第63話


 その日の夕食はマクガイアの手配でかなり手の込んだ料理が出され、ミズキたちは晩餐を存分に楽しむことができた。


「はあ、美味かったな……」

「美味しかったです……」

「ふう、満腹だあ……」

 ミズキ、エリザベート、ユースティアは心地よい満腹感に満ち足りながらゆっくりと食後のお茶を飲んでいた。


「喜んでくれたようでよかった」

 穏やかにほほ笑むマクガイアはミズキたちがさっさと帰ってしまわないように、シェフに特に力を入れるよう話しており、結果に満足していた。


「あぁ、これだけのご馳走を食べたのはひさし、ぶり? いや、初めてかもしれないな」

 グローリエルたちがいる実家では、色々なものを食べてきたが、今回のような豪勢な料理とは種類が違った。


「それはそれは、腕をふるってもらったかいがあるというものだ。それで……なんだがね、まあ美味しい料理を用意したからというわけではないんだが、少しこの街にいてもらうことはできるか?」

 マクガイアは下心丸出しの自分を少し恥じながらも、それでも街のために彼らを引き留めようとしている。


「うーん、まあ色々してもらったらし、話も聞いてもらったからそれくらいは構わないが……問題は、ここにいて何をするかだな。ギルドに行ったところで大した依頼があるわけでもなし、そもそも俺は良く思われていない」

 本来の仕事を冒険者にしているミズキは、それができないとなるとこの街にいる意味を考えてしまう。


「そ、それでは私が直接君たちに依頼を出すというのはどうだ?」

 苦肉の策のようでもあるが、実際ミズキたちにやってもらいたいことはあるため、嘘とは言えない。

 冒険者の中にもランクが上がると指名依頼などで直接領主や貴族から依頼を受けることもあるため、それを提案する。


「ふーん、例えばどんなのだ?」

 高ランクにならないと受けることのない指名依頼というものにミズキは少し興味を示す。

 なにかできることがあって、報酬がもらえるのであれば受けるのもやぶさかではなかった。


「洞窟には既に調査部隊を派遣しているが、森と島にも派遣しようと思っている。その時に案内と念のための護衛としてついていってもらいたい」

 ミズキたちが安全にしてくれた場所ではあるが、それでも今までのことを考えると部下たちを危険な場所に向かわせたくはない。


 そこで実力者のミズキたちがいれば、安心して任せられるとマクガイアは考えていた。


「なるほどな……本当にそれが希望だとしたら、別にやってもいいぞ」

「本当か!」

 ミズキの了承ともとれる返事をきいたマクガイアは、思わず前のめりになってしまう。


「――ただし!」

 まだ続きがあるため、ミズキが視線で押さえる。


「う、うむ、少し焦ってしまったな。すまない、続けてくれ」

 つい熱くなってしまっていたことに気づいたマクガイアもミズキの強い言葉に冷静さを取り戻した。


「ただし、俺たちのことをそいつらが疑わない、という条件つきならやってもいい」

 いちいち水属性であることを突っつかれても、本当に今回の問題を解決したのかも、聞かれるたびに答えるのは少々面倒だった。


「な、なるほど……」

 わかった、と即答したいところではあったが、無理やり納得させるのは難しく、同行させれば不満や疑問が出てくるのも当然である。


「それがのめないなら、少し考えさせてもらわないとになる」

 ミズキはこれ以上は譲歩をするつもりはない。


「うーむ……」

 マクガイアはなにかいい手がないかと考え込んでしまった。


「あら、おじ様。そんなの簡単じゃないですか!」

 ユースティアには案が浮かんでいるらしく、しかもそれは実にシンプルなものであるため、なぜマクガイアがそこまで悩むのか理解できなかった。


「な、なんだね? その簡単という方法は?」

 藁にもすがるおもいで、マクガイアが質問する。


「まあ、ミズキに一度だけ頑張ってもらわないとになるけど……全員を集めて、魔法でふっとばしちゃえばいいと思う!」

 これまたとんでもない案が出てきたため、マクガイアは口をあんぐりとあけて驚いてしまっている。


「確かに、それなら一度で済むな。全員を集めて、俺が魔法でぶちのめせばいいのか」

 一方でミズキはユースティアの話が名案だと捉えており、乗り気になっている。


「い、いや、それはちょっと……」

 マクガイアは防げないとわかっていてミズキの魔法を受けさせるのは、さすがに部下たちに申し訳ないと感じている。

 実力をただ示して言うことを聞け、というのは簡単だが、それでは部下たちのプライドが後々問題を引き起こす可能性があると思っていたからだ。


「もう一つ案がなくはないが、俺が同行していってその間、質問禁止。魔物との戦闘になったら俺が担当する。で、実力がわかれば不信感は拭える。ってのはどうだ?」

 これはミズキが考えた案であり、序盤だけ我慢してもらうことで、戦闘をするミズキを見れば実力に疑問を持たなくなるだろうという判断である。


「それもなかなか悪くない案だが、果たして黙って同行を許すかどうか……」

 マクガイアは部下たちが果たして質問することなくミズキの同行を許し、戦闘を任せるのかという疑問が強くなっていた。


「じゃあ、やっぱり先にドカン……は嫌なのか」

 どうしても嫌だということで、マクガイアは大きく首を横に振っている。


「それで妥協案でこういうのはいかがでしょうか? 部下のみなさんのことを気遣っているため、先に力を見せつけるのは難しい。かといって言葉だけで納得するとも思えない。なら、こちらで所有している戦力のトップの方々に話しをつけるために、その方たちにだけミズキさんの魔法を見せるというのはいかがでしょうか?」

 これはエリザベートの提案である。

 全員を対象にするのではなく、上の者だけに知ってもらうことで、彼らに説明を代わってもらうということだった。


「なるほど、それなら情報の漏洩は防げる。ああいうところの所属しているやつらは上の指示なら下も従う。いい案だな……」

 なぜこれが思いつかなかったのかと、ミズキはエリザベートの案に感心していた。


「ということで、訓練所みたいな場所があれば、調査に向かうやつらをそこに集めてくれ。話はそれからだ」

 これで納得してくれれば、話を進めやすいため、マクガイアも頷いていた。


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