第17話
結局そのあとは宿に戻って就寝し、翌朝食後、冒険者ギルドへとミズキは向かう。
「今日こそは面白い依頼を受けられるといいんだが……」
冒険者たちでにぎわうギルド内を歩き、依頼がたくさん並ぶ掲示板を眺めるミズキ。
彼の目標はもちろん魔法使いの最高峰といわれる帝位、つまり水帝になることである。
しかしながら、グローリエルとララノアと一緒に暮らしていく中で、こちらの世界では色々な発見があることを知った。
新しい魔法、見たことのない魔物、珍しいアイテムなどなど。
それらに触れるためには、冒険者が最も適しているとの判断で登録をしたのだ。
依頼を一通りチェックしたミズキは受付カウンターへと移動した。
「あっ、ミズキさん。昨日の受け取りですね、こちらへどうぞ」
そんなミズキに気づいたのは、昨日対応してくれた受付嬢だった。
彼女は顔を上げるとふわりと笑顔で迎えてくれた。
「あぁ、昨日の……昨日は騒がせてすまなかったな」
「いえいえ、少し驚きましたけどミズキさんのほうが正しかったですから!」
昨日はあの状況に戸惑っていた彼女も、今ではミズキに肩入れする意見に変わっていた。
「まあ、丸く収まってよかったよ。それより、査定の結果を聞かせもらいたい」
「そうでした! こっちです!」
案内の途中だったことを思い出した受付嬢は慌ててミズキを倉庫へと案内する。
倉庫はカウンターから中へと入って、裏口から繋がっている。
「さあ、こちらです」
案内されて入ると、昨日の素材がテーブルの上に綺麗に並べられていた。
「あぁ、ミズキさんいらっしゃいませ」
そこには鑑定人だけでなく、レイアの姿もあった。
今回の支払い金額が高額であることと、ここへ案内したのが彼女であるため、立ち合いをするようだった。
「まさかあんたまでいるとは思わなかった」
ミズキが素直な感想を口にすると、レイアはとんでもないといった表情で首を大きく横に振る。
「これほどの品物を持ちこんでくれた方の対応に私がでないわけにはいきませんよ!」
力強く彼女が言うと、他の鑑定人も受付嬢も大きく頷いていた。
「はあ、そんなものか? たかだが、登録したてで依頼の一つもこなしていない子どもの頼んだ買取だろ……まあいいか、それよりも金額を聞かせてもらいたい」
誰が対応したとしても、買い取ってもらうことが先決であるため、不思議に思いながらもミズキは先を促すことにする。
「はい、内訳ですが……」
鑑定人の一人がメモを確認しながら説明しようとする。
「いや、詳細はいらない。総額だけ言ってくれればいい。よほど低い見積もりが出されない限りは全て買い取ってもらうつもりだからな」
ミズキがそう断じるが、鑑定人は困った表情でどうしたものかとレイアの表情を窺っていた。
「わかりました。それではこちらが買取の明細になります」
鑑定人にひとつ頷いて応えたレイアはミズキの要望を呑むつもりであり、各素材の価格と総額が記された用紙を彼に手渡す。
「ふむふむ……えっ?」
そんなミズキが用紙の確認中に驚きの声とともに固まってしまったため、レイアを初めとする面々は何か不手際があったのかとざわつく。
「あ、あの、ミズキさん。なにか問題でもありましたか?」
もちろん、ここはレイアが代表として質問する。
「あ、あぁ、いや、思っていたよりも高額だったから少し驚いただけだ」
ミズキからすれば、さほど苦労することなく倒すことができた魔物ばかりであり、それが用紙に記されているほどの金額で買い取られるとは思いもよらなかった。
だからこそ大きな驚きに包まれていた。
「いえいえいえいえ、これは当然の金額です! これだけの種類の、これだけの強さの魔物の素材を、これだけ綺麗な状態で持ってこられる冒険者は未だかつて聞いたことがありません!」
一方のレイアは目をカッと開き、これらの素材がどれだけすごいかを力説する。
ミズキは大したものではないと思っているようだが、彼が持ってきた品はどれもギルド垂涎ものばかりでレイアはぜひともミズキの品を買い取りたいと願っていた。
「そ、そんなものなのか……まあ高く買ってもらえるのは俺にとっていいことだから、これで買い取りを頼む」
値段をざっと確認しただけで、大量の素材全てを売ると即答したミズキにこれまた全員が驚いている。
人によっては高額な買取と知ると値段を吊り上げる交渉をするものだが、ミズキは適正価格とはいえ、ギルド側の言い値で即決していたからだ。
「わ、わかりました。念のため全て売りに出される場合を想定した金額はこちらに用意してあります」
内心驚きながらもレイアが横に移動すると、その後ろには大きな布の袋が用意されていた。
「なるほど、これにさっきの額が入っているんだな?」
この問いかけにレイアが頷く。
「よし、それじゃもらっていくよ。よっと」
金が大量に詰まっている袋を右手で軽々と持ち上げると、それを自らのカバンにしまっていく。
明らかに見た目と内部容量が違うことは、前回の素材提出の時点でわかっていたが、カバンの何倍もの大きさの袋があっという間に吸い込まれていったことに全員が目を丸くしていた。
「……そ、その、中身の確認はされなくてもよろしいのでしょうか?」
もちろん不正などしておらず、何度も確認をしてあるので確実な枚数のはずだが、確認もとらずにしまっていく姿には不安を覚える。
ミズキがギルド側の想定を超えた行動ばかりするため、思わず問いかけてしまった。
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
思い出したかのようにそう言うと、ミズキは再び動きを止める。収納空間の中身を確認していた。
「……大丈夫そうだ、提示された金額がキチンと入っていた。正確な仕事に感謝する」
そっけなくミズキがそう返すが、何をもっとそう判断したのかはレイアたちに疑問をもたらした。
「それで、俺はもう戻っていいのか? 何か依頼を受けようと思って……いつまでも一番下のFランクというのも格好がつかないからさ」
昨日は結局依頼を受けることができなかったため、今日こそはと意気込んで来ていた。
肩に乗るアークも同意するように少し羽を広げる。
「そ、その件ですが少々待ってもらってもよろしいですか?」
「えっ?」
まさかのストップにミズキは振り返って首を傾げる。
「実はミズキさんに一つ受けていただきたい依頼があるのです。規模が大きいもので他の冒険者との合同依頼になるので、集まるまで待っていてもらいたいのですがどうでしょうか……? 昼過ぎに集合ののち出発予定なのですが……」
レイアがどこか遠慮がちなのは今の時間は早朝であり、まだ時間があるためだ。
「俺はFランク冒険者なんだが、いいのか?」
指定依頼というわけではなさそうだが、自分のランクはまだ駆け出しのFランク。
まずは、参加条件の確認が必要である。ランク制限があればミズキが受けることは叶わない。
「もちろんです! 今回は基本的にはCランク以上の冒険者の参加となりますが、ギルドの推薦枠に入っている方は例外とされているんです」
ギルド側がミズキをなんとか参加させようとしようと考えたのが、この案だった。
「なるほど、他に参加が決まっているやつはいるのか?」
自分だけが優先的に決まっているのか、元々決まっていたのかを確認する。
「ええっと、この街に滞在している冒険者の中でAランクの二人には既に声をかけてあります。それ以外にも何人か」
その何人かにミズキが含まれているということとなる。
この街に来たばかりでまだ高ランク冒険者に会ったことのないミズキはどんな人物に出会えるのか少し楽しみになった。
「なるほど、それじゃあ昼飯を食ったあとにまた来ればいいのか?」
「はい、正面のギルドホールに来ていただければ参加者の集まる部屋へと案内します!」
レイアはミズキが乗り気になっていると感じて、やや食い気味で返答していた。
「わかった、それじゃ少し街をぶらついてみるよ」
「いってらっしゃいませ」
笑顔のレイアに見送られながら、懐が潤ったこともあるため、装備などを見るためにミズキは街へと繰り出していった。
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