第39話


「……まあ、こうなるわな」

 ランクが高ければ期待を持てたが、ランクが低く、しかも髪の色から水属性であることはわかっていいるため、事態解決への希望の灯は消えた――シーリアはそう判断してしまったことをミズキははっきりと感じ取った。


「あ、あの、街のために動いてくれるというのは本当……?」

「え? あぁ、そのつもりだったけど、どうやらギルドマスターさんからは見捨てられたみたいだ」

 そっと声をかけてきたのはとんがり帽子にローブに杖と、いかにも魔法士といった服装の少女だった。


 年齢は恐らくミズキと同じくらい、ボブカットの髪色はエメラルドグリーンということで、恐らくは風属性である。大きめの目は優しく深い翠で穏やかで気弱な印象を受ける。


「よ、よかった! まだ街は見捨てられていなかった。私の名前は、ユースティア。この街の出身の魔法使いなのだけど……私もこの状況をなんとか変えたいと思ってはいたものの、実力不足で動くことができなくて……」

 シュンと、肩を落としながらユースティアは想いと自分の現状を話す。


「そうなのか……いけそうだけどな」

 ミズキから見ると、ユースティアは実力が足りないとは思えなかった。

 それなりにはやれる、だが自信がなさそう――それが彼女に対する判断だった。


「えっ? そ、そうかな? でも、私の魔法は弱いって色々な人に言われて、いくつかのパーティにいれてもらったけど、最後には辞めて欲しいって……」

 思わぬ言葉に戸惑いを見せるユースティアは、自分の実力に自信がなく、それは元のパーティメンバーにもそう認定されていた。


「ふーん、それでそのユースティアは俺に何か用事なのか?」

 この街の行く末を憂いているのはミズキにも伝わったが、なぜ声をかけてきたのか理由を聞いていなかった。


「あ、そうだった! ごめんね、私はそんなでなかなか強くないんだけれど、今の状態をなんとかしたいと思っているの。でもね、この街にいた冒険者の人たちはみんな見切りをつけて別の街へと行っちゃって……」

 ユースティアの言うとおり、冒険者ギルド内を見る限り、そして先ほどのシーリアの話からも冒険者の数は少ない。

 少ないどころかほとんどいなかった。

 彼女はこの街に対する思い入れがあるのか、数少ない居残り冒険者だった。


 ミズキはその話を頷きながら聞いている。


「そ、それで、あの、ちょっとギルドに来たらあなたとギルドマスターが話をしているのが聞こえてきて……」

 熟睡しきった男が一人いるここではちょっとした立ち話も、誰にも邪魔されることなく耳に入る。


「その、協力して、問題の解決にあたれないかなあ、なんて思って……」

 ただ自信のなさは相変わらずのようで、最後のほうは声が小さくなってくる。

 ミズキに声をかけたのも彼女からすれば相当の勇気を振り絞った結果だった。


「……あのな、さっきシーリアにも言ったが、俺のランクは一番下のFランク。それなのに、何とかしようと思ってるなんてデカイことを一人で言っている。それでも俺と一緒に行動したいのか? 他に誰もいないからとりあえず俺に声をかけただけなのか?」

 ユースティアが期待してくれているのはミズキにも痛いほど伝わってきたが、先ほどのシーリアの反応のように勝手に期待されてがっかりされるのは御免だった。


 端から見たら、ミズキと組むメリットはない。

 ゆえに、最後にわざと一ついじわるな質問を付け加えた。


「っ……違う! ランクが高い方がもちろん安心できると思うけど、実力があるかないかにそんなランク付けは関係ないと思うから!」

 それまで気弱な印象を受けたユースティアがこれまでにない、心に芯がある強い眼差しでミズキのことを見つめながら真剣に話をする。


「私があなたに声をかけたのは、あなたがなんとかしてくれようと考えてくれているから……! それにあなたから普通の人とは違う、他の冒険者とは違う何か、こう……うまく言えないけど強さを感じたからなの!」

「気に入った。行くぞ」

 真剣なまなざしと裏表のない真っすぐで一生懸命な言葉。

 理屈よりも直感的なそれはミズキが求めていたものだった。


 ミズキが聞きたかった以上のことをユースティアは伝えようとしてくれた。

 これで、彼女とともに行動する理由が十分以上にできたと感じていた。


「……えっ?」

「俺の名前はミズキ、水属性の魔法士だ。さっそく、この街の状況を聞かせてくれるか? あー、でもまずは……飯だな。ここに来てから何も食べていないもんでな」

「え? えっと……うん!」

 ミズキがどんどん話を進めていくので、ユースティアは戸惑ってしまうが、彼が乗り気になってくれていることがわかったため笑顔で元気に返事をした。


「それじゃあ、うちに行こうかな。お店だとどこにいってもやっぱり人が少なくて、話してるのが聞こえちゃうと思うから。人に聞かれると、きっと馬鹿にされる……」

 これまでにもユースティアは、自分の想いを馬鹿にされたことがあるため、それを避けたかった。


「そうか、ゆっくり話せるならそれで構わない――見ず知らずの男を家にあげても構わないならな」

 警戒心の低そうなユースティアに一応ミズキは注意をしておく。


 もちろんミズキにはそういった邪な気持ちは一切ない。

 だがユースティアには男に対する危機感を持ったほうがいいんじゃないか? と思っている。


「うーん、ミズキなら可愛いし、格好いいから別に大丈夫かな、なんてね。きっとミズキなら変なことはしてこないってわかってるから!」

 どうやら、彼女は人を見る目に自信があるらしく、ニコリと笑顔でそんな風に言った。


「そんなものか。まあ、なにかするつもりもないし、さっさと行くぞ。ここに残ってたら、シーリアや他のやつによく思われないはずだ」

「そ、そうだね。じゃあ、行こう!」

 シーリアや他のギルド職員たちが寄ってくる前に出なければと、焦ったようにユースティアはミズキの手を引いて家へと案内していく。


 ギルドを出ても、人の数はやはり少なく、数人とすれ違った程度で二人はユースティアの家へと到着した……。

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