第33話 報告
「ふう、なんとか納得してくれたみたいだな」
「よかったです。さすがに本当のことを全部言うわけにはいきませんからね……」
そろそろ森から出るというところで二人は肩の力を抜いて、こんなことを話していた。
「まあ、さすがにギルドマスターには本当のことを説明しておかないとだろうがな」
「あー、そうですねえ。もしかしたら聖堂教会からも調査が入るかもしれませんから、対応するギルドマスターへの情報共有は大事かもです」
街に派遣した一部隊が音信不通ともなれば、それをギルド側が放置しておくことはしない。
ミズキとエリザベートは顔を見合わせてそれぞれ頷いた。
「となると、早めに街から移動したほうがいいな。そのまま街に残ればエリーは連れ戻されるだろ……って勝手に俺と行くつもりでいたが、問題ないか?」
エリーとはパーティを組んでいる。
しかし、それはあくまでも今回の依頼のための臨時のものであり、それぞれに人生がある。
そのことをすっかり忘れて、ミズキは今後も一緒に行動するものだと思い込んでいた。
「む、むしろいいんですか? 私としては願ってもないことです。おっしゃるように街にいれば聖堂教会に連れ戻されてしまいます。さすがに……アレを見てしまっては、なんの疑問も持たずに戻るのは難しいです……」
再度セグレスたちのことを思い出してエリザベートは肩を落とす。
しかし、すぐに顔を挙げた。
「だから、ミズキさんさえよければ、一緒に連れて行って下さい! お願いします!」
エリザベートは真剣な表情で願い、頭を深々と下げる。
「ははっ、俺の方が先に一緒に行くつもりだったんだけどな。それじゃ、これからもよろしく頼む」
「はいっ!」
近づいてミズキが手を差し出すと、エリザベートはその手を強く握り返した。
それから二人は真っすぐ街へと向かい、まずはギルドマスターへの報告を最優先にする。
二人だけで戻ってきたのを見たレイラは、色々と聞きたいことが浮かんできて、それを口にしようとしたがミズキが軽く首を振り、視線をギルドマスタールームへ向けたことで察する。
そんなこんなで、ミズキ、エリザベート、鳥の姿になったアーク、レイラはギルドマスタールームで向かい合っていた。
「色々と聞きたいのですが……まずは、無事に戻って来てくれてよかったです。今回の参加者の中でもお二人は殊更お若いので心配していたのです」
これは彼女の本心であり、これから最も長く生きるであろう二人の無事は安堵できるものであった。
「ありがとう。色々を差し置いて俺たちの無事を喜んでくれるのは嬉しいよ」
「ありがとうございます……本当によかったです」
ミズキはいつも通りだったが少し表情が柔らかくなり、エリザベートはここにきてやっと帰ってきた実感を得て肩の力が抜ける。
「ふふっ、と喜んでばかりもいられませんよね。お二人だけが先行して戻ってきたということは、私に話したい内容があるということ、ですね?」
予想はついていたものの、確信を得るために質問を投げかける。
「あぁ、俺のほうから説明していこう。まず一つ目、森の問題は解決した。魔素が異様に濃かったことと、アイアンデーモンがいたことが大きな問題だったが、恐らく全て倒したはずだ。残っていたとして、残った冒険者たちがなんとかすると思う」
「っ……アイアンデーモン!?」
レイラもデーモン種のことはもちろん知っており、そんな魔物が何体も森の中にいたという事実に衝撃を受ける。
彼女の驚きに対してミズキとエリザベートは静かに頷いた。
これだけでも驚きの話だったが、まだ続きがあるため一度しっかりと受け止めてもらおうと、ミズキは間をあけることにする。
「ふう……驚いていられませんね。確かに強力な魔物ですが、今回集まった冒険者たちが集団であればなんとかなりますし……それより、先ほどの残った冒険者たちがなんとかするという言葉が気になります。聖堂教会の方々が帰ってしまったのでしょうか?」
今回の依頼に関しては聖堂教会からの申し出で行うこととなった。
にもかかわらず、帰ってしまうのは失礼そのものである。
「あー、聖堂教会のやつらな。まあ、端的に言って――全員死んだ」
「はあ、全員死んだんですか……全員が……ええええええええっ!?」
あっさりと言ってのけるミズキに対して、レイラも冷静に受け止めようとしたが、それは長くは続かずに立ち上がって驚愕の声をあげていた。
「やっぱりな……そんな反応になると思って部屋を水の膜で覆っておいてよかったよ」
恐らく冷静な会話は難しいと考えて、ミズキは外に声が漏れないように対処していた。
「だ、だだだ、だって、ええええっ? し、死んでしまったのですか? いや、セグレスさんはかなりの実力者だったと思われますが……」
ここでレイラは聖堂教会側の参加者であるエリザベートへと視線を向ける。
「えっと、その、本当です……」
エリザベートは申し訳なさそうにミズキの言葉が真実であると告げる。
「ちなみに、そのセグレスを殺したのは俺だけどな」
ここで不穏な事実をミズキがカミングアウトすると、エリザベートはこれまで以上に驚いた顔になる。
目を大きく見開き、口を最大にまで開けて、その口に手を当てる。
「ミズキさん! 本当のことですけど、言い方というものがありますよ!」
そんなミズキのことを注意するエリザベートだったが、彼女によって更に真実味を増させる結果となったため、レイラは顔をあげて天井を見る。
「な、なんということでしょう、こんな幼い子どもが聖堂教会の方を殺めてしまうとは……」
「あ、ちなみに他の聖堂教会のやつらも俺が殺した」
もうこれ以上に驚くことはない、と言いたかったレイラだが、ミズキが行ったことに対して何も言えず放心状態になっていた。
「ははっ、面白い反応だな」
「もう! ミズキさん、笑ってる場合じゃないですよ! ギルドマスターが勘違いしてしまうじゃないですか。別にただいたずらに命を奪ったわけではなく、ちゃんと正当な理由があるんです!」
笑うミズキに対して、エリザベートは怒りながらも、この話には続きがあることを告げる。
ここで、少しだけ落ち着いたレイラは腰を下ろすが、表情は懐疑的なものになっていた。
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