ミドル6-2『第三幕:不協和音(2)』

GM:さて、キミたちは真実に辿り着いた。エイルがニュクス起動の鍵であり、キミたちと彼女の絆は作り物だったという、残酷な真実に。

 キミたちは壮一の情報権限を借りて調査を行なった。当然、得られた情報は壮一の知るところとなる。

 彼は即座に部隊を編成し、キミたちを引き連れてエイルの待つ3人部屋へと向かう。


壮一:「……失礼する。エイルさん、キミを拘束させてもらう。理由はご理解いただけるね」


 壮一の言葉が終わった瞬間、レインズの隊員たちが銃を構える。

 少しでも抵抗すれば容赦なく処断される事は、同じレインズである稀生たちであれば容易に想像出来た。


壮一:「……何か言っておきたい事はあるか。彼女が声を発する事は許さんが、多少の意思疎通くらいは認めよう」

稀生:「……待って下さい。やっぱり納得出来ません!」

 銃を向けられるエイルの前に、彼女を庇うように立ちはだかる。

「何か事情がある筈なんだ! それすら聞かずに銃を向けるなんて――そうだろ、エイル」

 振り返り、声をかける。

エイル:ゆっくりと筆談用紙を震える手に取って、悲しげな表情で書き記す。

『ごめんなさい。稀生。私、自分を守るために、あなたを』

 その言葉は情報通り、エイルが己の力を自覚していた事を示している。

マリー:「……そういう事なの、"ブロークンコンパス"。それにエイル、悪く思ってくれて構わないの」


 静かに告げて、マリーは壮一の横へと移動する。明確な立ち位置の表明。それは暗に、情報を壮一に密告したのはマリーであるという事実をも示していた。


稀生:「マリー、お前……!」

 相棒の行動に、俯いたまま呟く。

「どうしてだよ、マリー。エイルも、みんなも……どうして……ッ」

壮一:「世界を守るとは、そういう事だ。そこを退け、"ブロークンコンパス"」

 感情の伺えない声が、部屋に響く。

稀生:「……退けません。女の子1人も守れないのに、何を守れるって言うんですか」

マリー:「今ある世界、なの」

 淡々と、告げる。

「"ブロークンコンパス"だって見た筈。ニュクスによって引き起こされた、あの惨劇。

 レネゲイドの脅威から世界と日常を守る。それがUGN。それが、私たちに与えられた役目なの。

 たった1人の犠牲で、数え切れない人が救える。これは単純な足し引きの計算なの。

 そこを退くの、"ブロークンコンパス"」


 その言葉を耳にして、エイルは何事かを記し、稀生の肩にそっと手を置く。


エイル:『いいの、稀生。私は……呪われた子だから』

 全てを諦めたような表情。稀生の視線が、そちらに吸い寄せられた瞬間――。

壮一:「……"ブラッディメアリー"」

 邪魔者を無力化しろと、指示が飛んだ。

マリー:「了解、なの」

 直後、隊長の側に立っていたマリーの姿が崩れて血溜まりへと変わる。

 本人だと思っていたその姿は、血で造られたマネキン。簡易的な従者だったのだ。そう気付いた稀生の背後には、隠密状態を解除したマリーの姿。

「言ったはずなの。悪く思って構わないって」


 銃把じゅうはで稀生の後頭部を強打する鈍い音が、部屋に響く。


稀生:「――ッ……エイ、ル、逃げ――」

 意味を成さない呻き声を最後に、視界が暗転する。


GM:無力化された稀生と、使命を果たしたマリー。

 力なく項垂れ、エイルは2人の前を連行されて行く。一瞬、キミたちへと視線を向けるも……その口から、声が発される事はなく。

 全てが終わった3人部屋には、『おかえりなさい!』と記された筆談用紙が、寂しげに落ちているだけであった。

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