第13話 買取
「それじゃ、早速協力してもらいたいんだがいいか?」
「え、えぇ」
切り返しの早いミズキに、レイアはやや押されぎみになっている。
協力するといったものの、冒険者登録したばかりのミズキのためにすぐできることがあるのだろうかと困惑気味だ。
「実は、そこそこ魔物の素材があるんだけど、それの買取をしてもらいたい。これから活動していくにあたって資金はあるに越したことはないからな」
言うと、ミズキは自分のカバンを軽く二度ほどポンポンと叩く。
「あぁ、買取のことは先ほども言ってましたね。それでは、こちらへどうぞ。大量買取に関しては倉庫で行っていて、そちらに鑑定の専門家がいますので、彼らに値段をつけてもらいましょう」
買取に関しては先ほども色を付ける約束をしていたため、ミズキの要望を受けると決めていたレイアはすぐ立ち上がると、下にある倉庫へと案内していく。
部屋を出て、一階に降りて、裏口から出て行くとそこには大きな倉庫があった。
「さあ、中へ入って下さい」
重量感のある扉が開かれていくと、そこは外見以上に大きな倉庫で大量の素材が収蔵されており、中央におかれたテーブルの上には現在鑑定中の品がおかれていた。
「みなさん、ちょっと特別なお客様なので、こちらの方の買取鑑定を先にしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
ギルドマスターのレイアの言葉に、職人たちが集まる。
「へえ、この子が特別な……?」
「別に私は構いませんが、そんなに優先するような買取内容なんですか?」
「こっちも急ぎじゃないからいいけど、何を?」
「見た感じ、大して持ってないみたいだが、どこかに置いてあるのか?」
ぞろぞろと集まったそれぞれが返答や感想を口にするが、別段鑑定を行うことは問題なさそうだった。
鑑定することにしか興味がない様子で、ミズキが幼い少年だということには目もくれていないようだ。
「こっちの特別なカバンにいれてあんだが、どこか出してもいい場所はあるか?」
「それなら、ここのテーブルは使ってもらって大丈夫だ」
特別なカバン。
つまりマジックバッグの類で、見た目以上の容量を持っているバッグだと鑑定人たちは判断し、余計なツッコミは入れない。
「それじゃ、まずはこれから」
了承を得たことでミズキが最初にバックからずるりと取り出したのはキングべアの皮だった。
「は?」
「えっ?」
「……」
「お、おいおい、あれって!」
鑑定人たちはもちろんそれがなんであるかを知っており、全員が驚いている。
「同じ魔物の素材は一か所のほうがいいか。核、牙、爪、骨、肉は……ひとまずやめとくか」
生ものではない部分を出し終えると、ミズキは少し横に移動する。
「えっと、次が……」
今度は別の魔物の素材を取り出していく。
それもさきほどのキングベアに負けず劣らずの大きさで、バックの容量からは想像できないほどの素材が次々と出てくる。
「サイクロンウルフ!?」
こちらもエールテイル大森林にいる魔物である。
「その次が……」
次々と素材を取り出していくミズキを、レイアと鑑定人たちは口をあけたまま呆然と見ている。
ジャイアントボア、ジェネラルゴブリン、フレイムスライム、ニードルバード。
どれもがエールテイル大森林にいる魔物であり、ミズキとグローリエルはもちろんのこと、二人より実力面で劣るララノアですらまともに戦えていた。
それゆえに、ミズキはそれほど強力な魔物だと認識していない。
だが森の外に住む者からすればエーテイル大森林は魔の森と呼ばれるほど強い魔物が住むエリアだという認識だった。
「こ、こここ、これ、全部ですか?」
それを知るレイアは酷く動揺しながらミズキへと質問する。それと共に視線が彼へと集まった。
「うん? まだあるが、とりあえずはこんなものかと思ったんでな……少ないか?」
自分にとっては大した素材だとは思っていないミズキはやはりこの程度では大した値段にはならないのかと再度カバンに手を入れる。
「い、いえいえ! ち、違いますっ! そうじゃなくて、これ全部あなたが倒したのですか?」
焦ったように否定するレイアは先ほどの質問に補足をする。
「あー、そういうことか。そうだな、仲間というか家族みたいな人たちがが分けてくれたんだ」
もちろんミズキ一人で倒したものもあるが、グローリエルとララノアは自分たちが倒した魔物の素材をいつか旅に出るミズキにと分けており、それもいくつかは含まれているため、この答えとなる。
「な、なるほど、そうですよね」
それを彼女を含む鑑定人たちは、駆け出しの冒険者に見えるミズキの幼さい見た目から全て分けてもらったと勘違いして受け取っていた。
「それで、こいつらの鑑定はしてもらえるのか?」
「もちろんだ!」
ミズキの質問に答えたのは、嬉しそうに腕まくりした鑑定人の一人である。
その他の面々も既に、素材が置かれたテーブルの周りに集まって来ていた。
「ふふっ、みなさん仕事熱心ですから任せて大丈夫です。私もまさか、あんな素材があるとは思いませんでした」
あんなにすごい素材を、あれだけの量、しかも綺麗な状態で持ってくるとは思わなかったため、思わぬ臨時収入が入ったかのようにレイアは機嫌よく微笑んでいた。
「あぁ、まあせっかくもらったやつだからな」
ミズキとしてはキングベアを買い取ってもらうついでのものであるため、さほど気にもしていない。
「おいおい、この解体は一体どうやったんだ? 綺麗すぎるぞ!」
「こっちも見てくれ、傷がほとんどついていない。こんなことありえるのか?」
鑑定の手続きを進めている鑑定人たちはミズキが持ってきた素材を調べるうちに驚きと困惑でざわめきたつ。
解体するうえで、どうしても無理やりでなければとれない部位などもあり、それには傷もやむを得ない。
しかし、ミズキが持ってきた素材はその全てが熟練の解体技術を持っている者でもないと、できないほどに綺麗なものばかりだった。
「ちなみに、どれくらいかかるもんなんだ? 時間が必要なら宿を探してきたいところだが……」
この街に来てから、真っすぐ冒険者ギルドへとやってきたミズキは、街にどんな店があるのか、宿がどこにあるのか、宿に部屋が空いているのかもわからない状態である。
「そう、ですね……量が多いので精査に時間をいただきたいので、明日ギルドに来てもらう形でもよろしいでしょうか?」
「わかった、それじゃ頼んだ」
ミズキはそれだけ言うと倉庫の入口へ向かおうとする。
「お待ち下さい。宿を探しているなら、私が紹介します。冒険者ギルドと提携しているので、冒険者ギルドカードを見せれば幾分か割引がされますし、恐らく部屋も空いているはずですよ」
少しでもミズキを優遇しようとレイアが提案する。
聞いた限りの彼の実力。話したうえでの彼への印象。これだけの素材を、これほどの品質で持ってくる。
ここで彼をこの街の冒険者として囲っておくことは必要なことだと彼女は確信めいた感覚をもっていた。
それら全てを加味して、少しばかり以上の贔屓をしても差し支えないというのが、レイアの判断だった。
「わかった、お言葉に甘えることとしよう」
ミズキは願ったりかなったりだと、彼女の提案を受け入れることにする。
「それでは地図を用意しますので、少々ここでお待ち下さい」
そう言うと、レイアは自室に地図を取りに戻って行った。
それを幸いと、ミズキに声をかけてきたのはさきほどの鑑定人たちだった。
「なあ、これはどうやって解体したんだ?」
「お前さんがやったのか? それとも分けてくれたという人物か?」
「どこで倒したんですか? この魔物種類を見る限りエールテイル大森林に似た場所のような、でもまさか……」
「いい素材だ!」
久々の高品質な鑑定の品を目の前にして興奮交じりで鼻息荒い彼らが次々に質問をしてくるため、さすがにミズキも押され気味になっていた。
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