第22話 森の異変


 他の面々を待つ間に、ミズキとエリザベートはお互いの他愛のない話をしていく。


 年齢、好きな食べ物、嫌いな食べ物、いつあの街にやってきたか、宿はあのあとどうなったのかなどなど。


 二人は同じ年齢であり、互いに同い年の友達がいなかったため、こんな些細な話題でも盛り上がることができた。


「お、そろそろ来たみたいだな」

 時間にして、数時間経過したところで後続の集団が追いついてきた。


「ふう、先に行ったのは見えたがどうやら、かなり先についていたみたいだな」

 先頭を進んでいたのは聖堂教会側の代表セグレスであり、彼はすっかり休憩モードになっているミズキたちを見て困ったように笑いつつ肩を竦めて呟く。


「セグレス様! す、すみません、先行してしまって……」

 単独先行したことを責められていると思ったエリザベートは焦って立ち上がると頭を下げて謝罪する。


「いやいや、彼に特別な移動手段があったのだから、それを使うのは当然のことだ。我々が馬車や馬を使うようにな。しかし、これからは速度を合わせてくれると助かるが……」

 その提案を了承してくれるかどうか、セグレスは視線でミズキに伺いをたてる。


「あぁ、わかった。俺たちだけで森に突っ込むつもりもないから、そうしたほうがいいだろうな。飛んでいくのをずるいなんて思うやつもいるかもしれないし……」

 特に反論する理由もないと素直に頷いたミズキはそう言うと、チラリとセグレスの後ろの面々を見ていた。


 その中には実際にミズキの言うとおりに思っている者もおり、図星を突かれたため気まずそうに視線を逸らしている。


「ま、こんなとこで余計な軋轢を生んでも仕方ないからな。それで、どうするんだ? ここは休憩にはいいポイントだが、そっちは休憩するか? それともまだ進むか?」

 大きな木が木陰を作っており、周囲に魔物の姿もほとんどない。

 ちなみに、エリザベートが倒したクライミングバードの死体は既にミズキが収納している。

 アークは涼しげな表情でミズキに寄り添って森の方を見ていた。


「ふむ、ここで急いでも到着するのは明日だ。少し休憩するか……みんな、小休憩をとる! 各々、道から外れた場所に馬車や馬を移動して休憩してくれ!」

 セグレスの指示で、聖堂教会、冒険者、それぞれが休憩に入っていく。


 このように何度かの小休憩、夜になれば野営をし、翌日の昼頃になってようやく問題の森に到着した。






「さて、やっと到着したが……一見して特に目立った変化はないようだが」

 厳しい表情のセグレスは森の様子を見ながら、肩を竦めている。

 パッと見ただけではそこはいつも通りの森だった。


 他の面々も同じように、聞いていたよりずっと簡単な依頼だと高をくくってるようで、気持ちも緩んでいる。


 その中にあって、ミズキの反応は異なる。


「――これは、やばいな……」

 思わず眉をひそめながら小さく呟くが、それは隣にいるエリザベートにしか届いていない。


「こ、これは……」

 エリザベートもミズキと同じものを感じているらしく、険しい表情で森を見ていた。


 二人が感じたのは、森の中から感じる何か強力な魔力だった。


 恐らく外にわからないように偽装されており、これは一定以上の魔力感知能力がなければわからないもので、ここにいる中でそれを持っているのはミズキとエリザベートの二人だけである。

 しかもそれなりの大きさがある東の森一帯を網羅するとなると相当の魔力の持ち主でないと実行できない。


「よし、それでは森の中へ入って各自魔物討伐をしていこう。倒した魔物については、パーティリーダーのカードに記録されるとのことだ。冒険者諸君は思う存分腕を振るってほしい。聖堂教会のみなは、任務を果たそう」

 ミズキとエリザベートが森への警戒心を高めている中、まとめ役のセグレスはさくさくと話を進めていき、森に向かって動き始めていた。


「……あっ! ど、どうしましょうか。森の中が危険だってセグレス様に教えないと……」

 エリザベートがなんとか森の情報を伝えようとするが、既に集団は動き始めており、声をかけられるような隙は見当たらない。


「さすがにあの中に入っての報告は諦めよう。もし言えたとしても俺たち以外に気づいているやつがいないのでは、信憑性がない」

「それは……! はい、確かに……」

 自分の話なら聞いてもらえるだろうと思ったエリザベートはミズキの意見に一瞬反論しようとしたが、すぐにその言葉の正しさを理解して引き下がる。


「でも! どうしましょうか……あのままでは……」

 このままでは、森の魔物を甘く見ている彼らが危険な目にあってしまうとエリザベートは危惧している。


「俺たちがあいつらより優れている点はなにかわかるか?」

「……えっ?」

 突然の質問にエリザベートは、一瞬思考が止まる。


「多分セグレスに説明したら時間はかかるが話は聞いてくれる。だが、みんなに理解してもらうのは難しい。だったら、俺たちは俺たちができることをやるだけだ。それで、俺たちが他のやつらより優れている点は……」

「魔力の高さ、です!」

 魔力が高いがゆえに魔力感知能力も高い。それゆえに、今回の異変を察知することができている。


「それと?」

「それと……」

「ピー!」

 ミズキの質問にエリザベートが考えようとしたところで、自分を見てといわんばかりに大きく羽ばたいたアークが鳴き声を発する。


「そうだ! アークさんがいます! 空を移動できますし、地上の移動でも馬より速いはずです!」

「ピッピピー!」

 その回答にアークは喜び、ミズキはニヤリと笑う。


「というわけで、俺たちはアークに乗って先行するぞ!」

「はい!」

 勢いよく飛び乗ったミズキに手を伸ばされて、導かれるようにエリザベートはアークに飛び乗っていく。


「ピピッピー!」

 それと同時に、足を踏み込んで勢いよくアークは飛び上がってセグレスたちのはるか頭上を飛び越えて先行していく。


「悪いな、俺たちは先に行かせてもらう。あんたたちはあとからゆっくり来るといいさ!」

「お先に失礼します!」

「ピーーー!」

 ミズキは少し挑発するかのように声をかけ、エリザベートは丁寧に挨拶をし、アークは鳴き声とともに過ぎ去っていく。


「お、おお、ちょ、ちょっと!」

 慌てたセグレスが手を伸ばして声をかけるが、その声は届くことなく三人はあっという間に森の奥へと消えていった。




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