを出迎えたのは昨日の部隊長たちのうちの一人で、彼は笑顔で近づき、話しかけてくる。
「それはよかった。じゃあ、早速行くか。ちなみに、どういうスケジュールになっているんだ?」
ミズキは残りの二か所をどういう流れで確認するのかが気になっていた。
基本的にミズキたちは騎士たちの調査についていく形のため、そこが気になっていた。
「とりあえずみなのところに行ってから説明しましょう。いっぺんに話したほうがいいですし、おかしなところがあれば意見を頂きたいので」
「わかった。みんなのところで話すとしようか」
部下と他の部隊長は屋敷の前に待機しているため、そこで話を進めたいという部隊長にミズキは頷いた。
ミズキが話を進めていくが、エリザベートとユースティアは彼に判断を任せているため、口を挟まずにいる。
屋敷を出ると、各隊が既に整列して待っている。
「おぉ、しっかりと統制がとれいていいな」
ミズキは綺麗な隊列に感心していた。
そんなミズキのもとへ残り三人の部隊長が集まってくる。
「昨日は失礼しました」
「今日は大丈夫ですので、ご安心を」
「よろしくお願いします」
ここで改めて言葉を重ねることで部下たちへのけん制を兼ねており、その効果はてきめんだった。
三人が殊勝な態度でミズキに話しかけているのを見て、部下たちは本当のことなのだと、息をのんでやりとりを見ている。
「で、早速今日の予定を聞かせてもらえるか?」
全員が集まった場所でといわれていたため、ミズキが話を進めるよう促す。
「はい、我々の調査対象は森と島の二つです。洞窟に関しては別の部隊が既に調査に向かっており、おそらく近日中に戻ってくると思われます」
まずこの説明で、洞窟に関しての調査報告はまだあがっていないということがわかる。
「我々四人はそれぞれ部隊を持っていますので、2:2にわけて森と島にわかれようと思っています」
妥当な判断であり、ミズキもそれを聞いて頷いている。
「みなさんは、それぞれの判断でどちらに向かうか決めて頂ければと思っています」
ミズキたち三人の実力を詳細に把握しているわけではないため、三人の判断に任せるというこの判断にもミズキは頷く。
「それじゃ、森のほうはエリザベートとユースティアに任せるか。もちろんイコもそっちだ」
「わかりました、ティアさんよろしくお願いします」
「うん! エリーもよろしくね!」
二人はミズキの指示に返事をする。
女性同士で通じ合うものがあったのか、いつの間にか彼女たちは互いを愛称で呼び合う中になっていた。
「あ、ミズキも私のことティアって呼んでいいよ!」
この二人になら自由に呼んでもらっていいと、それくらいにはユースティアは心を許している。
「はいはい、それじゃ森のほうは攻略したエリーに任せる。ティアのことも守ってやってくれ」
「もちろんです!」
「……ぶー、それじゃ私って足手まといみたいじゃん……」
不満を口にするものの、ユースティアは二人と比較して実力で劣るとわかっているため、頬を膨らませつつもそれ以上は言わなかった。
「というわけだ。ただ……」
ただの調査だとは言っても、やはりミズキはなにか気になっていることがあった。
しかし、それは嫌な予感という曖昧な勘に近いものであり、明確に説明できずにいる。
警告せずに何か起こるよりも警戒しておくに越したことはないだろうと口を開く。
「……うーん、正直予感程度で騒がせたくないんだが、なにがあるかわからないから、どれだけ安全だとしても決して気を緩めるなよ」
存外、ミズキが真剣な表情で警告するため、エリザベートとユースティア、そして部隊長四人も真剣な表情で頷いて返した。
「よし、それではミズキさんは我々の部隊と行きましょう。みんな行くぞ!」
ミズキとともに行くのは、髭の立派な部隊長アイアン、スキンヘッドの部隊長コバルトの二人。
エリザベートとユースティアと共にいくのは、右目に傷のある部隊長カッパー、面長な顔のニッケルの二人となる。
そして、彼らはそれぞれの調査地点へと出発していった……。
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