第62話
「少し疲れるが、やるか……みんな動くなよ?」
この言葉にエリザベート、アーク、イコの三人は無言で頷く。
「い、一体なにをするんだ?」
「おじ様、疑問を持ったのはおじ様なのだから、落ち着いてミズキを信じてください」
動揺するマクガイアにユースティアが声をかける。
彼女もミズキの魔法のすごさを知っているため、なにが起きても大丈夫と信頼している。
「それじゃ、ご覧あれ」
リラックスしたように魔法を発動させたミズキの手のひらからコポリコポリと湧き出すように水が生み出されていく。
どんどんどんどん、次々に、大量の水があふれ出していく。
最初は水たまり程度だったそれは部屋中を水浸しにせんとばかりに湧き出す。
「っ、ちょっと、これは大丈夫なのか?」
「黙っていないととんでもないことになるぞ?」
わかりやすく動揺しているマクガイアに、ミズキはニヤリと笑っていう。
「うっ」
他の面々が落ち着いている中で、自分だけが騒ぐわけにもいかないと、マクガイアも息をのんで我慢することにした。
「落ち着いたところで一気にいかせてもらう」
ミズキが生み出している水は、どんどん増えてマクガイアの首のあたりまで水に浸かっている。
水圧を感じながらどうなるのか予想できずに緊張した面持ちでマクガイアは固まっていた。
「まだ動くなよ」
そして部屋の全てが水に覆われて行くことになる。
この状況を更に大きくしたのが、島でミズキが使った魔法だということだった。
「終わり!」
ミズキがパンと手を叩くと、大量の水が一瞬で消え去る。
「……はあ、はあ、こ、こんな経験は、さすがに、初めてだ」
ありえない状況から解放されてほっとしたように息をついたマクガイア。
「驚かせたな。まああれくらいのことはできるってことだ。水でこの部屋を満たした形になるが、服は濡れてないだろ? なんだったら、床もテーブルもどこも濡れていないはずだ」
「た、確かに……」
手も足も顔も全てが水にのみこまれたにもかかわらず、どこも濡れていないことにマクガイアは驚いていた。
「今は身体に影響がないように水を調整したわけだが、逆にこれを影響があるようにすることもできる」
そう説明するとミズキはニコリと笑った。
水を自在に操ってこれくらいのことは簡単にできる。だから、この説明で納得しておけ、とミズキは暗に言っていた。
「続けるぞ。俺とアークとユースティア以外の気配が動き始めたのを感じて俺も一緒に動いた。そいつらはユースティアたちに襲いかかって、殺そうとまでしていたんだが……」
「私が間に合うことができて、魔法で男の武器を破壊しました」
「そこからは私は気絶してて記憶がないね」
ミズキ、エリザベートの説明に、ユースティアが続く。
「俺もそのあとに到着して、戦いに参戦した。魔法で攻撃したんだが、そいつが正体を表した。まあ、魔族だったわけだが」
「うん、んん? 今、なんと?」
一度は頷いて納得しようとしたマクガイアだったが、聞き捨てならない言葉に聞き返す。
魔族は危険な種族であり、魔素の濃い魔界に住んでいるため、そうそう出てくることはない。
「話が進まないからざっくり話すが、そいつの正体は魔族。倒そうとしたところで、俺が洞窟であったやつらが邪魔に入ったんだ。でまあ、まんまと逃げられたが島の魔法陣は全部壊しておいた。またあいつらが来たらどうなるかわからんが、とりあえずの問題は解決したはずだ。あとの調査は頼むぞ」
魔族についての説明などはするつもりもなく、ミズキはそこで話を切り上げる。
「ど、どこに行くんだね!」
ミズキが立ち上がったのを見て、マクガイアが慌てて質問する。
「んー、宿を探すか、もしくは実家に帰るかだな。この街でゆっくり海のものを食べようと思ったが、まだまだ元の状態に戻るには時間がかかるだろうし、俺たちには信用がないから解決したとわかるまで時間もかかるだろう。だったら、この街にいる意味もない」
ギルドマスターの対応も悪く、マクガイアにしてもどこか最後までミズキのことを疑っている部分があった。
このことからも、この街にとどまることはミズキにとってメリットは少ない。
「少しこの街にいてもらいたいんだが……宿はこちらで手配する!」
少し必死さをにじませたマクガイアにそう言われて、ミズキは微妙な表情になる。
「――申し訳ないが、ハッキリ言って俺がこの街に残ることになんの価値も見いだせない」
だがそれでも気持ちがあまり動かないミズキはズバッと断る。
「そ、それは……」
正式な依頼ではなく、話の流れで今回のことを行ったため、宿をとるのが報酬というのもおかしな話であり、冒険者ギルドも絡んでいないため、実績にすることもできない。
「街がここまで落ち込んだのも、人が減ったのも、冒険者がいなくなったのも、多くの者が調査に向かって死んだのも、全ての原因はあの洞窟と森と島の異常にあったわけだ」
ミズキが何を言いたいのか理解しようとしっかりと話を聞いているマクガイアもこれに反論はなく、小さく頷く。
「調査は必要としても、それらを解決したのは俺たち三人、じゃなくて五人だ。それだけのことを成したにもかかわらず、恐らくあんたたちからの見返りはないだろうな。だから、俺がそれに付き合ういわれはない」
そもそもミズキは冒険者ギルドでのギルドマスターからの扱いに苛立っていた。
それでも前の街での問題と同じような状況であったため、調査をしておこうという善意から行動していた。
そこでユースティアと知り合うことになったわけだが、結局この街の人間で動いたのはユースティアだけである。
彼女の素直で一生懸命な街を思う気持ちを汲んだ部分はあったが、問題を解決した以上、ミズキが矢面に立つ必要があり、そうなった時にまた実力云々でいちゃもんを付けられるのはごめんだったのだ。
「ユースティアは一緒に行動して頑張ってくれたが、他のやつらは何もしなかったからな。ま、それでも問題が解決したんだから十分なんじゃないのか?」
ここまで聞いたマクガイアは、叙勲されてもおかしくないほどの実績をミズキたちは残していることに改めて気づかされる。
街の救世主といっても、なんの誇張もない。
「わ、わかった。その、君たちがしてくれたことには全力で応える。だから、今日はうちに泊っていってくれ。頼む!」
そう言うと、マクガイアは視線をユースティアに向けた。
この場において、彼の味方になってくれるとしたら彼女だけである。
「えーっと、こう言ってるし、今日だけでも泊っていこうよ、ミズキ」
「うーん」
ユースティアに言われると、無下に断れないとミズキは考え込む。
「きっとすっごく美味しい料理を用意してくれるはずだよ! だよね、おじ様!」
「え? あ、あぁ、そ、そうだな。そうだ! シェフに最高の料理を用意させよう!」
先ほど『海のものを食べようと思った』とミズキが言ったのを思い出して、藁にも縋る思いのマクガイアはユースティアの言葉にのっかっていく。
「ふう、まあそこまで言うなら仕方ない。ただ、誠意のない対応をされたら帰ることを忘れないでくれ……というわけだ。エリー、少し付き合ってくれ」
「はい、もちろんですよ」
笑顔で頷いたエリザベートは久々にミズキと行動できることを嬉しく思っているため、ここに留まろうと家に帰るのであろうとどちらでもよかったため、二つ返事で受け入れた。
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