第55話
「――まいったな」
ユースティアたちが飛んで行ってしまったであろう方向を眺めながら島の上についたミズキはぼそりとつぶやく。
ミズキたちは島からの攻撃によって分断されてしまった。
一人でもミズキなら問題はないが、修業中のユースティアのことが唯一の心配の種である。
「ま、アークがいればなんとかなるか。それに……」
だが悩んでも解決する問題ではないため、気持ちを切り替えて島の奥の方を見る。
ここはアークに対する信頼。
そして、ユースティアのここまでの成長を信じて、自分は自分で動くことにした。
それでも、あちらこちらから魔物たちの強力な力を感じるため、油断はできない。
「さくっと倒していくか」
そう言うとミズキは島の探索に移っていく。
それと同時に魔力を展開し、水覚で周囲の状況を把握しようとしていく。
「……ま、そうだよな」
想像通りの結果に小さく息を吐いて一度魔力の展開をやめる。
洞窟と同じで空気中には濃い魔素が漂っているため、水覚の力が乱されたからだ。
「でも……」
次にミズキは地面の中に向かって水覚を放っている。
海が近いこのあたりは、普段から空気中の水分量が多く、さらにそれは地面にも吸収されている。
それゆえに、島全体に水分が染みわたっていた。
どんな微量でも水があればミズキの領分となる。
あっという間に水覚によって得られた情報がミズキの中に入ってくる。
「なるほど、魔物の数は……三百四十二……人の数は四か……」
魔物は想定どおりかなりの数がいた。
そして、水覚によれば人の数は自分とユースティア以外に二人いることになる。
「恐らくそいつらが今回の首謀者ってことか。もしかしたらあいつらかもな……」
二人という人数に心当たりがあったミズキはある人物を思い出す。
洞窟であった白い男と獣人――人数だけで言えばピッタリあう。
「――いや、違うな」
相手に気づかれないように、少し詳細に探ってみて魔力の質が違うことに気づく。
「となると、急ぐ必要があるな」
感知した魔力があの二人よりも強力であり、そうなるとアークといえどもユースティアを守りながらの戦闘は難しいと判断して走り始める。
魔物がいる場所を避けて、最短距離で島の中を走り抜ける。
それでも全ての戦闘を避けるのは難しく、魔法で最速の討伐を狙い、魔物を倒していく。
「”水槍”」
空飛ぶ魔物にはホーミング機能をつけた水の槍を。
「”水剣”」
進行方向にいる魔物は、近接攻撃で真っ二つに。
速度を落とすことなく、ミズキは次々に魔物を倒していた。
しかし、ここでおかしな状況であることに気づく。
「――次々に倒している……か」
魔物を避けて行動していたはずが、いつの間にか魔物と連続戦闘をとらされていることにミズキは気づく。
つまり、この島を支配する人物が魔物に指示を出してミズキを狙わせている――それが彼の出した結論だった。
「となると、最小限での通過は無理みたいだな」
恐らくは、避けるように移動していても徐々に魔物たちが近づいてくることになる。
ならば、こんな風なまどろっこしいやり方は面倒だとミズキはニヤリと笑う。
「ここは海上にある島。つまり、周りは全て水。地面にも空気中にも水がたっぷり含まれているというわけだ……」
聞こえてはいないだろうが、ミズキの存在を気づいている誰かに向けて、この状況がどんなものであるのか説明していく。
それと同時に、ミズキの魔力は膨れ上がっていき、彼の身体は淡く青い魔法の力を纏う。
そして、周囲にあるありとあらゆる水が彼のもとへと集まっていく。
この変化は島にいる全ての人と魔物が感じ取っていた。
「俺と、アークと、ユースティアを除外――俺を相手に仕掛けてきたのが敗因だ」
水覚でしっかりと仲間の位置を把握し、集まってきた水魔法の力を動かすように腕を伸ばす。
それに呼応するように海がゴゴゴと音をたてている。それは水が海からせりあがる音だった。
それまで自然な波しぶきが立っていた水面が明らかに不自然なほど盛り上がる。
「全てを呑みこめ――”大津波”」
島全体を飲み込むほどに大きく膨れ上がった水は、そのまま巨大な津波となって島を飲み込んでいく。
「GYAAAAA!」
「GUR!?」
「GAAA!?」
突然大量に押し寄せる海水の圧に魔物たちがそれぞれに困惑した声をあげ、ただただ自分たちをのみこもうとしている巨大な水の壁に驚いている。
「はーはっはっは! こいつは、そこらの水とは違うぞ。海の水に、俺の魔力がこもった強力な津波だ!」
久しぶりの巨大な魔法の発動に、ミズキのテンションは上がっている。
そもそも、この世界では地震がそれほど多くなく、テレビなどの映像媒体がほとんどないため、津波という存在を知らない者も多い。
この魔法によって初めて津波を体感する魔物がほとんどである。
島全体を飲み込むだけの水量の津波を避けることはできず、恐らくは島にいたはずの正体不明の二人をも飲み込んだはずである。
事実、島は、魔物たちは全て飲み込まれて、更には島を覆っていた魔素も同時に洗い流されていた。
「ふっ、気持ちよかった」
大きな声を出すミズキは先ほどまであった大量の魔素と魔物たちの気配が一掃されたことに、そして強力な魔法を行使できたことに満足して目を閉じ、それを満喫していた。
が、すぐに水覚から得られた情報に目をぱっと見開く。
「っ……おい、気配が消えてないぞ!」
正確にはユースティアとアークではない誰か二人――その気配は島の中央から動いていなかった。
あれだけの質量の、しかも魔力を込めて明確に敵意を持った攻撃が、効かなかったことにミズキは驚くと同時に胸が熱くなるのを感じた。
「こいつは……面白い!」
そして、この事実はミズキの戦闘意欲を刺激して、笑みを浮かばせることになる。
他の魔物たちは全て倒し、ミズキの行く手を邪魔する者はいない。
だから、ミズキは全力で気配のもとへと向かって走りだした。
自分の魔法に耐えられる相手。それと戦える。それを倒せる――そのことはミズキにとって楽しみになっている。
家での訓練でもそうだったが、グローリエルたちとの戦いは全力を出すことができるため、楽しいものだった。
外に出ればそんな相手がもっといるかもしれないと思っていたが、魔族のセグレスは手ごたえがない相手だった。
洞窟の獣人たちもそれほどでもない。
だから、この敵と戦うのが楽しみで、ミズキはひたすらに気分が高揚していた――。
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