第61話


 領主の館に到着すると、エリザベートがパーティに増えているにもかかわらずスムーズに案内される。


「おかえり、といっておこうか。ミズキ君にユースティア君、アーク君も……そちらのお嬢さんは初めてだったね」

 マクガイアがミズキたちを笑顔で迎え入れてくれる。


「初めまして、ミズキさんと、えっと、同門? のエリザベートと申します。こちらは私のパートナーのイコさんです」

「ピッピー!」

 エリザベートが挨拶をし、イコもそれに続く。

 さすがにバイコーンのまま来るわけにもいかないので、アークと同じように小鳥の姿になってエリザベートの肩に乗っている。


「ふむ、よろしく頼む。まず私から報告なのだが、洞窟の調査はすぐに行った。結果として……完全に以前の状態に、いや、むしろ以前よりも安全な環境になっていた」

 報告に上がっていた書類をちらりと見ながら、感謝の気持ちを込めてマクガイアは穏やかな口調でそう言った。

 ミズキは強力な魔物だけでなく、他の魔物もついでに倒しておいた。それゆえの現状である。


「あぁ、そっちが確認できたなら話は早いな。次だが、エリーから説明してもらおう。森のほうの話を頼む」

「わかりました!」

 ミズキが言うと、エリザベートが説明を始めていく。


「森も洞窟や島と同様に魔素が濃く、多くの強力な魔物がいました。なので私はまず魔物をなんとかするところから着手していきました」

 魔物の数を減らすことで、行動をしやすくする――それが、エリザベートの判断だった。


「魔物を、そうですね……五十体ほど倒した頃でしょうか。どうやら、魔物たちが私の力に気づいてあまり近づいて来なくなりました。そのタイミングで森の奥まで行くと、魔法陣が二つ設置されていました」

 淡々と説明していくエリザベートに、マクガイアとユースティアは目を丸くして驚いている。


 森の魔物も他と同様にかなり強くなっているはずである。

 そうだというのに、彼女はあっさりと五十体を倒したという。

 しかも、その魔物たちが彼女を避けるほどの圧倒的な力で。


「あ、もちろん魔法陣は破壊して、残った魔物もある程度倒しておきましたので、そちらの調査もよろしくお願いします」

 これで説明は終わりだと、にっこりと笑ったエリザベートは頭を下げる。


「というわけで、森のほうの問題も解決。ただ、全域を把握するのは難しかったから、強い魔物がチラホラいる可能性もある。だから、しばらくは実力者で調査、あとは立ち入り禁止措置がいいだろうな。魔素量が減っていけば、強力な魔物もいられなくなるはずだ」

 この話を真剣な表情のマクガイアはメモを取りながら聞いている。


「森のほうはそれとして、次は島の話だな……」

 ここからはミズキが説明を担当する。


「事前に聞いていたとおり、魔物がかなりの数がいた。海には海の魔物が、空には空の魔物が、島にいる魔物も上空にいる俺たちに気づいていたみたいだ」

 それだけで、相当な数の魔物がいることがわかる。


「ちなみに俺たちは空から行くことを選択した。空の魔物は実力差を理解して近づいてこなかったんだが、地上から魔法をうってきたやつがいて、その爆発で俺とユースティア、アーク組に分断された」


 ここでマクガイアは首を傾げる。

 アークの正体を知らない彼は、なぜユースティアと小鳥に分断されたのかがわからずにいる。


「あぁ、アークは今こんな姿をしているがグリフォンだ」

「……ほあ?」

 突拍子もないミズキの発言に驚愕したマクガイアは変な声を出してしまう。


「アーク、そのへんで元の姿に戻ってくれ」

「ピー」

 部屋の中の少し開けた場所に移動すると、アークは本来の姿へと変化していく。


 そこには成体のグリフォンが現れた。


「うおおお! こ、こんなことが!」

 小鳥だと思っていたものがグリフォンに変化したこと、そして珍しい魔物だと認識されているグリフォンが目の前にいること、それを完全に使役していることに驚き、という三つの驚きがマクガイアに一気に降りかかった。


「まあ、わかってもらったところで話を続けよう」

 そんな驚きの渦中にあるマクガイアの気持ちに関係なく、淡々とミズキが話を戻す。


「俺は魔法を使って島にいる魔物や人の気配を感知していった。で、あまりに数が多かったから、一気に倒すことにしたんだ。幸い水だけはかなりの量あったからな」

 島であるため、周囲は海に囲まれている、それは水魔法を扱うミズキにとって好都合だった。


「魔法で大波を起こして、魔物たちを一気に飲み込んでいった。ユースティアたちは、アークがいるから空に逃げてくれるだろうと踏んでな。予定どおり、魔物は全部倒せた」

 これまでに圧倒的なまでの暴力的な水に飲み込まれる経験をした魔物などはおらず、水中で呼吸ができなくなる魔物、水圧で押しつぶされた魔物、海に押し流された魔物などなど、全ての魔物が津波によって一網打尽にされた。


「で、残ったのが俺、アーク、ユースティア、謎の気配が二つ」

「ちょ、ちょっと待ってくれるか?」

 淡々と話を続けるミズキに対して、混乱したマクガイアは頭を押さえつつ口をはさまざるをえなかった。


「なんだ?」

 急に話の腰を折られたたため、ミズキはやや不満そうな顔になる。


「いや、話を止めて申し訳ないのだが、魔物は全部倒せた――そう言ったのか?」

 この問いかけに、ミズキは頷く。


「い、いやいや、話を聞く限り、いやこちらの調査結果にもあったが、島の魔物は洞窟や森よりも多かったと聞いている。それを、その、君の魔法一つで全て倒したのかね?」

 ありえないことを言ってるため、確認という名のツッコミをいれざるを得ない。

 マクガイアが知る限り、ミズキはランクの低い冒険者の少年であり、どう見てもそんな大魔法を発動できるようには見えなかった。


「だからそう言ってるだろ? で、その気配のやつが……」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! いや、実際にそんなことが可能なのか? それほどの数の魔物を水魔法で……いや、そういう意味ではなく……」

 理解の範疇を超えて混乱していたとはいえ、マクガイアは一瞬で自分の失言に気づいた。

 ハッとしたように口を閉じ、どこか気まずさを感じている表情でどう表現したらいいのか迷っているようだった。


「あー、そういうね。弱いはずの水魔法ごときで、そんな魔物を倒すことができるのか? ってことか」

「いや、そうではなくて、だな」

 ミズキの言葉に、さらにあおってしまったように感じたマクガイアはどう取り繕うか頭を回転させていた。


「いや、気持ちはわからなくないから少しだけ俺の魔法を見せることにしようか。あー、なにがいいかな?」

 言葉よりも見せたほうが早いと思ったミズキは部屋の中で、自分の力を見せられる魔法を考えていく。

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