第9話

 今日からヒルダとも訓練をすることにしたのでいつもより早く起きて庭に向かった。


「おはようヒルダ。さっそく訓練を始めようか」


「おはようロイド。今日からよろしく頼むよ」


「じゃあまずは昨日みんなでやった魔力操作の練習をしていくか」


「ロイド、その前に良かったら一度本気で闘ってくれないか?今の実力をはっきりさせておきたいんだ」


 ふむ。たしかに俺もヒルダが真剣に闘うところは見ておきたいな。


「分かった。じゃあ怪我してもいいようにミリアを呼んでおくか」


 ヒルダがミリアを起こして連れてきてくれた。


「お姉ちゃん。ロイドさんと二人きりで朝の訓練だなんて、興味ないふりしてお姉ちゃんもロイドさん狙ってるんでしょ!」


「そんな理由じゃない!アタシは兄上に勝つために鍛えたいんだよ」


「ふーん。じゃあ今のところはそういうことにしといてあげる。それと大怪我には注意してね」


 ミリアは朝から元気だな。ヒルダは一生懸命なだけだろうに。


「じゃあ始めるぞ。」


 ヒルダは剣を構える。俺は基本的に武器を持たずに闘う。

 俺は魔力を全力で即座に放てるように出力を高める。


「何だこの暴力的なまでの魔力は?」


「強いとは聞いてたけどロイドさんってこんなに強いの?」


 横で見ているミリアも驚いている。


 本気で闘うのはヒルダが危ないだろうからしっかり手加減しないとな。


「ヒルダから打ってこい。しっかり受けきってやる」


 するとヒルダはかけ声と共に斬りかかってきた。

 なかなか良い攻撃だが俺は魔力を纏った腕で受け止める。まだ防御力を高める必要はないな。


 ヒルダはダメージが入らないことに驚きながらもできる限りの攻撃を繰り出す。

 しかし俺にダメージを与えることは出来ない。


「これで終わりか?」


 そう言って俺はヒルダとの距離を詰めて持っている剣をはたき落とす。そのままヒルダの腹部めがけて魔力を込めた拳を撃つ。


 ここで本気で当てると大怪我しかねないので、しっかり寸止めにする。


「アタシの負けだな。これほどの差があるとは――。世界は広いんだな」


「実力差が分かってもしっかり打ち込んできたのは良かったと思うぞ。昨日も言ったがヒルダは魔力操作の筋が良い。訓練していけばいずれ俺にダメージを与えられるようになるだろう」


「どんな鍛え方をしたらそれだけ強くなれるのか知らないけど、アタシも出来るだけ頑張らないとね。」


 俺は魔力許容量がとてつもなく多いのを師匠に見つけてもらって、養子に引き取ってもらった。

 その魔力を活かして魔力操作を徹底的に支障に鍛えられたからな。


「二人の兄がどれだけの強さかは知らないが頑張れば兄は超えられるんじゃないかな」


 ヒルダは悔しないながらもどこかスッキリした様子で言った。


「それを目標に頑張らなきゃね。これからもよろしく頼むよ」


 俺もヒルダの目標が叶うように頑張らなきゃな。


 ◇


 それから一ヶ月ヒルダ、モル、防衛隊のみんなとの訓練をしたり、空いた時間で釣りをしたり図書館に行く生活をしていた。時々魔物が出て退治することもあったが、みんなに倒させて経験を積ませた。防衛隊のみんなは少しずつの成長だが、ヒルダとモルの二人はかなりの成長を見せている。


 この町での暮らしも慣れてきて、この生活が楽しいと思えるようになってきた。時には元婚約者のイリアのことを思い出してしまうこともあるが、いずれは思い出になってくれるだろう。


 俺に今出来ること。それを少しずつやっていこう。


 ◇


 以前約束したデートはどうなったんだとミリアにつつかれ、二人が休みの日にデートをすることになった。

 忘れていたわけじゃない。意外と時間が合わなかったのだ。


 休みの日も出来るだけ町の中で過ごすように頼まれているので町の高台にピクニックに行くことになった。

 ミリアが弁当を作るので一緒に食べるとのことだった。


 当日二人で町が見渡せる高台に行った。

 シートを敷いて座り弁当を広げる。中身はとても美味しそうに見える。


「そんなに疑って見なくても私、お姉ちゃんと違って料理は得意なんですからね」


 ちょっと疑ったのがばれていたか。たしかにヒルダは料理が上手なタイプには見えない。言ったらおこられるだろうから言わないが。


 実際食べてみると本当に美味しい。


「たしかに美味しいな、疑って悪かったよ」


 ミリアはいたずらっぽい笑顔で言った。


「へっへーん。惚れ直しましたか?」


 元々惚れているわけではないのだが…。

 それにしても、ミリアはどうして俺をこんなに気に入ってくれてるのだろう?

 気になったので聞いてみた。


「ロイドさん恥ずかしいことを聞きますね。まあ別に良いですけど。うーん、顔も素敵だなって思いますけど、一番は強くて優しいところですね。片方はあっても両方兼ね備えてる人は中々いないですから」


 俺は王国にいるときあまりモテなかったから、そんなことを言ってもらえると素直に嬉しい。


「ありがとうミリア。俺もミリアのこと可愛くて優しい子だなと思ってるよ」


 ミリアは嬉しそうにしながら体をよじる。


「それってプロポーズの言葉と受け止めて良いですよね?」


 何でだよ。そんなことは言っていない。


「違うよ。ミリアにはまだ結婚は早いんじゃないのか?」


 十九才のヒルダより年下のはずだしな。


「私ももう十八才ですよ。結婚のことぐらい考えます!時間をかけてロイドさんに私の魅力をわからせてやあげますからね」


 そう言って頬を膨らます。魅力的な女の子だということはもうわかってるけどな。


「そういえば聞いてなかったんですけど、ロイドさんって何才なんですか?」


 こっちにきて年齢を聞かれたことがなかったな。


「俺は二十三才だよ」


「そうすると五才差ですね。ちょうど良いくらいの差です」


 何がちょうど良いのかはよく分からないが深く追求するのはやめておこう。


 そのあとも色んな話をして過ごした。

 そろそろ良い時間になったので町に戻ったが、ミリアが寄りたい店があるとのことで付き添うことにした。


「私もおしゃれをしたいお年頃なんですよ」


 おもむろにそんなことをいいながら真剣にブレスレットを選んでいる。ここは装飾品店のようだ。


「ロイドさんこれとこれ、どっちが可愛いですか?」


 言われて両手に持ったブレスレットを見比べるが可愛さの違いはあまり分からない。

 よく見ると右手に持ったブレスレットの方が少し魔力を纏っているのでそっちの方が良い品かもしれない。


 俺も防衛隊の仕事で給料をもらえるようになったのでいくらかのお金は持っている。

 ミリアにはお世話になっているし、ここは俺が支払おう。


「右手に持ってる方かな?あとこれは俺がミリアにプレゼントするよ」


 そう言ってブレスレットを受け取り値札を確認する。どうやら手持ちで足りそうだ。


「良いんですか?初めてのプレゼント、大切にしますね!」


 ミリアはそう言って満面の笑みを浮かべ俺の手を握る。

 少しドキッとしてしまうが何でもない風を装って支払いを済ませ、店をあとにする。


 するとミリアが俺の右腕に抱きついてきた。

 周りの視線が痛い。

 しかし振り解くのも悪いので俺が諦めることにした。


 すると通りの反対側からヒルダともうひとり見知らぬ男が歩いてきた。

 男は俺たちを見つけて表情を一変させ声をかけてきた。


「ミリア!誰だその男は!?付き合ってるのか?」


「そうだよ。デートの最中だから邪魔しないでよね」


 いや付き合ってないだろ。


「何だって!付き合うならお兄ちゃんより強い男にしなさいっていつも言ってるだろ」


 お兄ちゃんということは二人の兄のマーキスか。見たところ完全にシスコンのようだ。


「ロイドさんはお兄ちゃんより強いから文句ないでしょ?」


 するとマーキスは体を震わせ顔が赤くなっていく。かなり怒っているなこれは。


「おいお前!誰だかしらねぇが俺と決闘しろ!!ボコボコにしてやる!」


 完全に俺の気持ちは置き去りにして話が進んでいく。

 ヒルダに助けを求めてみよう。


「ヒルダ、出来れば闘いたくないんだが助けてくれないか?」


「いやこうなったら兄上は止められないしアタシも二人が闘うのを見たいから頑張って」


 助けてもらえなかった。


「お前何俺を無視してヒルダとも仲よさそうにしゃべってるんだ!俺の可愛い妹たちに手を出しやがって…。潰してやる!」


 ああ、さらにマーキスの怒りのボルテージが上がってしまった。

 面倒なことになったな。


 どうやらマーキスとの決闘は避けられないようだ…

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