第32話 冒険者と合流
「うおおおおお!」
「右から攻めろ!」
「とりかこめええええええ!」
森を進み、ミズキたちが冒険者たちがいるであろう地点に到着した時、冒険者はまさに先頭の最中だった。
アイアンデーモン相手に必死に戦っていた。
「あらら、こっちにもいたのか」
「みたいですねえ」
「ピー」
ミズキたちはのんびりした口調でそんなことを話す。
たくさんのアイアンデーモンやセグレスという魔族を相手取った彼らにとって、単体のアイアンデーモンは大したことではなく、群れからはぐれた一匹だろうと焦りは見せなかった。
「お、お前たち無事だったのか! こっちはアイアンデーモンが出たんだ!」
ミズキに気づいて焦ったように声をかけてきたのは、冒険者組の代表であるカッツ。
彼は指揮をとっているため、やや後方に位置しており、他の冒険者は陣形を組んでアイアンデーモンに挑んでいるようだ。
「あー、そうみたいだな。俺たちのほうにも出たが、まあなんとかなったよ」
「は!? なんとかなった!?」
カッツはのんきなミズキの言葉につい大きな声を出してしまう。
ミズキ、エリザベートという子ども二人に、グリフォンが一体。
それでも、アイアンデーモンを相手にするには戦力的に不足であることは明白だ――というのが彼の判断である。
「俺たちのことより、苦戦しているみたいだから手を貸そうか?」
「いや、確かに苦戦はしているし、手はいくらでも欲しいが……本当にやれるのか?」
アイアンデーモンは本来高ランク冒険者が相手取るような魔物で、駆け出しの冒険者であるミズキが相手取れるとは思えず、カッツは疑うように確認するが、ミズキは返事をせずに前線へと向かっていく。
「おい!」
無策で歩いていくミズキを見て、無謀なことはするなとカッツが制止しようとする。
「大丈夫ですよ」
だが、それは笑顔のエリザベートによって止められた。
「”水弾丸”連射!」
少しずつ駆け出していったミズキは人差し指をアイアンデーモンの頭部に向け、水弾丸を発射していく。
その数は十を超えていた。
その魔法は名前の通り水を弾丸のように発射するもので、その威力はどんなものでも貫通してしまうほどの強さを誇る。
「UGAGAGAGAGAGA!?」
そんなすさまじい威力の魔法がどこからか飛んできたため、アイアンデーモンはその全てを喰らい、血を流しながらバランスを崩して動揺交じりに周囲を見回している。
それまで相手にしていた冒険者たちからは想像できない攻撃を受け、なにがおこったのか全く理解できずにいた。
「い、今のはなんだ?」
「どこからだ、いや誰だ!」
状況がわからないのはアイアンデーモンだけではなく、冒険者たちも同じで、彼らの中にも混乱を生んでいた。
「”水竜”」
しかし、そんな反応に構わず、ミズキは更に水の竜を生み出す。
冒険者にあたらないように、一度上空に向かわせて、上からアイアンデーモンをぱくりと飲み込んでいく。
「GUGAGAGAGAGAA……!」
なにが起こったのかわかっていないところに、更に上空からの謎の攻撃は、混乱を極めさせ、水のせいで呼吸ができないことにもがき苦しみ、そのまま絶命した。
その場にバタリと倒れるアイアンデーモンを見て、固まってしまう冒険者。
「まあ、こんなもんだな」
「さすがミズキさんです!」
満足そうなミズキと、それを称賛するエリザベートだけは他と流れている空気が違った。
「お、お前は一体何者なんだ……?」
これまでに何度か聞いた言葉をカッツからも投げかけられる。
自分たちが苦戦していたアイアンデーモンを一瞬で倒してしまったミズキに注目が集まった。
「うーん、俺は登録したばかりのFランク冒険者だ。それ以上でもそれ以下でも……いや、いずれ水帝になる男だ。この顔を覚えておいて損はないと思うが、いまは別に忘れてもらっていい」
しれっとそう言いながら、ミズキは自らが倒したアイアンデーモンの状態を確認するために歩を進めていた。
冒険者が囲いを作っていたが、ミズキが近づくと左右に割れて道が作り出される。
「まるでモーゼのようだなって言ってもわからないか――どれどれ?」
薄く笑みを浮かべ、地球人にしかわからないことを口にして、冒険者の視線を一身に受けながらアイアンデーモンの死体を確認する。
「……なるほど。こいつは元々この森に召喚されたやつみたいだな」
聖堂教会の面々を依り代に召喚された個体に関しては、彼らの魔力を肉体に持ち続けていた。
しかし、今回のアイアンデーモンは魔物本来の魔力しか持っておらず、これは単純に誰かの手によって(恐らくがセグレス)魔界から召喚されたことがわかる。
「ど、どういうことなんだ? 君は何か知っているのか?」
輪の中心でアイアンデーモンに手をあてて何かを調べているミズキを見て声をかけてきたのは、もう一人の冒険者代表であるロビンだった。
「そう、だな。なかなか説明は難しいところなんだが……まあいいか。俺の言葉をあんたたちが信じても信じなくてもいい。とりあえず簡単に説明をするか」
そこからミズキはロビンに向かって説明を始める。
周囲の冒険者は沈黙を守って、二人の会話に聞き耳をたてていた。
ミズキは以下のことを説明していく。
①先ほど倒したアイアンデーモン以外にもこの森には、アイアンデーモンがいた。
②この森の魔素が濃いのは、アイアンデーモンを森に維持しておくためだと思われる。
③アイアンデーモン数体と戦闘をしたが、中には聖堂教会の面々の魔力を持つ個体がいた。
④恐らくは聖堂教会の誰かの身体を依り代にして、召喚されたものだと思われる。
⑤聖堂教会のメンバーはエリザベート以外には会っていない。
これがミズキによる、知っていることと、予想を含めた説明だった。
(まあ、実際には全滅なんだが……さすがにこいつらに説明できないよな)
「そ、そんなことが……セグレスさん。いい人だったのに……」
聖堂教会は全員が一群となって行動していた。
そのうちの何人かが依り代になったとなると、恐らくは他の者たちも……というのが自然といきつく答えだった。
「――それは本当なのか?」
完全に信じたロビンに対して、カッツは疑惑の視線をミズキに向ける。
「だから最初に言っただろ? あんたたちが信じても信じなくてもいい。それに、思うという言葉を使ったように想像も含まれている。信じられなければ、あんたたち自身が調査をすればいい。俺は俺が持ってる情報を出しただけだ」
これまた当然の主張であり、説明を求められたから話しただけである――というミズキのスタンスは、なるほどと冒険者たちに認められる。
問いただしたカッツもあまりの事態に思わず問いかけてしまったが、そういう前置きがあったことを思い出して口を閉じた。
「あんたたちが苦戦していたアイアンデーモンだが、俺たちは何体かと戦ったから少し疲れている。先に戻ってもいいか?」
こんなことを言えば、もしかしたら余計に疑われるか? と思いながらも、これ以上追及されても面倒くさいとミズキは構わずに口にした。
「そう、だな。俺たちが自由に行動したように、お前も冒険者だから自由に行動してもらって構わない。疑って悪かったな」
少し考えた後、カッツも自らの発言の落ち度を考えて、追及を辞めて謝罪を選択し、軽く頭を下げた。
「いや、気にしなくていいさ。それじゃエリー、アーク行くぞ」
二人はアークの背に乗ると、そのまま森をあとにしていく。
その背中が見えなくなるまで、色々な思いを胸にカッツたちは一行を見送っていた。
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