第8話 五年後


 それからグローリエルのもとで修業を続けて、五年が経過。

 ミズキは十三歳になっていた。

 

「”水弾丸”」

 手で銃の形を作り、人差し指の先から弾丸を模した水を射出する。


 それは、キングベアと呼ばれる、この森の中でも上位に位置する魔物の頭部を見事に撃ち抜いた。


「うん、見事だ。魔法を凝縮させて威力をあげる。実に綺麗な魔力操作だな」

 それを見ていた師匠グローリエルが、ふっと目を細めて柔らかく微笑み、ミズキの魔法を称賛する。


「ほんっとすごいです!」

 その隣で嬉しそうにはしゃぐララノアも歓声をあげていた。


 この二人はエルフ種。

 妖艶なグローリエルは五年前と全く同じ見た目でああり、美少女のララノアは美しく成長したもののまだまだ顔には幼さが残っていた。


「いや、これもグローが教えてくれたからだよ。本当にありがとう」

 礼を言うミズキ。彼の見た目は大きく変わっている。


 顔立ちに幼さは残るが、身長も伸びて160センチになった。

 ボサボサに伸びていた青い髪はララノアによって綺麗に整えられていた。


「もう、私が教えることはない。本来なら十年はかかると思っていたんだが、さすがミズキは優秀だ」

 これはグローリエルからの事実上の免許皆伝宣言だった。


 先ほどミズキが倒したキングベアは、上位の魔物だが、この個体は通常サイズ五メートルと言われているところがこの森で暮らしているためか十メートルを超えた巨体であるだった。

 ゆえに、森の主と目されており、それを単独撃破したミズキの実力が圧倒的なのは誰が見てもあきらかだった。


「ふう、やっと卒業だな……」

 巨大キングベアを倒せたら卒業だという約束を受けてから、三か月ほどでミズキは今回の結果を出していた。


「ミズキの魔法は発想が独創性に優れていて、他の者が真似することのできないものだ。ゆえに、注目を集めることでよく思わない者も現れるだろう。そしてその力を利用したり、取り込もうとする者も出てくるだろう……だが、臆することはない。お前は強くなった、胸を張って自由に生きるんだ!」

 これまでの人生がどんなものであったのか、それはあの食事の時以降も何度も話す機会があり、グローリエルとララノアはミズキに好きなように人生を送ってもらいたいと思っていた。


「あぁ、師匠グローリエル、姉弟子ララノアの名を胸に、俺は好きなようにやってみるさ」

 この世界の本当の家族は彼に辛くあたった。

 しかし、新しい家族になってくれた二人は優しく、厳しく、楽しく、甘く、どこまでもミズキに対して誠実だった。


 だから、二人の家族がいることがミズキの心の支えになっており、それは今後の彼の人生においても大きな軸となるものだった。


「うふふ、姉弟子なんていっても、あっという間にミズキさんに追い抜かれちゃいましたけどね。でも、私も自分なりに頑張って少しでもミズキさんに近づけるように頑張りますね!」

 もう、別れの時が近づいているが、ララノアは笑顔でいる。


 それはグローリエルも、当人のミズキも同様だった。


 五年間寝食を共にしてきた三人だからこそ、もちろん寂しさがある。

 しかし、家族だからこそ繋がりを感じており離れていてもそれは変わらないと、三人が……。


「ピピー!」

 自分も忘れるな、というように高らかに鳴き声を上げるグリフォンのアークを合わせた四人が思っていた。

 アークもこの五年間、三人とともに過ごしており、四人家族といっても過言ではなかった。


「アークはミズキについていくということだ。そのために身につけた能力は街中で役にたつだろう」

 ミズキが一番のお気に入りとなったアークは、旅立つことを話してからついていくと言ってきかなかったが、やはりどうしてもアークは目立つ。


 その対策を編み出したアークを止められる者は誰もいなかった。


「それじゃ、家に戻って最後の準備をしたら行くか」

「手伝いますね!」

 出発が近いということで、ある程度の準備はしておいたが、残っているものもあるため最終確認となる。


「そうそう、キングベアの死体は持って行ってくれ。金に困ったら素材を売れば、それなりにはなるはずだ」

「あー、そうだな。それじゃ、ありがたく……収納」


 一瞬のうちに収納されていくキングベアの死体。

 収納能力に関しては、もちろん二人にも説明してある。


「ふーむ、いつみても不思議なものだな。外に出たら、その力も特異なものとして映るはずだから、十分に注意するんだぞ」

「了解、確かにこれだけのことができるのはやばいよな」

 先ほど収納したキングベアを一覧で確認しているが、そこには素材ごとにわけて収納されて表示されていた。


 キングベア核、キングベア皮、キングベア骨などなど、既に解体された状態で収納されるのはかなり破格なことである。


「だが、そこも合わせてミズキだからな。注意は必要だが、それで出し惜しみをする必要もない。大事だと思った時にはためらわずに自らの力を行使するんだ」

「了解!」

 グローリエルは最後に発破をかけ、ミズキにもそれは伝わり、元気な返事がくる。


「地図も渡したし、私たちが知る限りの一般常識は伝えてあるから、そうそうとんでもない事態になることもないだろう。しばらくは冒険者として過ごして、徐々に力を示していくといい。いずれ、力が知れ渡ってどこぞより声がかかるはずだ……」

 そう話すグローリエルは昔の自分を思い出し懐かしんでいるようだった。


「なるほど……とりあえずはそのとおりに動いてみるよ。冒険者っていうのも、一度はなってみたいと思っていたし丁度いい。それじゃ、グロー、ララ、二人ともありがとう。またそのうち帰ってくるよ」

「はい、気をつけて行ってきて下さいっ」

「かましてこい!」

 二人の声を受けたミズキは、アークの背中にまたがる。


「アーク、頼むよ」

「ピピー!」

 出会った時よりもひと回り、ふた回り大きくなったアークは成長したミズキを軽々と乗せて空に羽ばたいていく。


 二人に手を振るミズキ、その背中は徐々に遠ざかって行き、ついに世界にミズキの力が解き放たれることとなった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る