第15話

北の山に瘴気溜まりの調査に行ってから二週間が経った。

 結論から言うと魔物の町への襲撃はかなり落ち着いている。

 俺がやったことは無駄ではなかったことがわかり一安心だ。

 また、瘴気の勢いが増す前に浄化をしに行くとしよう。


 今日は午前中の訓練が終わった後に、最近出来ていなかった釣りをしていた。

 ここのところ訓練で忙しくゆっくり釣りをするのは久しぶりだが、川の音や鳥たちの鳴き声を聞きながら川べりに腰掛けて糸をたらしていると心が安らぐ。


 王国に居た頃からだいぶ時間も経ち、心の傷は少しずつ和らいでいると思う。

 俺はここで必要とされている。その実感があるからだろうか?

 王国では国王からは頼りにされていたと思うが、他の貴族達には煙たがられていた。

 だがここではただのロイドとして接してくれる。

 ただそれだけのことが嬉しいのかもしれない。


 けど、ジュリアスとは話しもせずにこちらにきてしまったし、リアラやミラ、キールともまた仲良く語り合いたいとも思う。この先みんなにまた会うことがあるだろうか。

 そう思うと少しだけ寂しくなる。

 特にミラは俺にべったりだったからなぁ。心配だ。


 ◇


 のんびり釣りを続けていると、背後から人の気配を感じた。


「こんにちは。君がロイド君だよね?」


 振り返ると、かなりの美女が立っていた。見たところ同じくらいの年齢だろうか。

 俺がここまで近づかれる前に気づかないなんて…。こいつはかなりの実力者だな。


「そうだが、なぜ俺のことを知っているんだ?」


「君のことは今この国で少し噂になってるのよ」


 何の噂だよそれは。それにしても彼女は何をしに来たんだろうか?


「噂になるようなことをしたつもりはないがな。それより何の用だ?」


 彼女は笑顔で答える。


「そんなに急がなくても良いじゃない。私はあなたと話してみたくてきたのよ」


「まぁまだ時間はあるから話くらいなら問題ないけどな」


 モルとの訓練まではまだ時間がある。


「ふーん、初めて会ったけど顔は良いし、この魔力の流れは間違いなく強いわね。人助けもしてるみたいだし性格も良さそうね。これで私に勝てるなら…」


 聞きとれないが何か小さい声でぶつぶつ言ってるな。


「おーい。どうしたんだ?」


 声をかけるとハッとしてこちらを見る。


「ごめんなさいね。ちょっと興奮しちゃって。それよりも見たところあなた、かなりの実力を持ってるわね?」


「王国では一番強かったからな」


「私は今この国で強い人を探しているの。ロイド君がそうだったら良いなと思って」


「話が良く見えないが、お前もかなり強いだろ?俺が戦わなければ分からないと思ったのは数人目だな」


 すると彼女は驚いたようだ。


「あら?分かっちゃった?ちゃんと魔力は隠してきたのに」


 やはりか。どれだけの実力か気になるな。


「それともう一つ聞きたいのだけれど…。あなたは今彼女はいるの?」


 なぜその質問になる?それに俺の心の生傷がえぐられる。


「今はいないよ。婚約者にふられたばかりだからな」


 すると彼女は小さくガッツポーズをした。それを見て俺はちょっと落ち込む。


「あなたと少し話が出来て良かったわ。また会えるかしら?」


「俺はこの町にいるだろうから来てくれれば会えるな」


「そう。じゃあ次を楽しみにしてるわ。あと名乗らなくてごめんなさいね。私はユリスよ。よろしくね」


 そう言ってユリスと名乗った彼女は去って行った。


 また会うことがあるのだろうか?

 それにあの強さなら誰か知ってるかもしれないな。

 あとでモルにでも聞いてみよう。


 ◇


 モルとの訓練を終えたあと、先ほどの女についてモルに聞いてみた。


「モル。聞きたいんだが六神将に女はいるのか?」


「一人いたと思うッスけど。オイラはそんなに詳しくないッス」


 そうか、じゃあさっきあったユリスは六神将の一人なのかもしれないな。


 次会うことがあれば手合わせしてみたいものだ。




 このとき俺は知らなかった。

 ユリスとの出会いが、俺の人生を波乱に満ちたものにするということを。

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英雄ロイドの災難 デュナミス @yuki1130

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