第49話


 念のため、その後も洞窟の中を探索して異変がないかを目で確認してから彼らは洞窟を出た。


「それなりに強いやつもいたから、一応見ておいてよかったな」

 魔素が浄化されても居残っていた強力な魔物はミズキが対応し、もちろん問題なく全て素材になってもらっている。


「なんだかんだ色々な魔物がいたね。でも、少し強くなれたのがわかってよかったよ!」

 うれしそうな笑顔を見せるユースティアは最初のころとは違い、戦いながらも魔力操作をできるようになっていたことで手ごたえを感じていた。


 それほど強くない魔物に関してはユースティアも戦闘に加わり、彼女はメキメキと実力をつけていた。


 ここまで短い時間ではあったが、ミズキから直接の指導を受けてずっと練習していた成果が出ているようだった。


 それまではただただ魔法を使うだけだったが、どうすれば魔力が集中して威力があがるのか? それを考えられるようになっただけで効率的な攻撃を行えている。

 必要なところに必要な分だけ魔力が使えるようになるだけで、魔法の威力は自在に操ることができるからだ。


「魔力コントロールは少しずつ良くなっているから、まずはそれを続けて、あとは魔力量を増やしていくこと。それをするだけで、かなりできることが増えるはずだ」

「うん!」

 師匠であるミズキの言葉は、魔物との戦闘を経た今となっては、以前よりもいっそう参考になるものであり、ユースティアは一言一句漏らさずに身体へ染み込ませようとしっかりと聞き取るように心掛けているようだ。


「ピー!」

 戦闘やユースティアに関して心配のなくなったアークは小鳥の姿になってミズキの肩に止まっており、ミズキと同じようにユースティアの成長を喜んでいるようだった。




 行きよりも短時間で戻ってきたミズキは街の入り口で足を止める。


「――で、どうしたものかな」

「どう、って?」

 ユースティアはミズキの考えていることがわからず、不思議そうに首をかしげている。


 街に帰ってきたものの、ミズキたちは次の行動についてまだ考えていなかった。

 各地で魔物が増えてきているというのは聞いていたが、ひとまず最初の地点を制圧したことで次の目標をどうするか悩んでいた。


「いや、洞窟の問題はとりあえずあれで解決したとは思うんだが……」

「あー、二人だけで解決しちゃった……ごめん。ほとんど、っていうか全部ミズキのお手柄だったね」

 ユースティアは自分が成したことといえば、強くない魔物を倒しただけであると思い出し、自分の手柄の少なさから苦笑気味に言葉を言い直していた。


「まあ、案内とか諸々含めてだから二人で解決でいいと思うけどな。それよりも、洞窟の状況に関してどうしたものかな。普通だったら上の人に報告したりするんだろうけど、ここのギルマスは俺のランクを聞いて見放したみたいだから……」

 ミズキがFランクであることを告げた時のシーリアの落胆ぶりは今思い出しても酷いもので、今回の報告をしたとしても聞く耳を持ってもらえるとも思えない。

 嘘だなんだといちゃもんをつけられても困るため、彼女にはできるだけかかわりあいたくなかった。


「うーん、依頼を受けて冒険者として活動したわけじゃないからギルドなんかに報告しないで、別の人に報告をするっていうのはありかもしれないね」

 どうやらユースティアには心当たりがあるようで、ふふんと自慢げに笑っている。 

 どうやら彼女もこれまでずっと街を気にかけてきた一人として冒険者ギルドになにやら思うところがあるらしい。


「それは構わないが、誰かアテがあるのか?」

「うふふ、あるよー! 案内するからついてきて!」

 役に立てるのがうれしいといわんばかりにそう言うと、彼女はまるでステップを踏むかのような軽い足取りで街中を進んでいく。


「……まあ、任せることにするか」

 ミズキはこの街の状況について詳しくないため、もともと住んでいたユースティアの判断に任せることにした。


 街中を進んでいくが、まだまだ大きく状況は変わっていないため、暗い街の雰囲気のせいか人通りは少ない。

 この状況で報告する相手、それが誰になるのか――先を進むユースティアにしかわからないことである。


 十五分ほど歩いたところで、ユースティアは足を止めた。


「ここだよ」

「ここ、か」

 そこは、お屋敷という言葉がピッタリな豪邸であった。

 薄暗い雰囲気漂う街の中でも一線を画す雰囲気があり、冒険者のユースティアが気軽に訪れる場所とは思えなかった。


「で、ここはどんな場所だ? なんだか、俺たちが来るのには似つかわしくない場所のようだが……」

「ふっふっふ、ちょっと待ってね。あのー! 衛兵さん!」

 ミズキの質問に即答はせずに、なにか楽しそうな様子でユースティアが門番をしている衛兵に声をかけていく。


 一介の冒険者が、こんな貴族だか豪商だかの家に来たところで門前払いになるのが関の山ではないかとミズキが考えていると門番と話していたユースティアが右手で小さな丸を作って戻ってきた。


「オッケーだって」

「……なにが?」

 どんな状況で、誰になにをしに行くのか、全く説明をしていないため、訝しげな表情をしたミズキは思わず強めの口調で聞き返してしまう。


「えへへ、ごめんね。そういえば何も言ってなかったよね。ここはね、このあたりの地方を治めている領主さんのおうちなんだよ。で、洞窟の異変について報告したいことがあるから取り次いでほしいって言ったらオッケーだって」

 先ほどの言葉足らずから、かなり補足をしてわかりやすくなったが、ここでミズキは質問する。


「いや、わかったがわからん。なぜ、俺たちみたいな冒険者がふらっと立ち寄って領主と面会ができるんだ? 洞窟の異変を、って言っても、実績がない冒険者だと聞く気にもならないだろ」

 これは当然の疑問であり、ギルドマスターであるシーリア以上に領主という立場ならばもっと話を聞いてくれないのではないかというミズキのそれを聞いて、ユースティアは予想どおりの反応だとニコニコしている。


「まあまあ、いいじゃない。話を聞いてくれるっていうんだから……なんて言ってたら不安になっちゃうかな? まあ、領主さんは私のお父さんの知り合いで、小さい頃遊んでもらったこともあるんだよ」

「しり、あい? もしかしてユースティアは貴族なのか?」

 思わぬユースティアの言葉にきょとんとしたミズキは思わず問いかけてしまう。


 これも当然の帰結である。

 貴族の出であるなら、領主と繋がりがあっても不思議ではない。

 一応ミズキも貴族の出だが、ユースティアからはそう言った雰囲気を感じなかったため、つながりがわからず不思議に思っていた。


「うーん、ちょっと違うんだよねえ。私のうちは普通のおうちなんだけど、お父さんが冒険者をやっていたんだよ。その時に知り合ったらしいんだ」

 これを聞いて、ミズキもようやく得心が良く。

 冒険者が貴族を助ける。依頼で知り合う。実は領主も冒険者だった――など色々なパターンがありえる。


「ゴホン――そろそろよろしいですか? 案内をしたいのですが」

 二人が話している間、親切にずっと待っていた衛兵だが話が終わらないのを見かねて、困ったように咳ばらいをしてから声をかけてくる。


「わあ、ごめんなさいー! 案内お願いします!」

「頼む」

 走ってくるミズキたちを見て、肩をすくめた衛兵は仕方のない子どもたちだと少し呆れた様子になりがら、主人の客を無下に扱わないようにそれ以上は飲み込んで案内に徹していく。


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