第37話
エリザベートが泣いている間に、ミズキとララノアは夕食の準備にとりかかっていた。
「あ、あの、そのみっともないところをお見せして申し訳ありませんでした……!」
目尻が少し赤くなったエリザベートは、泣き終えると自分がとんでもないことをしてしまったと、焦りつつ深々と頭を下げていた。
「いいんだ。私が涙を誘発させたようなものだしな。こちらこそずかずかと心の中に入り込んですまなかった」
「そうだな。というか、そんなにつらかったのか……気づかなくて悪かったな」
「ふふっ、いいんですよ。この家に来てくれた方はみんな家族のようなものです! なので、今日からエリザベートさんもうちの家族です!」
優しい笑顔を浮かべたグローリエルが繭を下げつつ謝罪、側にいたのに気づけなかったと申し訳なさそうにミズキが謝罪、そして元気な笑顔を浮かべたララノアが腕を広げて最後にこの家に受け入れるという順番で言葉をかけていく。
「えっ、そ、そんな、そんなことを今言われたら本気にしちゃいます……」
ララノアは話の流れで言ったのだろうと考えたエリザベートは、何もかもを失って寂しさを感じていたため、居場所を求めていた。期待と不安で少し肩を落とす。
「本気ですよ! というか、この家は元々師匠のおうちです。そこに私が転がり込んで、ミズキさんが住むことになってと、みんな血のつながりはありません! だから、エリザベートさんもここを実家と思って下さい!」
あまり愛してもらえなかった本当の実家のことをエリザベートは思い出したくない。
ならば、ミズキと同じように新しい帰る家を持ってほしいというのがララノアの本心だった。
「で、でも……」
それでも困った様子を見せるエリザベート。これまでの経験のせいで、あと一歩を踏み出せずにいた。
「いいんだ、気にするな」
その背中を押すように、ふっと笑ったミズキは軽く彼女の頭に手をおいた。
「ミズキさん……はい、不肖な私ですがよろしくお願いします」
目尻に再度浮かんでいた涙を拭うと、へにゃりと笑ったエリザベートはララノアの提案を受け入れることにした。
「と、いうわけで、エリザベートさんの加入祝いに今日は宴です! ミズキさんと一緒にたくさん料理を作りましたので持ってきますね!」
そう言うと、元気よく飛び出していったララノアはキッチンから両手に皿を持ち、次々と料理を運んでくる。
「わっ、す、すごいです!」
四人で食べきれるのか不安になるほどの料理がテーブルを埋め尽くしていく。
「まあ……ちょっと作りすぎたのは否めないな」
勢いで作ってしまったことをミズキは反省していた。
「いいんです! お祝いなんだからこれくらい派手にやったほうがいいんです! それに、どれも美味しいから安心して下さい」
ニコリと笑うララノアはその両手に料理を持っていたが、まだキッチンには料理が用意されている。
「あ、あはは、すごいですね。すごく、楽しいです!」
こんな風に誰かと温かな食卓を囲んで、楽しく笑いあえる。
そんな日がくると思っていなかったエリザベートは自然と笑顔になっていた。
「それじゃ、とりあえずはこの辺にして、食事にしよう。なんにせよ食わないことにはテーブルが空かない。ほら、ララノアも座って」
「はーい」
ララノアは手にしていた料理を詰めるようにテーブルへ無理やり置くと、ミズキに言われたとおり席につく。
「さて、それじゃ手を合わせて……いただきます」
「「いただきます」
ミズキの言葉にグローリエルとララノアが続き、エリザベートは初めて聞く挨拶に首を傾げていた。
「あぁ、これはなんというか、ある国の挨拶で食事前に言う言葉なんだ。食材の魂をいただきます、みたいな意味だったらしいが、まあ癖だな。俺がやってたら二人もいつの間にかな」
「へー、面白いですね。それじゃ、私も……いただきます……あってますか?」
「あぁ、うまいぞ。それじゃ、食べるぞ!」
色々なことがあったここ数日、そして長話をしていたせいですっかり腹が減っていた。
そのため、四人はガツガツと料理に手をつけていく。
温かな料理と歓談を交えた穏やかな食事。
それはお腹だけでなく、ララノアの心をも温かいもので満たしていった。
皿が空くと、すかさずララノアが新しい料理と入れ替えるため、料理がないという状況が起こらない。
しかし、それもさすがに無限というわけにはいかず、しばらくしたところで料理も食べる側も限界がきた。
「ふう、良く食った……!」
「お、お腹いっぱいです……」
「久々にこんなに食べたな」
「美味しかったです!」
ミズキはナプキンで口元を拭き、エリザベートは膨らんだお腹をさすり、グローリエルは量に満足し、ララノアは久々にミズキの手料理を食べられて喜んでいた。
「少し食休みしたら今後のことについて話をしよう。まずは……ソファで休む」
落ち着いているように見えたミズキだが、その実腹が苦しくなっており、リビングに置かれたソファに身体を預けてぐでーっと休むことにした。
ララノアは片付けに入り、エリザベートがそれを手伝う。
それはまるで本当の姉妹のように楽しそうであった。
そんな二人を見守りながら、グローリエルは読みかけの本に手をつける。
しばらくして、片づけと休憩が終わると自然と全員がリビングに集まった。
「よし、集まったか。それじゃ少し今後の話をしていこうか。まず俺の目標は水帝になることだというのはエリーにも知っておいてもらうとして、それよりエリーのほうだ。少し修業が必要だな」
今回の依頼において彼女の魔力が高く、魔法も強いことがわかったが、今回のように魔族と戦うことになっては少し実力が足りないと分かった。
ミズキも独自に研究はしていたが、やはり一人で学ぶのには限界があったと経験上知っている。
「は、はい! 修業、ですね」
と言われても、何をすればいいのかエリザベートはわからずにいる。
「ははあ、なるほど。そこで私たちの出番ということだな」
ニタリと笑ったグローリエルは何度かうなずきながら、この短いやりとりで全て理解する。
「そのとおり。俺の実力は既に知っていると思うが、ララノアは俺の姉弟子でそこそこ使える光魔法の使い手だ」
「あ、あはは」
そこそこ、と言われ、ララノアはなかなかに厳しい評価を受けたと思うが、ミズキからみればそこそこ程度なんだろうなあと力なく笑うだけにとどめる。
「それから、グローリエルは元風帝で、かなりの強さを持っている」
「あくまで元、だがな」
ミズキの言葉を念推すようにグローリエルは現役を退いていることを強調する。
「え……えぇええええええ!? 元風帝? ほ、本当ですか?」
「ま、まあな」
あまりの驚き様に、グローリエルは頬を掻きながら視線を逸らす。
自ら名乗るのは恥ずかしいのか、その頬は薄っすらと赤くなっていた。
「というわけで、次期水帝予定の俺、元風帝のグローリエル、光のエルフララノアの三人がエリザベートに修行をつける!」
「お、お願いします……!」
こんな機会はそうそうあるものではないと感じたエリザベートは気合の入った表情で即答し、これより彼女の修業の日々が始まることとなる……。
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