第25話 アイアンデーモン討伐


 不敵な表情のミズキに対して、アイアンデーモンは何か嫌な予感を覚えて、慌てて後方に飛んで距離をとる。

 ドスンと大きな音と砂煙が立ち、エリザベートは魔法で視界を晴らす。


「これだけの体格差があるのに、一度ひくのか……わかってるな」

 小さい相手だと侮らずに、強者として捉えているからこその行動であり、それだけの考えを巡らせることができる相手だとミズキも再度気を引き締める。


「ミ、ミズキさん! 本当に大丈夫、なんですか?」

 あれだけの攻防があったからには、大丈夫とは言ったものの、何かしらダメージを受けているのではとエリザベートは心配そうな顔で声をかける。


「問題ない。それよりも、エリーは最高の魔法をいつでも撃てるように準備しておいてくれ。頼んだぞ!」

 剣を構えつつ、ミズキはエリザベートにそう言うと勢いよく走りだす。


 ただ走るだけでは、人間の、しかも子どものミズキではアイアンデーモンの速度に対応できない。

 ゆえに、一歩踏み出すごとに足の裏から水を射出して移動距離を稼いでいる。


「GUA!?」

 想定していた以上の速度を出すミズキを見てアイアンデーモンは驚愕の表情を見せる。


「驚いている余裕はないはずだ、ぞ!」

 ミズキは左手に片手剣、右手に水剣を持って接近する。


「うおおおお!」

 まずは右の水剣で斬りかかる。


「GUOO!」

 強力な武器といえども、それでも使っているのはたかだか子どもと舐めており、アイアンデーモンはいつの間にか持っていた小さな片手斧をぶつけてくる。


「魔力カット、からの”水剣”」

「GAA!?」

 呟くと水剣の刀身は消えて、片手斧は空を切った。そして、ミズキはすぐに刀身を再度作り出す。


「せやあああ!」

 そのままの勢いで斬りつけると、アイアンデーモンの腹のあたりに大きな傷と作り出した。

 それにとどまらずミズキは魔法を放つ。


「”水弾丸”」

 これまでにも何体もの魔物を倒しているこの魔法。

 水で作られた弾丸は片手剣を収納して空いた左手の指先から五発ほど撃ちだされる。


「GYAAAAA!」

 傷をピンポイントで狙った魔法は全て命中し、アイアンデーモンに叫び声をあげさせた。


 もちろんこれで倒せるとはミズキも思っていない。


「それじゃ、これもおまけにつけておくか”水球”」

 水で作られたバスケットボールほどの大きさの水の玉。

 それが空中にこれまた五つほど生み出されて、全てがアイアンデーモンに命中する。


「それから、これもついでだ!」

 最後にミズキは再び取り出した片手剣を傷口に突き刺す。

 水剣に比べて格も質も劣るため、大きなダメージを与えられるものではない。


 しかし、ミズキの狙いは別にある。


「エリー!!」

「はい!」

 大きな声で呼ばれたエリザベートはここまでミズキの指示に従って、ずっと魔力を練っていた。


「”ライトニングランス”!」

 彼はエリザベートに最高の魔法の準備をしておけと指示を出していた。


 それに応えるため、エリザベートは丁寧に練り上げた魔法を放つ。


 バチバチと稲光を放つ雷で作られた大きな槍。

 それはアイアンデーモンの前方、後方、左右、斜め、上と無数に生み出されていた。


「いけえええ!」

 そして、彼女のその合図とともに全てのライトニングランスがアイアンデーモンに突き刺さった。


 ミズキがつけた傷から雷が浸透する。

 ミズキが突き刺した片手剣も雷の力を集めるのに役にたっていた。


「UGAGAGAGAGAGAA……」

 声にならない声をあげながら、のけぞりながらアイアンデーモンは身体を何度も震わせ、そして動きを止める。


「……やったな」

 しばらくの静寂の後、これ以上は動かないことを、そしてアイアンデーモンが発していた魔力がゼロになっていることを感じ取ってからミズキが呟く。


「はあ、はあ……やり、ましたかね?」

 一気に強力な魔法を使ったエリザベートは息を乱しながら確認する。


「さて、どうかな……”水球”」

 ミズキは距離をとった状態で水球をぶつける。


 命中したアイアンデーモンは反応なく、ただドサリと大きな音を立ててあっけなく倒れた。


「ふう、倒せたみたいだな」

「やりました! ふう……」

 ミズキは確実に倒せたことに満足し、エリザベートは疲労から膝をついていた。


「いやあ、これは見事だ」

 二人がアイアンデーモンを倒した、このタイミングを計っていたかのようにセグレスがパチパチと拍手をしながら現れる。


「セ、セグレス様!?」

 あまりにタイミングがよすぎる登場にエリザベートは驚いている。


「エリー、ご苦労様。いやあ、才能があるとは思っていたがこれほどの力を持っているとは……目をかけたかいがあるというものだ」

 ニコニコと笑いながらの言葉だったが、このタイミングで現れたことと最初感じていた印象と違う彼の気配にミズキは気持ち悪さを覚える。


「アーク!」

「ピー!」

 ミズキの声に反応して、威嚇するように高く鳴いたアークはエリザベートとともにミズキのもとへと移動する。


「おや、どうしたんだ? 私は見事な働きをしたエリーを褒めようと思っただけなんだがね」

 距離をとられたことに心外だといわんばかりセグレスは肩を竦めている。


「褒めるのは距離があってもできるだろ。それより聞きたいことがある……――あんた、どうして一人なんだ?」

 セグレスは聖堂教会のメンバーをまとめて、集団で行動しているはずである。


 にもかかわらず、ここに現れたセグレスはただ一人であり、馬にも乗っておらず、あとから聖堂教会の面々がやってくる様子も見られない。


「……あぁ、やはりな。最初に会った時から感じてはいたが、君はなかなか子どもの割には聡いようだ。エリーが気にかけていたようだから放っておいたが、これならば冒険者ギルドの時点で参加自体を断っておけばよかったよ」

 そう言い放つセグレスの顔は笑っているが、言葉には苛立ちが混じっている。


「俺もそう思う。俺のことを見抜けなかったのは、あんたの落ち度だ。それで、もう一度聞くが……なんで、あんたは、一人なんだ?」

 エリザベートをかばうように立つミズキは、今度は言葉を区切り、しっかりと確認しながら声をかけた。




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