第28話 闇魔法
「す、すごい魔力です……」
ミズキの戦いぶりをずっと見て来たエリザベートだったが、これまでがまるで遊びであったかのように感じるほどの魔力の高まりをミズキから感じていた。
水流のようにうねる魔力の渦がミズキを取り巻いているの姿に、ただただ彼女は見入っていた。
「な、なんだ、貴様のそれは!?」
魔力が高い種族である魔族のセグレスがうろたえ、驚愕するほどに、今のミズキの魔力は強大なものだった。
「”水狼”」
その問いに答えることはなく、淡々と詠唱したミズキは次に水魔法で狼を作り出し、セグレスへと向かわせる。
「その程度の魔法で魔族を倒せると……」
そこまで言ったところで、セグレスは武器を構えた。
水魔法で作られた狼は涼しげな姿で素早く地面を蹴り、距離を縮めていく。
その速度、そして込められた魔力を感じ取ったためにセグレスは戦闘態勢に入っていた。
『アオオオオオン!』
雄たけびをあげながらセグレスに牙をむく水狼。
「甘いわあああ!」
しかし、セグレスの魔力を込めた剣によって一刀両断されてしまう。
魔力で作られた水狼は、より強力な魔力を込められた剣の前には一瞬で霧散する。
「なるほど、その程度は普通にやられるのか。だったら……”双頭の狼、水をもって形を成せ。双水狼”」
感心したように目を細めたミズキは次の一手に移る。彼にしては珍しく、詠唱後に魔法名を口にした。
理由としては、完全に初の魔法であり、今思いついたものであるため。
加えて、相手が魔族とあっては気を抜いた魔法では反対に押し込まれてしまうと考えていた。
『『ガアアアアアアア』』
先ほどの水魔法で作られた狼が双頭になって姿を現す。
凶暴な声音で二つの頭から発せられる咆哮がシンクロし、左右の首が大きく口を開けて、それぞれセグレスへと噛みつこうととびかかる。
「はっ、何をするかと思えば頭が二つに増えただけか。そんなもの!」
しかし、これもセグレスの剣によって両断、霧散する。
同じ手で片づけられたため、最初、魔力量に怯えていた自分がばかばかしいとセグレスはあざ笑っている。
「なるほどな。これは面白い」
あっさり自身の狼たちがやられてもミズキは動揺する様子を見せない。
どうやら何かを試しているらしく、セグレスの攻撃がもたらした結果について興味深そうにしている。
「……面白い? 面白いだと? 人間ふぜいが魔族の私を前にして、面白いなどとふざけた口を!」
まるで遊んでいるかのような態度にセグレスは苛立ち、大きな声で叫ぶ。
何度目かの激高は、セグレスの魔力を一気に膨れ上がらせる。
生えている角がさらにメキメキと膨らみ、溢れた魔力が蜃気楼のようにゆらりと黒く霧状に彼にまとわりついている。
「ほう、魔族も怒りで力が増幅されることがあるもんなんだな。興味深い……もっと色々と見せてくれ」
自らの魔法があっさりと防がれているにもかかわらず、ミズキはそんなことは気にもしておらず、今回の戦闘を次のテストと考えている。
セグレスがさらに魔力を高めたことでさえ、ミズキにとってはその一環だった。
「あぁ、あぁ! その軽口を聞けないように俺の力を見せてやるよ!」
完全に頭に血が上ったセグレスは既に怒りのメーターが降り切れており、一人称が不安定になっている。
「!ダークフレイム”!」
真っ黒な炎がセグレスの右手から撃ちだされる。
それは渦をつくりながらミズキへと向かっていた。
「ミズキさん!」
初めて見る黒い炎から感じる嫌な気配に、泣きそうな顔のエリザベートは驚き、叫んでしまう。
「ほう、黒い炎か。これは酸素を消費しているのか、それとも魔力によるものだけなのか……なんにせよ放っておくわけにはいかないか」
しかし、当のミズキは真っすぐ向かってくる真っ黒な炎の渦をしっかりと見て落ち着いて対処する。
「”包み込め、封水”」
これまた初めて使う魔法だが、水に対してどことなく神聖なイメージを持っていたミズキ。
そのため水魔法での封印のイメージは元々持っていた。
「な、なぜ……」
セグレスはミズキの魔法に唖然とする。
完全な封印魔法とまではいかないが、黒い炎はミズキの封水に包み込まれ、ぐるりぐるりと回転して徐々に小さくなり、そしてシャボン玉のようにパチンという音と共に弾けた。
その下の地面には青い色のビー玉のようなものが転がっている。その中に、先ほどの魔法が封印されていた。
このありえない状況にセグレスは更に激高する。
「ふ、ふざけるなああああああ! ”ダークフレイム”! ”ダークウインドカッター”! ”ダークサンダーアロー”!」
セグレスは、炎、風、雷と種類を変えた闇魔法をミズキに向かって撃ちだしていく。
「へぇ、じゃあ……”水狼” ”水土壁” ”純水膜”」
連続で使われた魔法に対して、ミズキも水魔法三連続で対抗する。
相手の魔法の名前から形状を予測してそれに合わせた水魔法を展開した。
炎は狼がぱくんと飲み込み、風は水によって盛り上げられた土壁によって防がれ、雷は純水の膜によって遮断される。
「な、なんだと……?」
多彩な魔法を繰り出したにもかかわらず全てに対応され、その対応がことごとく成功したことはセグレスにとって驚愕だった。
「し、信じられません……!」
それを見ていたエリザベートにも、驚きを与えていた。
まずは闇魔法という初めて見る魔法。
それが闇の中でも複数の属性を操っていること。
その魔法に対してミズキは瞬時に対抗魔法を放った。
属性が反対の魔法を撃って相殺することは魔法使いであればできる者もいるが、それはある意味強引な力技。
だがミズキは初めて見る魔法に対して水魔法一つで対抗して見せたのだ。
「あ、あの、ミズキさんは闇魔法を見たことがあるのですか……?」
当然彼女からはこんな疑問が上がってくる。戦闘中ではあったが、どうしても聞きたいことだった。
これにはセグレスも同じ思いであり、他の魔族を、闇魔法を見たことがあるのか問いただしたかったため、エリザベートの質問は渡りに船だった。
「うーん、魔族のことは人に聞いただけだし、闇魔法も今日初めて見た」
「「初めて!?」」
ミズキの言葉に対して、あまりの驚きにエリザベートとセグレスの言葉がかぶってしまう。
一瞬だけ二人の視線が合うが、慌てて視線を逸らす。
考えが一致したものの、すぐに敵対関係にあることを思い出した為である。
「見たのは初めてだが、軽く話は聞いたことはあるし、実際目の前で見れば対応は簡単だろ?」
肩をすくめてあっさりと言ってのけるミズキは、心から何が問題なのかがわからないといった顔をしている。
「……やっぱりミズキさんはすごいですね。それに引き換え!」
エリザベートはミズキのすごさにそれ以上の語彙が出て来ず、反対にみんなをだましていたセグレスをキッと睨みつける。
「む、な、なんだその目は! お前だって私が目をかけてやったというのに、そんな得体の知れない男について行きおって!」
先ほどまでは標的を完全にミズキに定めていたセグレスだったが、思い出したかのようにエリザベートを怒鳴りつける。
聖堂教会の中でもそれなりの実力者のエリザベートに取り入れば動きやすくなると判断したセグレス。
「そ、そんなこと言って、私のこともアイアンデーモンにしてしまうつもりだったんですよね!」
「い、いや、それは……」
そう言われてセグレスは言葉に詰まってしまう。
確かにエリザベートほどの実力者を材料にしてアイアンデーモンを召喚したらそこらの騎士よりもずっと使い物になるだろうと思っていたことは否めなかったからだ。
「――仲のいいところ、邪魔するぞ」
そんなセグレスの耳にミズキの声が届く。息遣いも感じるほどに至近距離から──。
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