第48話
「まず最初に、ミズキは自分の魔力を流して魔法陣を乗っ取ろうとした、んだと思う……」
一応考えをまとめたつもりではあったが、自信のないユースティアはついミズキの表情を窺ってしまう。
「続けて」
あっているとも間違っているとも言わず、涼しげな表情でミズキは続きを促す。
「でもって、なんかバチバチいってたのは魔法陣とミズキの魔力がケンカをしてて、でもミズキが最後には乗っ取れた――って感じであってるかな?」
「正解!」
わかりやすくやったこともあったが、それでも正解を言い当てたユースティアに対して右手で丸を作ってみせる。
「やった! あ、ってことはもしかしてそれを自分で壊したのがさっきの魔法陣の最期でいいのかな?」
「おー、これまた正解だ。それもやってみせよう……破壊!」
ふっと笑ったミズキは実際に魔力を暴発させて、魔法陣を完全に破壊して見せる。
ほかにもいくつかあった魔方陣を次々と破壊し、すべての魔方陣が消失した。
「まあ、これくらいは簡単なんだけどな。それでも魔力のコントロールができないと、反撃を喰らうこともあるし、魔力量がないと最後までできないこともある」
ミズキはどちらも兼ね備えているため、簡単に行うことができていた。
「うん、うん、わかる。コントロールは実際難しいし、魔力量はさっき気持ち悪くなったので十分思い知ったよ……」
そこでユースティアは自分の右手を握って、開いて、不甲斐なさを感じている。
自分に魔力が少ないからあんなことになってしまった、と思っていた。
「あー、ユースティアって俺と同じ歳くらいだろ? ちなみに俺は十三歳と半年くらい」
「えっ? 私は十三歳で、そろそろ誕生日が来るから十四になるけど……」
なぜ年齢を聞いてきたのかわからず、ユースティアは首を傾げながら回答する。
「だったらなんとかなるぞ。成人するまでは魔力量を増やすことはできる。もちろん個々人にある程度の上限はあるけどな」
「ど、どうやればいいの!」
成人とはこちらの世界では十五歳であり、彼女にはあと一年と少ししか猶予がない。
そのため、ユースティアは少しあせったように質問する。
「簡単なことだ。さっき魔力操作の練習で具合が悪くなっただろ? あれは魔力が枯渇した状態を意味する。具合が悪くなるまでっていうのはやりすぎだが、それに近いくらいに魔力を消費する。で、ほとんど回復したら、また限界手前まで魔力を使う。これだけだ」
簡単なことだろ? と笑顔で言うミズキだったが、先ほどの経験から考えると、ユースティアにとってはかなり危険なことだった。
先ほどの体調不良を思い出した彼女は苦い表情をしている。
「ははっ、さっきのことを考えたらそんな調節が自分にもできるのか? って顔だな。安心しろ、そのあたりも対応策があ……」
「教えて!」
食い気味にぐいっと距離を詰めてきたユースティアが言葉をかぶせてくる。
「あ、あぁ、それはな。これを使うんだよ」
少し気圧されながらもミズキが取り出したのは、手のひらサイズの透明な魔石。
「ただの魔石じゃないぞ? これは、無属性の魔石っていってな。属性魔力を流し込むことで、その属性の魔石に変化するんだ。流した魔力の純度が高ければ高いほど、綺麗な魔石になって高値で買い取ってもらえる。ほら」
「わっ、こ、これが無属性の魔石……」
ユースティアは放り投げられた魔石を慌ててキャッチすると、しげしげと眺めていく。
「で、なんでそれがあると調節に困らないかというと、一定以上の魔力じゃないと吸収されていかないんだよ。だから、魔力が少なくなってくるとそこで魔力を受けつけなくなる」
「ふええ、それはすごいねえ」
改めてこの魔石が魔力量上げに適していると理解して、ユースティアは興味深そうにそれを眺めていく。
「しーかーも、その魔石は一定以上で一定以下の魔力じゃないと吸収されていかない。つまり、強すぎてもダメだから魔力の調節が必要になる。ということは……」
「一度に二つ鍛えられる!」
ミズキは一石二鳥と言おうとしたが、同じ意味のことをユースティアが先に言ってくれたため、そのとおりだと頷いた。
「それは好きに使ってくれていいぞ」
「じゃ、じゃあ、やってみようかな……」
そう言われて、気になっていたユースティアは早速魔石に魔力を込めてみる。
しかし、なんの変化も見られない。
「これは、魔力が弱いっていうことかな。じゃあ、もっと強い魔力を……あっ!」
少し力を込めて魔力を流すと、少し光ったと思った次の瞬間、魔石がパキッと音をたててヒビが入ってしまった。
「ううっ……」
そんな結果になってしまったため、ユースティアは涙目でミズキの顔を見る。
とんでもないことをやってしまったという申し訳なさ、情けなさが混在していた。
「あぁ、強すぎるとそうなるんだよ。別に無属性の魔石ならたくさんあるから、いくら壊しても問題ないぞ。壊れたのは壊れたで使い道があるし、ほら新しいのを使うといい。あとは、こんな場所だと落ち着かないからそろそろ洞窟を出よう」
「わっと、う、うん!」
泣きそうになっているユースティアに苦笑したミズキがいくつか新しい魔石を渡す。
ユースティアは新しい魔石を受け取りながら、パアッと明るい顔になった。
表情が豊かに変化する様子は見ていて飽きないものだと、ミズキはふっと優しく笑っていた。
「あとは、この洞窟の環境を変えていくだけだな……」
元凶である魔法陣は破壊したものの、洞窟内には強力な魔物がいて、空気中の魔素も濃いままであるため、少し考え込んだ後、ミズキは地面に手をあてる。
「ん? まだ何かするの?」
魔石に集中していたユースティアだったが、しゃがみ込んだミズキに気づいて近寄ると、小首をかしげながら質問を投げかけた。
「んー、少し後始末をしないとな……」
探るように魔力を広げているミズキは洞窟内を流れている水を利用して全域に魔力を流している。
さすがに広いため、時間がかかっているが、それはやがて完了した。
自分の魔力と洞窟内の水とがリンクされたことを確認したミズキは次の魔法を発動させる。
「あとはこの魔素を――”浄化”」
これは聖なる力を持った水魔法で、彼の魔力に呼応するように洞窟内の水が光を放つ。
その瞬間、それまで淀んでいた空気が一変し、さわやかな潮風香る本来の穏やかな洞窟の姿があった。
「ふう、さすがに全域となると疲れるもんだな」
本来、洞窟内だとなかなか隅々までは空気が循環しないため、空気中の水分も使って風の流れを生み出した。
これによって残った魔物たちも魔素が足らなくなって生息しづらくなっていく。
実際、魔素を食い物にして生息していた魔物たちは足早にどこかへと退散していた。
「すっごーいっ! なんだか洞窟の中がすごくスッキリした気がするっ!」
何をやったのかまではわからなかったが、ミズキによって環境が改善したことはユースティアにも理解できており、そのことで目をキラキラさせて素直に感動していた。
「まあな、でもこれくらいならユースティアもいずれできるはずさ。練習次第でな」
「うん! 頑張るっ!」
これがユースティアに発破をかけることになり、にっこりと飛び切りの笑顔を見せた彼女はやる気が漲ることとなる……。
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