第20話 臨時パーティは突然に


 その後、軽く説明があったのち、依頼の登録を行っていくこととなる。

 冒険者たちは基本的にパーティ単位での登録となり、ミズキのような個人活動者は他にはおらず、彼だけ一人となる。


「あの、お一人ではさすがに危ないと思います。私と一緒に行きましょう!」

 最後に登録したミズキを見ていた少女が手を伸ばして声をかけてくる。


 ミズキに声をかけてくる少女といえば、聖堂教会の例の少女以外にいない。

 聖堂教会の面々は訝しげな表情で少女の行動を静かに見守っていた。


「断る」

「うっ」

 即答するミズキに対して、少女は思わずたじろいでしまう。


「な、なんでですか? あっ、女だと思って侮っているかもしれませんが、こう見えても私は次の雷聖候補といわれるだけの力を持っているんですよ?」

(やはりそうか……)

 たじろぎながらも必死に自分をアピールする少女を見たミズキは自分の見る目は間違っていなかったのだと思っていた。


 最初に会った時点で、ミズキは彼女の魔力の高さを感じ取っていた。

 それに加えて、宿でも年上である聖堂教会の面々に堂々と意見ができ、この状況にあって単独で動こうとしても他の者に止められない。


 全てを踏まえて、彼女が特別な存在であることは容易に想像ができていた。


「ふむ、エリザベートは彼といきたいのか」

 二人のやりとりを見ていた男性が静かに声をかけてくる。先ほど代表としてみんなの前で挨拶をしていた人物だった。

 しっかりとした筋肉質な成人男性の彼はミズキよりもずっと身長が高く、きりりとした涼しげな顔立ちで、他の聖堂教会の面々とは少し違う色合いのマントを羽織っていることから中心人物的役割を果たしているのだとわかる。


「いや、俺は一人で……」

「すまない。彼女はこうと決めたら曲げない性格なのだ。よければ一緒にいってもらえないか?」

 否定しようとするミズキを見た代表の彼はミズキに頭を下げて、エリザベートと同行してくれるよう願い出る。


「そんな……私のせいでセグレス様が頭を下げるなんて……その、ごめんなさい」

 そこで自分がわがままを言ってしまったと気づいたエリザベートは、シュンとなって肩を落としてしまう。


「はあ、わかったよ。俺と一緒に行こう」

「っ……本当ですか!」

 先ほどまでの反省はどこへやら、エリザベートは両手を合わせて花のような笑顔になる。


「ただし、いくつか条件がある」

「はい!」

 一緒に行けるということが優先し、エリザベートは安易に返事をしてしまう。


「まずは自己紹介をしよう。俺の名前はミズキ、髪の色を見てわかるように水属性の魔法を使う冒険者だ。昨日登録したばかりだ、よろしく」

 ミズキはシンプルに自己紹介をする。その中に、自分が不利になる情報もしっかりと織り交ぜていく。

 それだけでエリザベートが申し出を断ってくれればそれでいいと思っていた。


「き、昨日!? え、えっと、私の名前はエリザベート=イングラムと言います。エリーと呼んでください。属性は雷で、聖堂教会に所属しています。昨日は助けていただきありがとうございました」

 最初は驚きながらも、ふにゃりと笑った彼女は自己紹介に合わせて、昨日の酒場での礼を言う。


「いや、大したことはしてないから気にしなくていい。エリー、だったな。一つ目の条件はこれで達成だ。次だが、俺は今回の依頼において自由に動くつもりだ。だから、聖堂教会や他の冒険者と協調するつもりはない。エリーもそれで構わないか?」

 この条件に納得できないなら、二人きりの臨時パーティは解散となる、と言外に伝えている。

 これまでこれだけの大人数と組んで戦ったことはないミズキは烏合の衆となって周りを巻き込みたくないと思っていた。


「わか、りました……」

 返事をしながらエリザベートは視線を、責任者のセグルスに向けている。


「あぁ、エリザベートがそう決めたのなら構わない。彼と一緒に行くといい。すまない、彼女のことを頼めるかな?」

 申し訳なさそうながらもしっかりと頷いたセグルスは再度軽く頭を下げて、ミズキへエリザベートのことを託す。


「……わかった。まあ、俺についてくる感じで頼む。別行動したくなったら、好きにしてくれて構わないが、俺のことはアテにしないでくれ」

 あくまで自由に動く、縛られない、それがミズキの希望だった。

 彼女は頑固そうな雰囲気であるため、最初にきちんと言っておかなければとミズキは思っていた。


「わかりました。でも、勝手な行動はしません。私はミズキさんが心配で、昨日のお礼も兼ねているので!」

 胸に手を当てて力強く気合を入れたエリザベートは曲げるつもりはなく、望むところだと条件をのむつもりでいた。


「それじゃ、俺は彼女とパーティを組んで登録ということで頼む」

「えっと、わかりました。ミズキさんとエリザベートさんですね」

 目の前でのやりとりを聞いていた受付嬢は、登録手続きを行っていく。そして、簡易パーティ用の冒険者パーティカードを渡される。


 今回、聖堂教会の面々は依頼を受けても報酬にはならないが、冒険者とパーティを組む場合のみ特例でパーティの戦果となる。


 そして、今回冒険者とパーティを組むのはエリザベートだけだったため、今回の特例はこのパーティだけとなる。


「……参加者は全員登録完了しましたね。それでは……森の調査及び、魔物の討伐。出発しましょう!」

「「「「「おおおおおおお!」」」」」

 レイアの合図に全員が呼応する。


「おー!」

 笑顔のエリザベートもミズキのとなりで元気よく拳を振り上げていた。


(これだけの数が動くとなると、そこらの雑魚魔物だったら簡単にいくはずだ。しかし、この人数で戦わなければならないほどの相手なのか?)

 初心者向けのエリアである東の森で聖堂教会のものが行方不明になっているとはいえ、その捜索にかかるのがかなり大規模であるため、今回の依頼に関してミズキは何やら不穏な空気を感じ取っている。


「なあ、ちょっとレイアに話を聞きに行きたいんだが……」

 しかし、ミズキのその声は喧騒に書き消されてしまう。


 次々に冒険者たちが出発していく。


「ミズキさん、いきましょう!」

 エリザベートが振り返ってミズキに声をかけたときには、既にレイアはどこかにいなくなっており、ギルドホールも先ほどまでの熱を少し残して、静かになっていた。


「……はあ、仕方ないな。行くか」

 遅れてしまっては、先に魔物を討伐されてしまう可能性があるため、ミズキもレイアに声をかけるのは諦めてエリザベートとともに出発していく。


「あっ、そうそうミズキさんは馬車をお持ちですか?」

「いや、ないな……」

 そう質問されてミズキは気づく。他の冒険者や聖堂教会の面々は既に馬車に乗り込んでいた。


「それじゃあ、教会の馬車に一緒に乗って……ミズキさん?」

 エリザベートが声をかけると、ミズキは肩に乗っていたアークを地面におろして、屈んでいる。


「アーク頼めるか?」

「ピー!」

 ミズキに頼まれたアークは、やっと自分の出番がきたと喜びの声をあげる。


 そして……。


「……えっ?」

 エリザベートは驚いて固まってしまう。

 他の冒険者たちは既に出発しているため、この驚きを味わっているのはエリザベートだけである。


「クルルル」

 久しぶりに元のグリフォンの姿に戻ったアークはのびのびと羽根を一度大きく広げた後、喉を鳴らしながらミズキに顔を摺り寄せる。


「ははっ、やっぱりアークはこの姿が一番だな。で、悪いんだが俺と彼女を乗せて行ってくれるか?」

「ピッピピー!」

 ミズキの頼みに、アークは任せてくれと返事をする。


「と、いうわけで俺たちは馬車じゃなくアークに乗っていくぞ」

「は、はひ……」

 驚きのあまりエリザベートは変な返事をしてしまうこととなった。



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