第19話 合同依頼
「あったあった、すまんな。少し時間がかかった……そういえば、名前も知らなかったな。俺の名前はレギンという。さっきも言ったが、ドワーフと人族のハーフで、鍛冶師兼この店の店主をやっている。よろしく頼む」
戻ってくるなり箱を抱えながら思い出したように自己紹介を始めるレギン。
「あぁ、俺の名前はミズキだ。冒険者をやっている。よろしく」
ミズキもそれに対して、シンプルながら返事をする。
「ミズキか、うむ、いい名前じゃないか。こう、わからんがやるな! という感じがする!」
レギンは無理やりにでも褒めてくれようとするが、彼の気遣いは空回りしたようでミズキはただただ首を傾げていた。
「ゴ、ゴホン、それはそれとしてこれを見てくれるか?」
気まずさに咳払いをしてごまかしながらレギンは箱をカウンターに置くと、その箱の蓋をあけてミズキに中を見せる。
「これは……剣、の柄か?」
しっかりとした箱に入っていたのは、武器ではなく刀身のない剣の柄だけだった。
「そのとおりだ。だが、もちろんそれだけじゃなく仕組みがある。持ってみてくれ」
「……わかった」
促されるままにミズキは柄を手に取った。
「次に、魔力を流してみてくれ」
「魔力? こうか?」
今度も言われるままにミズキは剣の柄に魔力を徐々に流していく。
彼の魔力に反応するように柄が淡い光を纏う。
すると、柄の先には美しい青い刀身が現れる。
「うお! もしかしてこれ……流した魔力を集めて刀身を作り出すのか?」
質問するミズキの目はキラキラと輝いている。このギミックが気に入っていた。
「そのとおりだ! しかも、これは中に使われている魔石が水属性でな。水属性の持ち主じゃないと剣にならないんだ!」
試しにミズキから柄を受け取ってレギンが魔力を流すと、ナイフサイズの刀身が作りだされる。
「俺がやってもこの程度なんだが、流す魔力によって大きさが変わるようになっている。ミズキの魔力は俺より多いからちゃんと剣の形になっていたな」
嬉しそうにそう言うとレギンは再び剣をミズキに手渡す。
「それで、これは?」
確かに面白い武器で魅力を感じるが、それだけに珍しいものであることを感じ取ったミズキは問いかける。
「――ミズキ、お前にこれをやろう」
「は……?」
真剣なまなざしでそういうレギンの突然の申し出に、ミズキは驚きの声を出してしまう。
「さっきのお前さんの言葉に感動した。水魔法ってのは最弱だって言われ育ち、俺は水属性であることを恥に思っていたから、いつも帽子をかぶって隠すようにしていたんだ。……だが、お前さんはその髪を隠すこともせず、そのうえで堂々と水帝になると言い切った。だから、そんなお前さんを応援したいと思ったんだ。だからもらってくれ」
決意を秘めた表情でレギンはそう言うと深々と頭を下げた。
「……わかった。ありがたくもらっておく。値段は?」
「いらん。やると言っただろ? もちろん金はもらわん」
秘蔵の品を売ってくれるのだと思っていたミズキが金額について言及しようとすると、レギンは被せ気味にそれを頑なに拒否する。
本当にいいのか迷ったミズキはレギンの目を数秒見ると、彼の真剣さに胸打たれ、深く頷いた。
「……わかった。この武器を使って活躍して、金を稼いだらまた買い物に来る。それでいいな?」
「あぁ、それで構わん」
互いの想いを慮った末、これが結論となった。
「それじゃ、これはもらっておくとして、ナイフを十本。片手剣を二本ほど選んでくれるか?」
しかし、もちろんもらうだけで終わるつもりのないミズキは早速注文をしていく。
「ははっ、わかった。任せておけ!」
そんなミズキの気持ちを感じ取ったレギンはニヤリと笑うと、自分の仕事をしていく。
こちらの代金はキッチリと支払ってミズキは店を後にする。
その後のミズキは昼過ぎの集合に備えて、外に出ていた屋台で軽く昼食を済ませてから冒険者ギルドへと向かった。
既に人が集まっており、ギルドはいつもよりもにぎわっている。
「あっ、ミズキさん!」
ミズキの姿に気づいた犬耳の受付嬢が入り口まで彼を迎えにくる。
「これは、人が多いな。しかも、冒険者だけじゃないな」
そこには聖堂教会の者たちの姿もあった。
冒険者たちとはあまり折り合いが良くないのかどこか遠巻きにしているが、整列して待機していた。
「はい、冒険者と聖堂教会の合同になります。今回の件は少し規模が大きいもので……今、ギルドマスターから説明がありますので、こちらでお待ち下さい」
「わかった」
少しの会話の後、受付嬢と別れ、ミズキは中心からはやや離れた場所で待機する。
その姿を見た冒険者は、彼の力の一端を見ている者が多く何も言わないが、聖堂教会の者は子どもがなぜこんな場所にいるのかと訝し気な表情で見ていた。
(いやいや、子どもがいるのはそっちも同じだろ)
そんなツッコミを心の中でいれるミズキの視線の先には、昨日助けた少女の姿があった。
彼女は聖堂教会の面々と話しており、ミズキに気づく様子はなかった。
そんな風に周囲を見回していると、ギルドマスターレイアがカウンターの向こうにある、少し高い台の上に現れる。
それと同時にパンパンと大きく手を叩くことで、フロアを静まらせた。
「みなさん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
いつもよりも張った声はギルドホール内に広がっていく。
「今日の依頼内容の説明とともに、聖堂教会の方々がいらっしゃる理由から説明したいと思います」
冒険者たちはなんの説明も受けていないため、聖堂教会の面々について不信感を持っていた。
「依頼の内容ですが、ここから馬車で東へ二日ほど移動した場所にある森の魔物退治となります。普段であれば、あの森はさほど危険ではないのですが、ここ数日見たことのない魔物を見たという報告があります」
硬い表情のレイアのこの一言でホール内がざわつく。
知っていた者は落ち着いているが、それ以外の者たちで森の普段を知っている者たちは動揺していた。
街からはやや離れているが、初級の冒険者が力試しに行ったり、住民が薬草や果物などを集めに行ったりもする場所として知られるのが東の森だった。
比較的ランクの低い魔物や動植物たちが生息し、穏やかな場所だった。
「……続けます。森の調査には聖堂教会の方も行っており、戻ってこないとのことです。よって、今回聖堂教会からの申し出もあって、冒険者ギルドとの共同戦線という形になりました」
戻ってこない、それはつまり魔物にやられた可能性を示唆している。
聖堂教会はそれなりに鍛えられた者たちの集団であるため、初級冒険者が力試しに行くような東の森でやられてしまうものはいない。
それだけに彼らも普段あまり関わらない冒険者たちに交じってここにいるのだ。
「失礼、我々はあくまで仲間の安否の確認、そして魔物の討伐を考えている。我々のことを良く思っていない者がいるのもわかるが、今回ばかりはこらえてほしい」
そう説明したのは、聖堂教会でも立場ある人間であるらしく、他の者と比較して身に着けているものがワンランク上だった。
この説明を聞いては誰も反対することはできず、頷くか、わかったと返事をするか程度だった。
また内心では、強力な魔法使いがいると言われている聖堂教会の協力を得られることは冒険者たちにとってもプラスである。
そう考えている者が大半である。
(……烏合の衆、にならなければいいがな)
そんな中にあって、心配をしているのはミズキだけだった。
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