第3話
中々大きな家の応接室に通された俺が室内を伺うと、かなりがっちりした体格の男が椅子に座っていた。ヒルダと俺を交互に見て微笑んでいる。優しそうな男だな。
「父上。先ほどの魔物の襲撃を撃退した者をつれて参りました」
ヒルダはそういって俺の方を向いた。
「君が報告にあった今回の魔物の襲撃を退けたロイドくんかな?私はこの町の町長のグルガという。まずは皆を代表してお礼を言わせてくれ。町を守ってくれてありがとう」
そういって町長は頭を下げる。町を守ろうとかそんな気はなかったから頭を下げられると居心地が悪い。
「頭を上げて下さい。いきなりですがなぜ私がここに来たのかと、これからどうするかをグルガさんと相談させて頂きたいのです」
「その話も少しは聞いたけど、改めて話を聞かせてもらおうかな。あと敬語は苦手だからいらないよ」
その後俺はグルガさんにこれまでの経緯を説明した。
「なるほど、状況は分かったよ。君も隠してないようだから聞くけど、君があの帝国との戦争を終わらせた英雄ロイド・ヴィクトルなんだね?」
この国にまで俺の名前が知られていたなんて。まあ確かに隠してないから良いけども。
「英雄と呼ばれるほどのことはしてないけどな。戦争を少し前に終わらせたばかりでようやく落ち着けると思ったらこの有様だよ。それにしてもなぜ俺のことを知ってるんだ?」
「それは国境の町では情報が命だからね。それに色んな国に魔皇国の物を偵察に出しているんだよ。それにさっき感じた膨大な魔力と名前。そうじゃないかなと思ったんだ」
なるほどな。確かに以前何度か王国もこの町を落とそうと攻撃を仕掛けたことが何年か前にあったはずだ。魔皇国からは侵攻したことは聞いたことはないが、国を守るためには情報は大事だ。
「それでだ。君はまず王国には戻れず住む場所を探しているとのことだが、住む場所は家の使っていない離れを貸そう。私としては君のその能力を活かし、この町の食客として国境防衛隊で働いてほしいと思っている」
「それはありがたい。住む場所がなければ困るからな。それに防衛隊で働くというのもありがたい提案なんだが具体的にはどんなことをすればいいんだ?」
「防衛隊の基本的な仕事は北の山から下りてくる魔物の退治、国境周辺の監視任務、それに訓練を行っている。それと今日のように時々、魔物が大勢でやってくることがあるのでそれの退治だ。ロイド君には訓練と大量発生時の対処をお願いしたい。訓練以外の時は町の中に居てくれれば良い。緊急時は呼び出させてもらうけどね」
それくらいで良いならこちらとしても助かるな。あとは空いた時間で何をするかだな。
「分かりました。その仕事引き受けるよ。それと出来れば暇な時間に読書や釣りをしたいんだが出来る場所はあるかな?」
読書と釣りは昔からの趣味だ。戦争時も待つ時間はかなり多かったから良くしていた。
「どちらも大丈夫だよ。大きくはないが町の中に図書館があるし、近くに川もある。そんなにたくさん釣れるわけではないけど充分に出来ると思うよ。家の倉庫に釣り竿もあるから好きに使ってくれて良い」
「それはかなり嬉しいな。ありがたく使わせてもらうよ。」
「よし!これで話はある程度まとまったね。この町はどれだけ人手があっても困ることはないからロイド君を歓迎するよ。分からないことがあれば家の者に聞いてくれ」
「分かったよ。色々あったがこれで一息つけるな」
ほっとしながら息を吐くと、グルガさんがニヤリとしながら驚くことを言った。
「それとさ。君さえ良ければ家のヒルダか末娘のミリアと結婚する気はないかい?」
横にいるヒルダが顔を真っ赤にして慌てている。
「父上。いきなり何を言うのですか!私はまだ十九ですよ。それにロイドとは今日あったばかりですし」
「そうは言ってもね、この町でヒルダより強いのは長男のマーキスだけだからね。父さんとしては心配なんだよ。ロイド君なら強さは申し分ないし人柄も良さそうだし。ああロイド君は聞いたことないと思うけどこの魔皇国では強い者と結婚して強い子孫を残すことが良いとされているんだ」
「なるほどな。ヒルダのように綺麗な人なら俺も嬉しいが本人の気持ちもあるし、今日のところは聞かなかったことにさせてもらおうかな」
「気が向いたらいつでも言ってね」
そう言いながらグルガさんはずっとニコニコしていた。
ひとまず今日から泊まる場所は確保出来た。なるようにしかならないがこれからのことを少し考えたい。グルガさんに釣り道具を借りて釣りをすることにしよう。
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