第59話
「そうなると、このガキが死ぬことになるな」
それは洞窟で戦った獣人であり、ナイフの切っ先を倒れているユースティアの首元に突きつけている。
「……わかった、見逃そう。だから、彼女には手を出すな」
ユースティアはそもそも、この街を救いたいという思いで、ミズキに同行していた。
本来、こいつらのようなものと戦うべき人間ではない。
「だけど、傷つけたらぶち殺す」
だからこそ、巻き込んだことにミズキは苛立っていた。自分自身に。
「いいでしょう。さ、ひきますよ。今度会った時は……全力でいきましょうか」
そう言うと、獣人の男も青白い顔の男の傍に移動し、何かの魔道具で転移していった。
「……いったか。くそ、面倒臭いやつらを残したな」
単独での戦闘であれば負けることはないが、三人が揃ったら、もしくは他の仲間がいればやりづらいことはわかりきっていた。
「ですね、でも少しだけわかったこともあるからよかったです。あ、そういえば森のほうは私とイコちゃんで解決してきましたよ」
そう話しかけてきたのは下に降りて来たエリザベートである。
イコちゃんとは、彼女が乗っているバイコーンの名前で二文字目と三文字目をとってイコと名付けている。
「おぉ、それは助かった。ありがとうな……あとはこの島の問題の調査か。あいつらが何をしていたのか、それを探らないと」
「わかりました。私とイコちゃんで見てくるので、ミズキさんはアークさんと……彼女を見てあげて下さい」
そうしたほうがいいだろうと、すぐにエリザベートは動き始める。
「仕事が早くて助かるな」
元々も真面目な性格と、ミズキたちへの恩義と、持ち前の行動力から、エリザベートはこういう時に進んで動いてくれていた。
「さて、それじゃ二人の治療をしていくか」
アークは攻撃のダメージを受けており、歩きずらそうにしてミズキのもとへとやってくる。
「まずはお前からだな、”癒し水”」
怪我に直接水の魔法を塗っていく。まるで軟膏のようにそこに留まり、ゆっくりと怪我を癒していく魔法である。
「ピー、ピピー」
ありがとう、それとごめんね、とミズキに頭を下げている。
「気にするな、お前がいたからユースティアは死なずに済んだんだからな。さて、こっちは気絶しているだけだから……」
今度は手に少量の水を作り出して、それを少しずつユースティアの頬にかけていく。
「冷たっ!」
それは気付けになったようで、目を覚ます。
「もう、なんなの……って、あれ? なんか変な人に襲われたところまでは記憶があるんだけど……」
そのあとのことを全く覚えておらず、ユースティアは首を何度も傾げる。
「そいつらは撃退した。逃がすことになったのは残念だがな……まあ、島の問題は恐らく解決だろうな」
ミズキが説明するが、それは目覚めたばかりの彼女が理解するには難しく、ぼーっとした頭で首を傾げている。
「森のほうは俺の仲間が解決してくれた。島の魔法陣も見に行ってくれている。その報告を待って、マクガイアのところに戻ろう」
「う、うん」
とりあえずは、今が安心できる状況であることをミズキが話す。
もう少し彼女が落ち着いてから、全てを話そうと考えており、それは丁度エリザベートが戻って来たのと同じタイミングだった。
「ミズキさん、島の中心にあった魔法陣は壊しておきました。あっ、目覚められたんですね……えっと、自己紹介をしてもいいでしょうか?」
ミズキは報告に頷き、問いかけには視線でユースティアに確認する。
「えっと、はい、お願いします。ちょっと状況がわかっていないので……」
さすがに初対面の相手ということもあって、ユースティアは敬語を使っている。
「ふふっ、ミズキさんと同じ年齢なのでいつもどおりの口調で大丈夫ですよ。私の名前はエリザベートと言います、エリーとお呼び下さい。修業のほうがひと段落したので、ミズキさんのお手伝いにやってきました……私なんかが必要なのかな? とも思いましたが、来て良かったです」
具体的には話さないようにしているが、ユースティアのピンチに間にあってよかったというのが最大の理由である。
「色々助かったよ。にしても、これで街の周辺における異変は全て解決できたはずだから、徐々に街も復興していくんじゃないかな」
現状の有様が最低値だとすると、あとはここから伸びていくだけである。
「あ、あの、私からも自己紹介を……私はユースティア、今回はミズキが街の近隣で起きている事件とかを調査するということで、ついて来たの。街を見たかわからないけど、閑散としてしまって人がほとんどいなくなって……元の街に戻って欲しいなって」
ユースティアは少し悲しそうな表情で言う。
「なるほど、それでたまたまいたミズキさんに声をかけた、と。大正解です! この人、こう見えてすっごく強いんですよ! 多分、今まで出会った人の中でも一、二を争うくらいの実力者です」
「だよね! うんうん、なんかすっごく強くて私もビックリ! 魔物も倒すし、さっきなんか島を飲み込むくらいの大波をおこしてたし……えっ? 思い出したけど、あの大波って本当にやったの? 魔法で?」
改めて口にしたことで、ユースティアはとんでもないことが起きていたことを思い出す。
島全体が飲み込まれてほとんどの魔物が一掃された。あんなことを一人の人間ができることとは到底思えなかった。
「あれか、悪かったな急にやって。そっちはアークがいるから大丈夫だと思ったんだよ。おかげであの魔族のやつ以外は一掃できたからよかった。あー、もう一人の気配はエリーか青白い顔の男ってことか。確か俺以外に四人島にいたはずだから」
「それなら、先ほどの背の高い人かもしれませんね。私は少し遅れてきたので……」
エリザベートがそこまで言ったところで、ミズキは慌てて周囲見回す。
ミズキはあの時、島の上にいる人数を四人と感じていた。ミズキ、ユースティア、魔族の男……つまり残りは一人である。
だが、青白い顔の男は獣人と共に行動していた。そして、青白い顔の男は、獣人とともに行動している。つまり、二人は一つで組となっており、それだと一人多い計算になってしまう。
「もう一人、いる? ……いや、水覚を使ってみたが誰もいないようだ」
その誰かは今回の戦いにおいて、結果だけ見ていた可能性があった……。
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