第14話 聖堂教会
鑑定人たちの質問には濁しながらの回答ですませ、レイアから地図を受け取ったミズキは真っすぐに宿へとは向かわず、街の散策も兼ねて食べ歩いていく。
「さすがに少し腹減ってきたし、何か食べていくか」
「ピー!」
ギルドでは沈黙を貫いていたアークがここにきてミズキの頬に顔を寄せながら声を出す。
ずっとミズキの肩にとまっていたため、疑問に思う者もいたが、動かず鳴き声を発せずであったため、誰もツッコミをいれなかった。
「よしよし、でもその身体で食べられるのか?」
ミズキの問いに、小さい状態でご飯を食べた記憶がなかったアークは少し考え込むように首を傾げていた。
「ピピー!」
だが今度は何度も頷いている。これは、問題ないということを表していた。
それから、いくつかの売店や屋台などを巡っていき、二人は腹を満腹にする。
普段食べていたもの以外にも街ならではの味付けと食材たちに満足していた。
「さて、そろそろ宿に向かうとするか」
もらった地図はこの街の主要施設や、便利な店が記されていて、わかりやすいものだった。
それを頼りに街を歩くミズキとアーク。
「ピー」
「あぁ、お前も一緒に泊まれるとこだといいな」
「ピッピピー」
たくさんの人が行きかう街の中でギルドを離れ、やっと自由に話せる状況になったため、アークは上機嫌で声を出している。
「――無礼だぞ!!」
それとほぼ同じタイミングで、この街の雰囲気にそぐわない空気をつんざくような怒鳴り声が聞こえてきたため、ミズキとアークは驚いて声がする方向を向く。
「あっ、ここは……」
声がしたのはある建物の中からで、そこはレイアから紹介された宿だった。
中堅の宿屋といった雰囲気で、しっかりとした作りだが大きさに見合わない人だかりができている。
「我々が部屋を用意しろ言っているのだ、だから素直に部屋を用意すればいい!」
「そ、そう言われましても、部屋の数には限りがありまして……」
怒鳴り続ける声の主は一人ではなく、集団で苛立ちをあらわにしており、全員が同じ鎧、同じマントを身にまとっている。
(このマントのマークは確か……聖堂教会の……)
ミズキはその鎧とマント姿に心当たりがあった。昔、グローリエルから話を聞いたことがあったからだ。
聖堂教会とは、この世界でも大きな権力を持っている団体であり、所属しているメンバーには聖位、王位、帝位の魔法使いもいるとのことである。
グローリエルいわく、権力に支配されているがゆえに自分たちが偉い存在だと思っているような者もおり、実力に見合わない態度が目立つという。
「さて、どうしたものかな……」
宿からあふれるほどに男たちがいるため、もちろん中に入るのは難しい状態である。
男たちを吹き飛ばすこともできるが、さすがにここでそんなことをすれば宿に迷惑がかかるだけでなく、聖堂教会を敵に回してしまうため、腕を組んで考え込んでいる。
「……中に入りたいんですか?」
そんなミズキに話しかける者がいた。
「うおっ!」
声をかけられるまで気配に気づかなかったため、ミズキは慌ててその場から飛びのいてしまう。
アークはじっと警戒するように相手を睨んでいた。
「くすくす、すごい反応ですね。こっちの方がビックリしてしまいますよ?」
「あ、あぁ、すまない」
ミズキの反応をみて口元に手をやりながら楽しそうにほほ笑むその人物は、ミズキと同年代の少女だった。
特徴から見るに人族であり、紫色の軽くパーマのかかったようなふわふわした髪を揺らしながら微笑んでいる。
ミズキがこんな反応をしたのは、驚かされただけでなく彼女がを身にまとっている白い法衣服が、この場では不自然だったのもある。
(胸のマーク、こいつも聖堂教会のやつか。しかもかなりの力を持っているな)
冒険者ギルドであったギルドマスターのレイアも強いと思ったが、目の前の少女からはそれ以上の何かを感じていた。
「どうかしましたか? なんだか不思議そうな顔をされていますが?」
単純に疑問に思ったことを少女は口にしていた。
「いや、急に話しかけられたから少し驚いただけだ。それよりあの中に入りたいかという質問だが、確かに俺はこの宿に用事がある」
「じゃあ」
「だが、俺だけじゃなく他にもここに入りたい人はいるだろうし、中に泊まっている人も外に出られなくて困っているんじゃないか?」
少女は、ミズキに興味を持って、ミズキ個人に話しかけていた。
しかし、ミズキはここで問題を自分だけに限定せずに、多くの人が迷惑していると話を広げる。
「た、確かに……」
ミズキに興味を持っていた彼女は、彼を中に入れてあげることで恩を作ることで繋がりを持とうとしていた。
だがミズキの言葉で自分と同じ集団の者が周りに迷惑をかけている事実に気づく。
「それで、この状況をなんとかしてくれるのか? まあ、問題の大元はそちら側の人たちみたいだがな」
聖堂教会の人間としてこのままでいいのか? と肩をすくめながらミズキは遠回しに質問する。
「そ、そうですね。ちょっと失礼します!」
周りに迷惑をかけるのは本意ではないようで、少女は慌てた様子で男たちの中に分け入って行き、彼らを宿から出るように声をかけていく。
すると聖堂教会の集団は先ほどまでの怒りをおさめ、そそくさと少女を中心として宿を去ろうとしていた。
その様子からも、彼女は聖堂教会でも地位のある人間であることがわかる。
「さてと、アーク……逃げるぞ!」
面倒な人間に目をつけられたと感じたミズキは、未だ宿がごった返しているうちにこの場を立ち去ることにする。
「……あっ! ちょ、ちょっと!」
それを見た少女が大きな声を出して止めようとするが、ミズキは人ごみに紛れるようにしてあっという間にいなくなってしまった。
しばらく街の中を走りぬけるミズキとアークだったが、追いかけてくる気配もなく、何度か曲がったことで完全に見えなくなったため、足を止める。
「――はぁ、いきなり面倒な相手に絡まれそうになったな」
今はまだ雌伏の時であるため、あそこまでの組織に巻き込まれるのは避けておきたかった。
「にしても、これじゃあ、あそこの宿に泊まるのは難しそうだな……」
そう呟いていると、誰かが近づいてくる。街の中心から離れたこの辺りは人も少なく、今度は気配に気づいた。
「宿を探してるんですか?」
声の方に振り返ると、きょとんとした犬の獣人の少女が立っていた。
少し垂れた耳がかわいらしい少女はいわゆる町人といった風の一般的な服装で、腰にはエプロンをしている。
年齢は背格好から見て、恐らくミズキよりはいくつか下である。
「あぁ、泊まる予定だった宿に行けなくなったから他にないかと思ってな」
宿に関してはレイアからの情報だけを頼りにしていたため、次のアテが全くなかった。
あの宿屋を利用しようとしていたことは先ほどの聖堂教会の少女にはばれているため、戻る気にはなれない。
「なら、うちに泊まりませんか?」
ふわりとほほ笑む少女が指さしたのは、先ほどの宿よりもやや小さいが、温かみのある建物で、アットホームな雰囲気だった。
「うち? 君のうちは宿なのか?」
「うん!」
ミズキの質問に笑顔で即答する少女。まるで花が咲いたかのような明るい笑顔だった。
「だったら、泊まらせてもらうことにするか。あ、こいつも一緒だけど大丈夫か?」
「ピー」
ミズキの肩に乗るアークは遠慮がちに小さく鳴き声をあげて存在をアピールする。
「わっ、可愛い! もちろんです! うちは魔物使いの人も受け入れているから、小鳥さんくらいなら問題なしです!」
「それじゃ、早速案内頼む」
「はーい、一名様ご案内です!」
嬉しそうにはにかんだ少女は、手を上げて元気よくミズキたちを宿へと案内していく。
ぴょんぴょんとステップを踏むような動きをみると、彼女が喜んでいる様子が見てとれた。
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