第53話
「あのですねえ、簡単におっしゃいますがあの島は近づくのも困難なほどに危険な場所になっていて……」
ここからはシルクのお説教という名の、島の説明が始まっていく。
いつから異変が始まり、どんな魔物がいて、最初の頃は上陸できたものの帰ってきた冒険者はおらず、徐々に船で近寄ると沈没させられることになったこと。
これらを、かなり詳細に説明してくれた。
「……というわけです! はあ、はあ、わかりましたか?」
熱のこもった一気にまくしたてるような説明は、彼女の体力を奪い、息が乱れている。
「なるほどな。つまり危ない、何人も戻ってこない、船はダメってことだな」
静かに話を聞いていたミズキがシンプルにまとめていく。
「そ、そうなのですが、あまり簡単に言われてしまうとせっかく説明した私の労力が報われないといいいますか……」
あまりのあっさり風味に、ため息を吐いたシルクはどっと疲れが襲ってきてぐったりとしている。
「まあ、わかったよ。とにかくギルドも領主も、それどころか街全体が困っている。洞窟のことも森のこともそうだが、海の街としてはやはりあの島が危険なのが一番困る――そういうことだろ?」
領主のマクガイアからの説明、そしてシルクの説明を合わせた結論がこれになる。
「そう、ですね。更に言えば、この現状に対して誰も見通しを立てられなくて、このままでは街は衰退の一途を……」
人が減っている現状でもかなり危うい状況であり、人口流出にはどめが利かなくっている。
となれば、滅ぶ以外の未来が見えてこず、ユースティアとシルクは俯いて沈黙してしまう。
「まあ、そうだろうな。ユースティアには言ったが、俺はこの街の出身でもないし、活動拠点でもない」
だから見捨てるとでも言うのかと、シルクがキッと泣きそうな顔で小さく睨みつける。
「ははっ、そう睨むなって。俺が言いたいのは、関りが少ない俺なんかがいなくなっても、ほとんどの人間が何も思わない。だから、俺があの島に行くことはなんにも気にすることはない」
「そ、それは……」
さすがにそんな風には割り切れない、とシルクは暗い表情になる。
受付嬢として、冒険者が危ないところへ行くことは彼女として本意ではなかった。
「もう、ミズキダメだよ。そんな風にいったらシルクさんが困っちゃうでしょ? 大丈夫、私たちは……ううん、少なくともミズキはすーっごく強いから、絶対に大丈夫だよ!」
「でも……」
自信満々の笑みでそう言うユースティアの言葉に、それでもと言葉を続けようとするシルク。
これまでも大丈夫だといって居なくなった冒険者たちをたくさん見てきた彼女は、ユースティア達のことを信じ切れない。
「シルクさん、大丈夫だから! ……驚かないでね。あの洞窟の問題も解決してるの。今は領主さんが調査を出してるはず」
この部分は内緒の話であるため、ユースティアは声をひそめている。
少しでも彼女の信じる材料になればと思って話したのだ。
「えっ? そ、そんなことが! も、もしかして、それを解決したのは……」
驚きのあまりシルクは思わず大きな声を出しそうになったため、慌てて自分の口に手をあてている。
そして、その問いかけにミズキがしっかり頷くと、シルクの目に希望の光が灯る。
「でも、俺はここのギルドマスターのシーリアにあまり良く思われてない。なにせFランク冒険者だからな」
あの時のシーリアの塩対応を思い出してミズキは苦笑する。
ランクと自分の魔法属性を現す髪色をみてそう判断したシーリアの気持ちがわからなくもないため、ミズキは彼女を強く批判する気持ちはなかった。
「ま、だからここに報告に来ないで領主のとこに直接行ったんだけどな。とにかく、島のほうも俺たちがなんとかするから待ってろ」
(と、年下なのになんて素敵なことを……)
ミズキのほうが明らかに年下だったが、その頼もしさにシルクは思わず頬を赤く染めている。
「このことを上に報告するもしないもシルクの自由だ。とにかく俺たちはギルドとは関係なく、ただ俺たちのために動く。まだ俺はこの街の特産品を食ってない。せっかくだから美味い魚料理でも食わないとな」
さらりとミズキはそれが理由だと言うと、彼女に背を向ける。
「ふふっ、まあ任せておいて。私は頼りにならないけど、ミズキはすーごいからね!」
ぱちんとウインクをシルクにしたユースティアもそう言ってミズキに続いていく。
若い二人の圧倒的なまでの頼もしさに、胸をドキドキと高鳴らせたシルクはしばらく彼らの背中を呆然として見送っていた。
彼らの背中が完全に見えなくなったところで、最も大事なことに彼女は気づいてしまう。
「……お二人はどうやって島に向かうのでしょうか?」
船で近づけない。
かといって、この街に来たばかりのミズキにそれ以外の手段があるとも思えなかった。
「さあ、一応ギルドには報告して情報も得たから、あとは港から直接島の様子をうかがうことにしよう」
「うん!」
「ピー!」
ギルド内では沈黙していたアークも元気に返事をする。
いよいよアークの活躍の場がやってくるため、気合が入っている様子だ。
「ははっ、ここはアークがいないと成り立たないからなあ。助かるよ」
「ピピー!」
頼られているのが嬉しいらしく、アークは上機嫌でミズキの頬にすりすりしていた。
「ミズキ自身がすごいのに、仲間のアークもすごいよね。なんたってグリフォンだもん!」
アークが戦っている場面はみたことのないユースティアだったが、グリフォンという魔物の強さは聞いたことがあり、それこそ上位の魔物であることを理解している。
ユースティアは目をキラキラと輝かせてミズキたちを見ていた。
「そうだな。他のやつらと違って俺たちは空から近づけるというメリットがある。万が一空で魔物に狙われたとしてもアークがひと睨みすれば大抵のやつは尻込みするはずだ」
ミズキは柔らかく目を細め、アークの首元を撫でながらそう言った。
これはエールテイル大森林でもあったことで、魔物同士が出会うと、強力な魔物に手を出してくることは少ない。それは彼らの生存本能のようなものだった。
「そっか、それはすごいなあ。もし、それでも襲ってきたらミズキがいるもんね!」
ミズキの力に関しては、どれほどのものか実感しているユースティアであり、そんじょそこらの魔物では太刀打ちできないことをわかっていた。
「まあ、そういうことだから大船にのったつもりでいてくれ。まあ、ユースティアにも頑張ってもらうつもりだがな……」
「――えっ? なにか言った?」
最後の呟きはあえて聞き取れないようにミズキは小さな声で口にしており、実際ユースティアには聞こえておらず、彼女はきょとんと首をかしげていた。
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