第30話 イメージを魔法に


「さてと、セグレスの核なんかでもあるといいんだが……アイアンデーモンのもか」

セグレスが息絶えたのを確認し、ミズキは素材が何かないかと見て回り始める。

 この世界の魔族と魔物は身体の中に心臓の代わりに核と呼ばれるものを持っている。


「…………」

 ミズキが核を探し始めた中、エリザベートは口をポカンと開けたままセグレスが立っていた場所を見ていた。


「お、この核はデカイし綺麗だからきっとセグレスのものだな」

 見つけた緑色に輝く魔石はミズキの拳よりも大きく、それだけでかなりの価値があることがわかる。


「アイアンデーモンのほうは……お、あったあった。ちゃんと一か所に集まってるな」

 ミズキは大水竜でアイアンデーモンを一網打尽にした時に、全ての魔物を同じ場所に集まるようにしていた。


 そして、魔物に関しては魔法で倒して、核だけを取り除いてある。

 綺麗にとれた魔核がゴロゴロ転がっていた。

 アイアンデーモンの危機が去ったことで森は静寂を取り戻していた。


「な、なな、ななな、なんなんですかああああああ!」

 ここにきて、エリザベートの叫び声が森に響き渡った。


「……えっ?」

 ミズキはエリザベートの声に振り返るが、その表情はなんで急にそんな大声を出すのかと、ミズキは振り返って奇妙なものを見る表情になる。


「いや、せっかくこれだけの核があるんだから集めないと勿体ないだろ?」

 拾ったそばから、それをカバンという見た目の収納空間へとしまっていく。

 その手を止めることなく、ミズキは当然のことをしているとエリザベートに返事をした。


「た、確かに……じゃないです! そこに対してではなくて、さっきのなんですか!? あのセグレスさんにダメージを与えた拳に、最後のおっきな竜! いえ、そもそもがアイアンデーモンを一掃したあの魔法もなんなんですか!」

 混乱がピークに達したエリザベートは疑問に次ぐ疑問が頭に浮かんでおり、それを聞かずには気持ちを整理できずにいた。


「あー……(これが普通の反応なのか?)」

 言葉に困りながら、ミズキはエリザベートの表情の変化を見ている。


「そう、だな。それじゃ、これをしまい終わったら少し説明をしよう」

 状況を整理するという意味でも、一度落ち着いて話をするのも悪くないとミズキは判断する。


「お、お願いします……」

 ミズキがあまりに冷静な反応をするため、エリザベートは自分がおかしいのかと思って、冷静さを少し取り戻し、語気が弱くなっていた。




 数分後、ミズキは核を収納し終えて、綺麗な地面に布を敷いていく。

 イメージとしては、ピクニックで使うレジャーシートである。


「さあ、ここに座って話そう」

「は、はい」

 今度はどこから取り出したのか? という疑問が浮かぶが、そこまで突っ込んでいるとキリがないと判断して、エリザベートは素直に腰を下ろした。


「さて、エリーの疑問に答えていこうか。最初のアイアンデーモンを倒した魔法だが、あれは大水竜という名前の魔法で、俺のイメージした竜を巨大な水で作り出したものだ」

 魔法の説明をしていくミズキだったが、エリザベートは首を傾げてしまう。


「え、えっと、竜といえば、もっと、こう、なんというのでしょうか、身が詰まっているようなドンッという大きな身体だと思うのですが……確かミズキさんの魔法は細長い、まるで蛇のようだったかと」

 この世界のいわゆるドラゴンと、日本でイメージする身体の長い竜の違いをエリザベートが指摘する。


「あー、まあそうなるよな。俺が住んでいたところでは、あれが一般的な竜なんだよ。そこは住んでいた場所の違いだと思ってくれ。で、俺が住んでいたところでも竜っていうのは強力な力を持っている存在で、そのイメージを魔法に起こしたのがあの魔法なんだよ」

 竜の身体についての疑問はとりあえず払拭されたが、エリザベートは新たな疑問を覚える。


「えっと、イメージを、魔法に起こす?」

 この世界の魔法の種類というのは既に決まっており、その魔法を学んで魔力を集めて発動する。


 しかし、ミズキの魔法に関してはこの世界に存在しない、全てオリジナルの魔法だった。

 ミズキが魔法について最初に研究を始めた時、魔法の師匠などいなかった彼は生前の記憶を頼りしていたのだ。


「まあ、そのあたりは次の機会で……とにかく、だからそれで強力な魔法になって、アイアンデーモンくらいならなんとかすることができたわけだ」

 今後彼女とどこまで関わっていくのか、未だ未知数であるため、これ以上の魔法についての言及を避けていく。


「は、はい……それじゃあ、セグレスさんに攻撃が効いた理由はなんでしょうか? 水をまとわせて殴っていたようにしか……でも、セグレスさんとの会話でなんだか特別な水であるかのようなことを言ってたような……」

 二人とは距離が離れていたため、全ての会話が聞き取れていたわけではなかったが、エリザベートは断片からただの水ではないのだろうと予想する。


「そのとおりだ、あれは魔族に有効な水でな。水魔法の使い手である俺を警戒していただろ? だから俺が魔法で作り出した……そういうもんだと思ってくれ。で、それが効果的だということを何回か確認して、これなら倒せると判断したから最後の魔法、ヒュドラを使ったんだ。あれにもその水を含めている」

 あの魔法は、詠唱を行うことによって、ミズキが持つイメージを強固なものにして五首の竜、ヒュドラを生み出していた。


「ふ、ふええ……」

 エリザベートは、驚きと、理解が追いつかないことが重なって、変な声を出してしまう。


 彼女がこれまで持っていた常識を遥かに超えた話を、当たり前のごとくミズキは話しているため、それ以外の言葉が出てこなかった。


「とりあえずこれでエリーの疑問には答えられたと思うが、それより次は俺の質問に答えて欲しい」

 ミズキはこれまでの飄々とした表情から真剣な表情へと変わる。

 それを見たエリザベートは一瞬ドキッとしながらも頷いた。


「は、はい。その、私に答えられることならなんでもお答えしたいと思います……!」

 ミズキは、彼自身の能力についての説明もしてくれた。

 それは通常であれば隠すことであり、己の力について明らかにするのはなかなかないことである。


 それだけのことを話してくれたからには、自分も応えなければならないとエリーは思って覚悟を決めていた。


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