第34話 セグレスの真実


「コホン――それではここからは私が説明します。ミズキさんはわざと驚かせるような言い方をするので、任せていられませんからね」

 プリプリと怒りながら、説明担当をエリザベートが代わることになる。

 ミズキがあまり説明するのに向いていないと判断したためだ。


「……お願いします」

 そう言ったレイラだが、人を殺したというワードを聞いてしまった彼女は険しい表情になっている。


「私たちは森の中でも単独行動をとっていました。他の方々とは魔力量に差があるため、協調するのは難しいと判断したためです。そして、森の奥には件のアイアンデーモンの姿がありました」

 ひと呼吸おいたエリザベートは真剣な表情でゆっくりと落ち着いた口調で順序だてて説明することで、レイラに徐々に真実を伝えようとする。


「それはすぐに倒せたのですが、その場にセグレスさんが現れました。聖堂教会の方々も一緒だったのですが、様子がおかしいと一見してわかりました。なんと、既に彼らは命を奪われていて、アイアンデーモン召喚の依り代になってしまったのです!」

 少し物語調に語るエリザベートだったが、臨場感あふれる彼女の説明にレイラは引き込まれていた。


「そんなことが!」

「それは俺が全て倒した。それが俺があいつらの命を奪ったという話に繋がっている」

 先ほどは冗談まじりで説明をしたミズキだったが、今度は真剣な表情になっていた。


「私はミズキさんがみんなを殺したとは思っていません。むしろ彼らの魂を鎮めてくれたのだと……話を戻しますが、今回のことは全てセグレスさんが黒幕だったんです」

「えええっ!?」

 思ってもいなかった情報にレイラは再び立ち上がる。


「セグレスさんは聖堂教会の方ですが、別の側面を持っていました」

 この反応は想定しており、間髪入れずにエリザベートが説明を続ける。


「あの方は聖堂教会の一員でありながら、その正体は魔族だったんです」

「……」

 レイラはこれまでの話の流れから、セグレスが悪者だったということなのだろうと薄っすらではあるが考えていた。


 しかし、それを上回る遥かにとんでもない情報だったため、言葉がでなくなってしまった。


「あの森の魔素が濃かったのも、魔族のセグレスがアイアンデーモンをこちら側に存在させるために用意したんだ。そして、聖堂教会のやつらを依り代に召喚したのもあいつだ」

 ミズキの言葉に冗談の色はなく、本気の言葉であることがレイラにも伝わる。


「ちょ、ちょっとだけ待って下さい。少し整理させて下さい」

 混乱したままでは話が頭に入らないと判断したレイラは深呼吸をして、これまでの話をぶつぶつと呟きながら整理をしていく。


 実際にセグレスと会った時におかしなところはなかったか? 本当に魔族なのか? その片鱗はあったか? など、色々と考えている。


 時間にして十分ほど経過したところで、レイラが再びミズキとエリザベートの顔を見る。


「わかりました。いえ、完全に理解しきれていないかもしれませんが、とりあえず落ち着きました。それで魔族のセグレスさん、いえセグレスはどうしたんですか?」

 今回参加したメンバーでは魔族を相手にするのは難しい。

 下手すれば全滅したということも考えられる。

 ゆえに、まずはセグレスの、次に冒険者たちの安否を確認しようと思っていた。


「さっきも言ったが、セグレスは俺が倒した。アイアンデーモンも俺が倒した。一応あいつらの核は持って来ているが、これは俺の戦利品でいいよな?」

 あっさりと倒したと言ってのけるミズキだったが、子ども二人があの、最強の最凶の種族であると言われている魔族を倒したことにはレイラも懐疑的になる。


「それは構いませんが……見せてもらうことは可能ですか? 実際にこの目で確認しないことには……」

 信じられないという言葉はさすがに続けなかったが、それがレイラの本心である。


「子ども二人が魔族や大量のアイアンデーモンを倒したなんて信じられないだろうからな。ほら、これがセグレスの核だ」

 話を聞いただけでは納得してもらえないことは当然だと、素直にミズキはカバンから取り出すとテーブルの上に置く。


 魔族のものというだけあり、かなりの魔力を内包しているのがわかる。


「こ、これが……確かにセグレスさんの魔力が薄っすらと感じられます。目の前にしないとわかりませんが、これが魔族のもので、セグレスさんのものだというのは本当のことのようですね。まさか聖堂教会に魔族がいるだなんて……もしや!」

 そこまで言ったところでレイラは何かに気づく。


「あぁ、俺も同じことを危惧している。あいつが聖堂教会に紛れ込んでいただけならまだいい。だが、聖堂教会そのものが……な」

 言葉を濁したが、聖堂教会が魔族の隠れ蓑という可能性をミズキたちは考えていた。


「はあああああ、なんでこんなことにいいいいい……」

 あまりの事態を知ってしまったレイラは顔を両手で覆って、天井を仰ぐ。


 まさか、こんなに大きな事件が自分がギルドマスターを務める街で、自分が発した依頼の末におこるとは思ってもいなかった。


「まあ、救いがあるとすれば、このことを知っているのはここにいる俺たちだけだ。外にも声が漏れないようにしてある」

 ミズキは扉と窓、そちらに順番に視線を向ける。

 そこに誰かがいたとしても声が漏れることはないという意味だった。


「す、すごいですね。ミズキさんは水属性なのにやはりとんでもない実力の持ち主のようです……」

 何気なく言ったレイラの一言に、ミズキは眉間に皺を寄せた。


「ギ、ギルドマスター、それはよくないと思います! 属性で偏見を持つのは失礼ですし、関係なくミズキさんはとてもすごいかたですから!」

 失礼な言葉に強く反応したのはミズキ本人ではなく、エリザベートだった。


 彼女は、相手がギルドマスターという立場のある人間であるため、これまで失礼がないようにミズキの言葉を窘めることがあった。


 しかし、そんなレイラが水属性のことを揶揄するような一言を漏らしたのは看過できなかった。


「そ、そうでした。ミズキさんの実力については知っていたはずなのに、変なことを言ってしまいましたね――申し訳ありません」

 偏見を抱いていたことに気づかされたレイラは自分の失言に気づいて、素直に謝罪をする。


「……まあいいさ。確かに少し気にはなったが、ここはそういうとこだからな。それより、さっきも言ったがこの話を知っているのは俺たちだけで、冒険者たちは何も知らない――さて、どうする?」

 目を細めつつも一息ついて冷静に切り替えたミズキは今後の対応について、ギルドマスターのレイラの考えを聞きたかった。


「そう、ですね……」

 口元に手をやりつつ、悩んだ表情を浮かべたレイラは再度頭の中で情報を整理して、どうするか考えていく。


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