第2話

路地裏から出て来たのは共に戦争を戦った魔術師のキールだった。


「キールか。こんなところでどうしたんだ?なにっ!?」


 キールが右手を上げると急に俺の体が動かなくなった。


「先輩。すみませんがあなたを王国から飛ばします。」


 あー。信じたくないことが次から次に起こるな。落ち込む暇もないじゃないか。


「キール。誰に命令された?」


 キールが自分の意志でそんなことをするとは思えない。


「答えられませんが先輩なら想像つくんじゃないですか?」


「いや、思い当たる節が多過ぎてわからないな」


 実際成り上がりの俺には敵が多いと思う。


「まぁいいですよ。そもそも本気を出せばこの拘束も解けるんじゃないですか?」


 全力を出せば解けるかもしれないが、気持ちがついてこない。キールに命令したのが誰だろうと、失敗したら誰が危ない目に合うのかは容易に想像がつく。


「俺達が育った孤児院の子達が人質か?それなら俺も無理に王国に残ろうとは思わないな」


「先輩ならそう言うと思いましたよ。僕は悔しいですがそれに甘えさせていただきます」


 まぁこんなに色々なことがあって、それでも王都に居続けようという気にはならない。


「なんでも良いよ。それで何処に飛ばすんだ?」


「魔皇国の国境の街、ヴェルサスです。先輩なら何処でも生きていけると信じてます」


「魔皇国かよ。俺も行ったことないからどうなるんだろうな。やる気は起きないがなんとかするさ」


「おしゃべりはここまでにします。先輩は王国に反逆の意思があり処罰したことにするそうですので戻ってこないでくださいね」


 ここまで恨まれてたなら戻ろうとは思わないな、と苦笑いしながら言おうとしたが、もう目の前が光りに包まれていた。




 ◇


 それにしても魔皇国か。王国とは国交がないから詳しくはわからないが、着いてからどうするか考えよう。


 俺の周りにあった光が消えていく。どうやら着いたようだ。何かあったのか周りが騒がしいな。


 視界がクリアになり前方を見ると、ものすごい地響きと共に物凄い数の魔物がこちらに向かってくるのが見える。振り返ると魔物を迎撃しようとしている人たちが十人ほどいる。俺はその人たちに向かって声をかける。


「あの魔物って倒しても良い?」


 すると、一人の女性が返事をする。


「何を言っているんだ!あれだけの数の魔物を一人でどうにか出来るわけ無いだろう!」


 まぁ普通はそうだよな。でもこの人たちが逃げないのは、さらに後方に見える町を守るためだろう。ならば魔物を倒して怒られることはないだろうし災難続きで溜まった俺のストレス発散に付き合ってもらおう。


 そして魔物の方を向きながら両手に魔力を込める。俺の全力をぶつけてやる。完全に八つ当たりだけど。


「何で俺はこんな目にあってるんだーーー!!」


 魔物の中心辺りに魔力を飛ばし爆発を起こす。爆発の後に煙が立ち上り、その数秒後煙が消えると魔物達は一匹残らず消し炭になったようだ。


「ああ、思いの外スッキリしないな。」


 これくらいじゃ気分が晴れないのは当たり前だな。だがひとまず落ち着いて話が出来る状況にはなっただろう。


 まずは、ここにいる人と話をして今後の事を考えなきゃな。


「あんた。あれだけの魔物を一撃で消したのか?」


 さっきの女性が話しかけてきた。今いる人たちのリーダーなのだろうか?


「そうだ。あれくらいたいしたことはない」


 本当にたいしたことはない。戦争中はあれくらい耐える相手が多かったからな。


「目の前で見てたけど信じらんないな。こんなこと出来る人間がいるなんてな。まあ良いや、あれだけの魔物が出ることはめったにないんだけど、助けてくれてありがとう」


「別に助けようと思ったわけじゃないが良かったよ。ここに飛ばされていきなりあの状況だったからな」


「そうか、あんたいきなり現れたもんな。そういえば名前も言ってなかったね。あたしはヒルダ。この町の長の娘だ。あんたは?どっから来たの?」


 おお。いきなり町長の娘と会えるとはかなりついてるな。しかも他の人も敵意を向ける視線ではないみたいで助かるな。


 俺は簡単な自己紹介とここまで飛ばされた経緯をヒルダ達に説明した。王国から人が来るのは初めてのようで、今後どうするかは町長と話してから決めるとのことだった。まずは町長の所へ向かうとしよう。


 歩きながらヒルダに色々と質問をさせてもらった。キールの言った通りここは魔皇国と王国との国境沿いの町ヴェルサスで合っているそうだ。ヒルダ達は町の自警団のような存在で、町の北にある魔物が多く生息する山から時折降りて来る魔物を退治しているらしい。もっともあれだけの数が襲って来たのは初めてだそうだが。


「まさか兄さんがいないときにこんなことになるとは思わなかったよ。あたしの兄さんがこの町で一番強いんだけど、隣町に行っててね。ロイドがいなかったら大変なことになってたよ」


「被害がなくて何よりだよ。まずはヒルダのお父さんと話をして今後どうするか決めないとな」


 出来れば早目に住むところは確保したい。町を見渡すとそれなりに家が建っている。お世辞にも発展してるとは言えないが、住むには困らないだろう。


「あそこに見えるのがあたしの家だよ。先に伝令を行かせたからなんとなくは話が伝わってると思うけど、ちゃんと説明しなきゃね」


 俺はヒルダに返事をしながら、今後の生活のことを考えていた。

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