第4話

俺は釣り道具を借りて近くの川に来ていた。

 そんなに大きな川ではないが、考えを整理するために釣りをしたいのであってたくさん釣りたい訳ではないので別にいいか。


 川岸に腰かけて糸を垂らしていると心が安らぐな。少し前まで王国に居たというのに急激な変化過ぎて落ち着く暇もなかったからな。


 まず思い出すのはイリアのことだ。何故急にフラれたのかは理由はもうわからない。だが心優しいイリアのことだから、今冷静に考えてみると本人以外の意思が働いたのだろうと思われる。平民上がりの俺は父親である公爵は良く思ってなかったのかもしれない。そして王国に戻らないであろう俺の今の状況を考えるともう諦めるしかない。あんなに大切に想っていたのに関係が壊れるのは一瞬なんだなと思うと寂しいが仕方がない。


 この潔さが自分ではあまり好きではないが切り替えなければ生きていけないからな。


 後は王国のことだ。戦争が終わりこれからのことでゴタゴタするだろうが、勝利して戦いを終わらせたから話し合いを有利に進められるだろう。それにリアラやキール、みんなが居れば悪いことにはならないだろう。


 まぁ王国のこれからは俺には関係ないことなんだけどな。

 そして俺のこれからのことだが、まずはこの町でしっかり働いて腰を落ち着けていきたい。先のことは分からないが出来ればこの国で家庭を持ち幸せに暮らして行きたい。グルガさんは冗談めかして言っていたが、ヒルダの様な器量の良い女性と結婚するのも正直良いんじゃないかなと思う。


 そんなことを考えているとこちらに近付いてくる足跡が聞こえた。振り返ってみるとヒルダがいた。


「ヒルダか。どうしたんだ?」


「少しロイドと話をしたくてな」


 そう言ってヒルダは俺のとなりに座る。


「ロイドが来てくれて本当に助かったよ。改めてありがとな」


「たいしたことはしてないさ。こっちこそおかげで住む所が確保できたよ。ありがとう」


「ロイドはこの町にずっと住むつもりなのか?」


「そのつもりだが迷惑だったか?」


「いや、ロイドくらい強い男が町に住んでくれたら心強いぞ」


「そうか。そう言ってもらえるとありがたいな。町のためになるように頑張るよ」


 俺がそう言うとヒルダは笑顔で俺の顔を覗く。

 やっぱり可愛いな。


「ロイドが強いのはなんとなく分かるけど兄上とどっちが強いかな?」


「グルガさんもこの町で一番強いって言ってたな。俺も王国で最強だったから戦っても簡単に負けるつもりはないぞ」


 王国では師匠以外には負けたことがないからな。


「そうか。兄上は強い奴を見つけると戦わずにはいられないから、帰ってきて二人が戦うのを楽しみにしてるよ」


「出来れば面倒なことはしたくないがな。そろそろ陽も沈みそうだから家に戻ろうか」


「そうだな。妹と母上も紹介するよ」


 魚も釣れたし晩飯の足しにしてもらおう。

 ヒルダと一緒に家に戻るとしよう。


 ◇


 家に戻ると中から良い匂いがした。ヒルダのお母さんが食事の準備をしてくれているのだろう。


「母上。ただいま戻りました!」


「あら、おかえりなさい。ロイドさんもいらっしゃいませ。旦那から話は聞いているわ。これからよろしくね」


 ヒルダの雰囲気を柔らかくしたような美人が俺に挨拶してくれた。


「こんばんは。俺はロイド・ヴィクトルと言います。これからお世話になりますのでよろしくお願いします」


「あら、もっとくだけた話し方で良いわよ。誰も気にしないと思うし」


 俺は育ちが良い訳ではないので正直助かる。

 これからは普通に話させてもらおう。


 部屋にはもう一人の少女がいた。この子がヒルダの妹だろう。ヒルダも美人だが、妹もかなり可愛らしい容姿をしている。


「ヒルダの妹のミリアだね。俺はロイド・ヴィクトル。これからよろしく頼む」


 ミリアは満面の笑みでこちらを見ている。そんなに見られると恥ずかしいんだが。


「はい!私がミリアです。こちらこそよろしくお願いします。お父さんから話は聞いています。こんなにカッコいい人ならお婿さんにしても良いかも!」


 いきなりだな。グルガさんはこの子に何を吹き込んだんだ。


「俺も君みたいな可愛い子なら嬉しいけど、会ったばかりだろう?もっと知り合ってから考えても良いんじゃないかな?」


 もちろん嫌ではないがいきなり過ぎる。まだフラれた傷も癒えてないしな。


「私が可愛いなんて良く分かってますね。ロイドさんもかなりカッコいいと思いますよ!この町にはロイドさんみたいな知的なイケメンってほとんどいないので。じゃあこれからロイドさんのことたくさん教えて下さいね」


 ぐいぐいくるな。そう思っているとヒルダが不機嫌そうな顔をしている。


「ミリア。ロイドが困っているだろう。それくらいにしておきな」


「お姉ちゃんもロイドさん狙ってるの?」


「なっ!!そんなことはないぞ!」


「じゃあ私がもらうね」


 本人不在で話を進めないで欲しい。グルガさんもこんな感じだったな。


「まあ、その話は置いといて食事にしないか?だいぶ腹が空いてきたのでな」


「そうね。ロイドさんはうちの離れに住むのだから焦らず落としなさい」


 お母さんも助けてくれてなかった。とりあえず話を流して食事にさせてもらおう。


 この後グルガさんも合流し、娘のどっちと結婚したいかという話を蒸し返されたりしたが、上手くスルーして食事をした。お母さんの食事はかなり美味しく、とてもホッとする味だった。


 そして離れに行ってようやく横になった。

 とても長い一日だったがとりあえず明日の仕事のためにしっかり寝ることにしよう。

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