第21話 空を行く
「わ、わわわわ! わあああ!」
街の入り口で街からの外出の手続きをしたミズキとエリザベートは、アークの背に乗って空を移動している。
初めてアークに乗った時のミズキとは異なって、エリザベートは悲鳴をあげて、目を瞑って、一生懸命アークの身体にしがみついている。
「お、おいおい、暴れるなって。アークは安全だ……少し深呼吸をしてみるといい。景色はいいし、風も気持ちいだろ」
呆れた表情のミズキはエリザベートの後ろにのっており、彼女を包み込むように優しい声をかけた。
「え、えっと、大丈夫、ですか……?」
後ろにミズキがいるという安心感、アークが少し速度を落としてくれたこと。それらを感じてエリザベートは恐る恐る目を開いていく。
「うわあっ……!」
上空から見る世界は広大で、遠くまで見渡すことができ、広がる風景はエリザベートが初めて見るものだった。
澄み切った空気を全身一杯に感じて開けた視界は清々しい気持ちにさせてくれた。
「どうだ、すごいだろ?」
「はい……」
エリザベートは先ほどまでの恐怖心はどこかへ吹き飛んで、目に映る光景に見惚れている。
「ふう、落ち着いたみたいでよかった。それで、俺たちはアークに飛んでもらって移動するわけなんだが、先に俺たちだけで森に突っ込むのは……」
「そ、それは、さすがにみなさんを待った方が……」
ミズキの行動指針を最大限尊重すると決めていたエリザベートだったが、この提案ばかりはそのまま受け入れるのには抵抗があった。
「まあそうだよな。俺もさすがにそれはないと思う……というわけで、少し早めに行ってどこかいい場所で休憩をするとしよう」
東の森までは一本道であるため、いずれ合流することになる。
「ピピー!」
その言葉を受けたアークは少し速度あげて進んでいく。
「わ、わわわ!」
エリザベートはまだ慣れていないため、慌ててアークにしがみついた。
「ははっ、すぐに慣れるさ。お、あの木陰あたりがいいんじゃないか?」
見つけたのは道沿いから見える大きな木、それはミズキが五年暮らしていたエールテイル大森林にもあったユーリカという木だった。
「ピッピピー!」
アークもその木を見つけたらしく、勢いよく向かっていく。
「ア、アークさん、ゆ、ゆっくりお願いしますー!」
「ピッピピー!」
エリザベートが必死に呼びかけるが、アークの耳にはそれが届いておらず、速度は落ちるどころか増していく。
「あー、ユーリカの木は微弱な魔力を放っていて、魔物にとっては心地いいんだよなあ。しかも、アークはいつもユーリカの根元で寝ていたから……」
エールテイル大森林を出てからまだ、一日二日しか経過していないが、お気に入りの木を見つけたアークの気持ちは木に向かってまっしぐらだった。
「ちょ、ちょっとミズキさん、落ち着いてないで下さい! きゃあああ!」
エリザベートの悲鳴が周囲に響き渡るが、お構いなしにアークは下降していき、しかし最後は木のふもとにふわりと着地した。
「ピピピー!」
「ふふっ、冗談だとさ、からかわれたな」
楽しそうに笑ったミズキはアークの言葉を翻訳する。
「ひ、酷いですよう」
すると、少し泣きそうになりながらエリザベートはへなへなっとアークにもたれかかった。
「ま、あまりに怖がるからからかったってことだ。アークはちゃんと背中にいる俺たちのことを考えてくれているし、今後はもっと信頼してくれってことだろ、ほら」
「ふ、ふわあい」
ミズキは先に降りると、エリザベートに手を貸して降りるのを手伝っていく。
「さてと、かなり先行したはずだからゆっくり休めるな。休憩しながら少し話をしよう」
カバンから布を取り出して地面に敷くと、更にミズキは水筒を取り出してカップに飲み物を注いでいく。
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながら受け取るエリザベート。
一見普通のカバンにしか見えないが、そこから明らかに容量オーバーなものが取り出されてくるので、マジックバッグなのだろうとエリザベートは判断することにした。
「それで、なんで俺と一緒に来ると言い出したんだ? 宿でいなくなったからか? 酒場で余計な手助けをしたからか? ……まさか、本気で一人でいるのを見かねてなんてことはないだろ」
「うぐっ……」
それは一人でいるのを見かねて、と言おうとしていたところを塞がれてしまったため、エリザベートは変な声を出してしまう。
「えっと、その、ですね。実は、その……」
彼女本来の素直さがあってもなお言いづらいことであるらしく、エリザベートは視線を泳がせて、言い淀んでしまう。
「なるほど、やっぱり何かあるんだな」
「……あっ!」
目を細めたミズキのカマかけに、確実に何かがあるという反応を見せてしまったことに気づいたエリザベートは慌てて口に手を当てる。
「言いづらいなら言わなくてもいいさ。無理に聞くつもりはない、ないが……今回の依頼で何かがあったら、その相手が誰だろうと俺は全力で排除する――いいな?」
力強い雰囲気と本気のミズキの言葉に、エリザベートはゴクリと唾を呑んだ。
「さて、そんな暗い話はおいとくとして、実際エリーはどれくらい戦えるんだ?」
魔力が高く、魔法の才能があるとしても、戦闘で使えなければ今回のような依頼では厳しい。そのため、ミズキは先ほどまでとは雰囲気を一変させ、彼女に確認をする。
「えっと、普通に魔物とは戦えます。弱い相手であればゴブリン数十体は同時に相手取ることができると思います」
少し考えたエリザベートはそう言いながら右手の指先からパチリと雷を発する。
彼女はあの騎士たちに囲まれているだけあってそれなりに魔力が高いようだ。
「なるほど、一対多は問題なしと。それなりに強い相手だとどうなる?」
「うーん、どうでしょうか。強さにもよると思いますが、単体攻撃の魔法もそれなりには使えますよ」
言うより見てもらったほうが早いと思ったエリザベートは立ち上がって木から離れると空に向かって右手のひとさし指を向ける。
「“サンダー、ボルト”!」
凛々しい彼女の声とともに一筋の雷が空に放たれた。
晴れ渡る空に向かって雷鳴が空気を切り裂き、丁度空を飛んでいた魔物を貫いた。
数秒して、バタンという大きな音とともに、クライミングバードという大きな鳥の魔物が黒焦げになって落下する。
「こんなもんです!」
どうだ! と、つつましい胸を張るエリザベートに対して、ミズキは驚いていた。
「すごいな(まさか、空に魔物がいたのを感知していたとは)」
「すごいですよね!(一撃で魔物を倒したこの威力! 当たったのはたまたまだけど……)」
互いにややすれ違いがあったが、エリザベートの力量はミズキの目から見ても十分なものであると判断された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます