英雄ロイドの災難
デュナミス
第1話
俺が将軍をつとめる王国は東にある帝国と、長い戦争をしていた。
お互いに切り札を見せるのを嫌い、情報収集と小競り合いを繰り返し、メインである魔法騎士団同士の戦いは長い間起こらなかった。
魔法騎士団のトップである王国最強の五人組パーティに俺は所属していた。
守護騎士のジュリアス
大剣使いのミラ
魔法使いのキール
治癒術師のリアラ
そして、オールラウンダーでこのパーティを指揮する俺――ロイドの五人だ。
王国に攻め入る帝国が長い間国境の守りを突破することが出来ず、しびれを切らし帝国最強のパーティを国境攻めに投入した。
図らずもお互いの切り札同士がぶつかることとなった国境でのこの一戦の勝者が、この戦争の勝者になることを示していた。
かなり手強い相手だったが大きな被害を出すことなく帝国を退け、俺達は三年続いた戦争を終結に導くことが出来た。
これでようやく王都に戻り婚約者のイリアと正式に結婚して、幸せな家庭を築くという、小さい頃からの夢を叶えよう。このときの俺は夢の実現を疑うことなく王都へと向かっていた。
◇
長く続いた帝国との戦争を終わらせて王国に凱旋した俺に待っていたのは婚約者のイリアからの突然の別れの言葉だった。
「ロイドとの婚約を破棄させて欲しいの」
イリアの言葉に俺は茫然となる。
「イリア、俺達ならとても良い家族になれると思ってた。どうして急にそんなことを?」
イリアは申し訳なさそうな顔をして俯くが、返事をくれる気は無いようだ。
数分の沈黙のあと彼女が発した言葉は明確な拒絶だった。
「ロイド。もうどうしようもないのよ。わかってくれないかしら?」
その言葉にショックを受けつつも、今まで見たことがない彼女の様子から説得が無駄なのが分かってしまった。
そのまま彼女にかける言葉もないまま、俺の前からイリアは去っていった。
◇
彼女との出会いは、2年前のことだ。
その頃俺は王国の将軍になりたてで周りの貴族様達からの俺への感情はあまり良いものではなかった。
ある日の晩餐会でいつもの様に端の方で見つからないようにしてると、とても美しい女性が話しかけてきた。それが公爵令嬢のイリアとの出会いだった。
イリアは、平民出身の俺に対しても普通に接してくれて、その頃のささくれ立った俺の心を温かくしてくれた。
イリアと過ごす時間はとても心地良く、二人の距離が縮まるのに時間はいらなかった。
帝国との戦争が終わったら正式に結婚し、良い家庭を築いて行きたいと思っていたのだが…
イリアからの突然の婚約破棄で俺の小さい頃からの夢であった、家族で幸せに暮らすという夢は脆くも崩れ去ってしまった。
◇
「ロイド。元気出しなよ。世の中には沢山の女の子がいるんだからね!」
俺にそう言ってくれるのは、俺とともに戦争を終わらせたパーティのメンバーであり幼馴染のリアラだ。
「リアラ、ありがとう。だけどなんでいきなりこんなことになったのか、理由が分からないから、中々気持ちの整理がつかなくてね」
俺達は今、王都の馴染みの酒場にいる。
リアラが俺のことを心配して、食事に誘ってくれたのだ。あの突然の婚約破棄から一週間、未だに立ち直れない俺にとって、リアラのその気遣いが嬉しかった。
「うーん。それは私には分からないなー。私だったら、ロイドのお嫁さんなら喜んでなりたいくらいだから」
お互いだいぶ酔っているが、リアラは顔を真っ赤にしながら嬉しいことを言ってくれる。
「リアラは昔から本当に優しいな。お世辞とは分かってるけど嬉しいよ」
俺がそういうとリアラは頰をふくらませて何かを呟いたが声が小さくて聞こえなかった。
その時、周りの客の話し声が聞こえてきた。
「いやぁ、戦争が終わって本当に良かったな」
「ああ、そうだな。王の盾のみなさんのおかげだな」
「そういえば、今日、王の盾のジュリアス様と、公爵令嬢のイリア様の婚約が発表されたらしいな」
「そうなのか。戦争終結の英雄と公爵令嬢の婚約とは、こりゃめでたいな」
その話が聞こえてきたが、俺は信じることが出来なかった。ともに戦った戦友のジュリアスがイリアを奪っただと?
「リアラは知ってたのか?」
俺がそう聞くと、リアラは顔を曇らせた。
「私も今日知った。ロイドには黙ってようと思ったんだけど…。こんな形で聞かせちゃってごめんなさい」
「いや、リアラは俺に気をつかってくれたんだろう?気にすることはないさ。ただ、さすがにショックだからそろそろ帰るよ」
これ以上ここにいるのは辛い。早く帰って寝てしまおう。
「ロイド。大丈夫?家まで送ろうか?」
「ありがとうリアラ。俺は大丈夫だから、一人で帰るよ」
そう言って支払いを済ませた俺は一人で自宅へと向かっていた。
戦友の裏切りに恨みたい気持ちになるが、いまさらどうしようもない。イリアの言っていたどうしようもないとはこのことだったのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると、裏路地から見覚えのある男が出てきた。
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