第23話


「エリー、このまま魔物を倒していくぞ!」

「は、はい!」

 飛び立ってしばらくすると魔物の群れを見つけたミズキたち。

 そこへ向けて全力で飛びながら次第にアークは上空から大地へ降りて走っている。しかし、速度を落とすことなく進んでいた。


 その背に乗ったまま、ミズキとエリザベートは魔法で魔物を倒していくこととなる。


「”水弾丸”」

「”サンダーアロー”」

 それぞれが取り回しのいい魔法を放って、次々に魔物を倒していく。


 ゴブリンの上位種ゴブリンソルジャー、森に生息する狼の魔物フォレストウルフ、巨大芋虫タイプの魔物グリーンキャタピラー。

 毒蜘蛛のベノムスパイダー、麻痺カマキリのパラライマンティス、暗闇を生み出すカエルのブラインドフロッグ。


 どれも確かにこの森であれば、普段はいないような上位個体ばかりとなっている。


 そんな魔物たちを瞬殺していくミズキとエリザベート。

 魔法や魔物が飛び交う中をアークがかなりのスピードで駆け抜けていくのもそれを助けていた。

 この速度で倒していけるのは、彼らならではのものであることは間違いない。


 しかし、それでもこの程度の魔物であれば時間をかければ他の者たちでも同じ結果をもたらすことができる。


「こいつらじゃないな……」

「違いますね……」

 最初に襲い掛かってきた魔物を軒並み倒し終えた二人がぐるりとあたりを見回す。

 二人が森の外から感じていた強い気配は、この魔物たちではない――そう思った二人の表情は硬い。


「アーク、速度を落としてくれ」

「ピー」

 ミズキの言葉に返事をすると、肯定するように鳴いたアークは徐々に走る速度を落とし、今ではゆっくりと歩いて進んでいる。


「森に入ればもっと気配がはっきりするもんだと思っていたが……」

「魔素が濃い、ですね。普通の森とは明らかに違います……」

 外から見た限りでは、強い気配以外は普通の森に見えていた。


 しかし、中に入って、ここまで進んできたところで明らかに空気が変わっていることに気づく。


「これは、あんな魔物たちがいるのもこの魔素のせいかもな……”水弾丸”」

 話している間にも新しく魔物は現れ続け、あっという間にミズキの水でできた弾丸によって身体を撃ち抜かれた。


「すごい……私も負けませんよ! ”サンダーアロー”」

 こちらは雷で作られた矢が生み出され、魔物を的確にとらえていく。

 命中と同時に雷によるダメージが魔物を襲い、そのまま絶命する。


「さすがだな!」

「そちらこそ!」

 二人のコンビによる攻撃は見事なもので、次々に魔物が倒されていく。

 狙っている魔物も自然と相手の違うものを選ぶために攻撃がかぶることもないのが気持ちよさを感じさせていた。


 それを見たアークが援護するように魔物へ攻撃をしやすい位置へと移動していく。

 その姿はまさに三位一体で、流れるように魔物の討伐が進む。


 わずか十分程度の間で次々に魔物が倒されていき、あたりは魔物の死体が山積みになっていく。


「こ、これは……」

 そこに到着したのはセグレスたちであり、目の前の光景に驚いて言葉が出なくなっている。

 軍隊一つが出すような成果を二人でやってしまったことに愕然としていた。


「あぁ、やっときたか。少しばかり先にやらせてもらっている」

 魔物の死体の山の中心で何事もないように振り返って冷静に言うミズキに、セグレスをはじめとする彼らは頬をヒクヒクとさせていた。


「あ、お疲れ様です。少し頑張ってみました!」

 謙虚な物言いのエリザベートは笑顔でぺこりと頭を下げるが、こちらの言葉にも彼らは言葉をなくしてしまう。


 少し頑張っただけでこんな結果にはならないだろう! と心の中で総ツッコミをいれている。


「ピピー!」

 極めつけがグリフォンであるアークの存在。

 グリフォンとは一般的に上位の強力な魔物として認識されている。本来なら一生のうちに会うことすら難しいレアな魔物である。


 それが人に使役されて、意思疎通をとれている。

 こんなとんでもない状況を見せられては、何を言えばいいのか困るのは当然のことだった。


「さて、それでどうする? このあたりの魔物はとりあえず倒しておいたが、ここから固まって動くのか、別れてて戦うのか」

 せっかく集まってここまで来たことを考えれば固まって動くのが正しい。


 しかしながら、魔物を討伐することで依頼報酬が変わってくる冒険者からすると、それはあまり好ましいことではない。


「うーむ、それでは我々聖堂教会はまとまって動くことにする。冒険者のみなはパーティごとに自由に動いて魔物を倒していく。それでどうだね?」

 セグレスは集団の力と、個の力を活かせる案を提示する。


「あぁ、俺たちはそれで構わない。なあ?」

 返事をし、他の冒険者に確認をとったのは今回参加している冒険者の中で最も経験豊富な男性。


 彼の名前はカッツ。

 頬に大きな傷があり、赤い髪は短く切りそろえられている。

 冒険者ランクは上から三つ目のBランクだが、経験に裏打ちされた確かな実力を持っており、街の冒険者ならばみなが実力を認める人物だった。


「僕たちからしたら、自由に動けるからそっちのほうがありがたい」

 返事をしたのは、同じくBランク冒険者の男性。

 こちらは若く緑の長髪をたなびかせている。若手の中でも注目株の実力者である。


 彼の名前はロビンといい、女性からの人気が高く、女性冒険者の中にはファンも多く、今も彼の名前を様づけで口にしている者もいる。


 この二人のパーティが今回の冒険者側のツートップであり、二人が納得しているのであれば、反対意見はなかった。


「よし、それじゃあ、俺たちは自由に行くぞ! あっちのガキどもに負けるんじゃねえぞ!」

「みんな、各自のパーティで動こう! ただ、あまり他から離れないほうがいい!」

「「「「おおおおお!」」」」

 カッツとロビンが声をかけると、冒険者たちはその言葉に呼応して動き始める。


「……君たちはどうする?」

 冒険者たちが魔物討伐に向かったのを確認したセグレスは、次にミズキとエリザベートへ質問する。


「俺たちは少し奥に行こうかと思っている」

 ミズキの言葉にエリザベートも頷いている。


 二人は森の中に先行していたことで、魔素の濃さに徐々になれてきており、森の外で感じていた気配がいる方向もおぼろげながらわかっていた。


 ゆえに、二人ともがそちらに向かおうと考えている。


「なるほど、あまり無理はしないように。君たちは実力があるのかもしれないが、年若く、人数も二人と少ない。前途有望な君たちに何かあるのは、私としても好ましくない……あまり、奥に行かないようにな」

 心配している様子のセグレスは最後に注意をすると、教会メンバーへの指示へと移っていった。


「さて、ありがたい助言だが、行かないわけにはいかないな」

「はい!」

 二人の意志は揺るがず、冒険者とも、聖堂教会とも別行動をとってただ森の奥を目指していった。


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